オランダで教わった「お得さの説明方法」
残念ながら、2年前に重度の心臓弁膜症でビジネスを続けられなくなったオランダのバイヤーさんへの感謝を、今も思い出すことがあります。
彼は優秀な数学者でありながら内面は詩人であり、極真空手を愛する武道家であり、禅と陶磁器を愛する親日家でした。
彼に教わった数多くの事柄の中で、特に「日本企業はここにもっと注力すべきだ」と何度も強調されたことは、「数字で製品の優秀性を説明してほしい」という要望でした。
彼は食品、機能性素材、アウトドア用品が好きで、アムステルダムでショップを回り、登山靴、非常食、欧州で人気のEDC(Every Day Carry)タイプのドライフルーツなどを手に取っては、耐久性、安全性、可食回数、形態手段などあらゆる要素を数字で分かりやすく語ってくれ、私はいつもその着眼点と計算の速さに驚かされました。
産地を丸ごと隷属させ、大量生産で画一的な商品を作る欧米大手食品メーカーの横暴さを嫌う彼は、日本の地方の小さな生産者や製造者の「こだわり」という概念が好きで、つとめて九州の名品を探し、輸入しようとしてくれましたが、地方の小さな調味料、乾燥粉末、果汁、果皮、出汁の製品を手に取った彼から最初に出てくる言葉は、いつも、「どうして日本の食品や飲料は、いつもこうなんだ?」という疑問でした。
「我々バイヤーは、観光客でも主婦でもない。我々は日本文化を愛し、日本の技術を尊敬するが、made in Japanを買うのは日本製品でビジネスをして儲けたいからだ。その、儲けるために不可欠の数値情報が、日本の中小企業の製品には欠落している」
例えば「手作り、濃厚、純正、旬をまるごと」と謳う生姜蜂蜜なら、12オンス(約340g)の瓶から、欧州のカフェやホテルで標準的な240mlのマグカップ換算で、何杯の紅茶が作れるのか。バゲットに塗るなら容積何mlのスプーンで何枚塗れるか。ドレッシングに混ぜるなら、何mlを何度のお湯で希釈したら、バルサミコ酢のように際立つか。
彼にとっての数値は、費用対効果の根拠というより、買い手と消費者を楽しませるため売り手が責任を持つべき商品情報の一部で、彼は複数の数値を掛け合わせれば、相手が「必ず得する」と納得する組合せや食べ方を提案し、質問し、要求しました。
我々日本企業は、儲けること以前に、バイヤーに「儲けさせること」にこだわるべきでしょう。
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