④自損型輸入は、なぜ、どのように恐ろしいのか?
「安いニッポン」、「失われた30年」、「一人負けの日本」という暗く単調なフレーズが世論に頻繫に登場するようになり、私たち一般庶民も自国経済に自信を失いつつあります。
昨年からは、ロシアによるウクライナ侵攻の影響で原油や小麦の国際相場が値上がりしたことから、物価上昇が国民生活に影響を及ぼし始めたことから、賃上げに踏み切る企業も出てきました。
しかし、実体経済の成長に裏付けられない賃上げは、希望からの賃上げではなく、不安への対処としての賃上げにすぎず、まっとうな収益向上の見通しが立たない状況の中で賃上げに躊躇し、賃上げを恐れる経営者も少なくありません。
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先日4月2日(日)に、NHKスペシャルで「ジャパン・リバイバル “安い30年”脱却への道」という番組が放映され、『コスパ病』の読者の方々から私に、番組の内容に対する感想が寄せられ、「賃上げの根拠が見えない番組でしたね」、「『コスパ病』を読んだら、もっと具体的で建設的な対策が出るのに」という声を聞きました。
「賃金と自損型輸入の関係」を理解するため、早い時期から自損型輸入が行われ、輸入依存率が驚異の97%となったアパレル業界を事例に、「自損型輸入は、なぜ、どのように恐ろしいのか」を考えてみましょう。
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例えば、日本製の原材料を使用し、日本国内の製造拠点で日本人が製造するジャケットの小売価格が「1着=3万円」で、そのうち販売店の利益率が40%(1万2,000円)だとします。
販売店に卸すメーカーの卸価格は「1着=1万8,000円」で、このうち40%(7,200円)が利益だとすれば、このジャケットが月に100着売れた時、販売店は「300万円」の売上の中から「120万円」の利益を獲得し、メーカーは「180万円」の売上の中から「72万円」の利益を獲得します。
ところが、ここに、このジャケットとデザイン、品質も変わらないジャケットを、バングラデシュの縫製工場に製造技術や品質管理手法を教えることで、「1着=2,000円」で作り、自社製品のみを販売する「製造小売(SPA)」の店舗で、「1着=9,800円」で輸入販売したら、どうなるでしょうか。
仮に、このジャケットが月に100着売れたら、この店舗は「98万円」の売上の中から「78万円」の利益を獲得できます。
ここで驚くべきことは、ジャケットが100着売れた時の取引総額(経済規模)が「300万円」から「98万円」に減少しているのに、逆にメーカーの利益は「72万円」から「78万円」に増加している、という反比例現象が発生していることです。
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かくして、業界でたった一社でも、自損型輸入に手を染める業者が出現すると、他の国産企業は「売価の差額2万円」を削減する「引き算経営」を強要され、利益率はもちろん、人件費、デザイン料、原材料費、広告宣伝費、家賃、光熱費などあらゆるコストを削らなければ、競争力どころか、自社の存続までも危うくなってしまいます。
このような経営環境に支配された国産メーカーやショップは、ファッションが大好きで、服を愛し、好みの装いでお客様の人生を豊かに彩るお手伝いをしたいと夢見てアパレル業界に就職した社員に対し、賃上げを行うのは至難の業です。
十分な利益を見込めない経営では、本社所在地への納税額も当然ながら減少しますから、もしその町が衣料品の製造を産業基盤にしている町の場合は、住民サービスの低下は避けられないでしょう。
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低価格販売が常態化した業界では、社員に十分な給料を支払うのも難しく、それ以前に正社員として働くのも難しくなる場合があり、そうした地域では結婚や出産が遅くなるか、または結婚や出産そのものを諦めるケースも出てくるかもしれません。
自社が手掛ける服の素材、技術、デザイン、道具に誇りとこだわりを持って働いてきた親の背中を見て育った子弟たちも、親の姿に感謝し、尊敬はするものの、家庭でもその苦労を見てきたために、「親の後を継ぎたい」とは思わなくなり、後継者確保も難しくなります。
しかし、事業を存続させなければ、雇用そのものが失われ、衣料品を供給するという自社の使命も果たせなくなることから、技能実習生に依存した製造を選択するほかなくなります。
これらの「低賃金、賃上げ困難、税収低下、雇用の不安定化、晩婚化、少子化、後継者不足、人手不足」といった諸現象は、現在のわが国では個々の問題が別個の問題として扱われ、ゆえに相互に関連性が薄い個別の対策が図られていますが、その前に、「自損型輸入商品の氾濫によって失われた『差額2万円という財源』があれば、これらの問題をもっと早く上流で食い止められ、効果的な対策を打てた」という事実を指摘する人はいません。
ところが、売価や賃金を上げられない経営者と、給料や可処分所得が上がらない消費者は、自社と自分をそのような窮地に追い込んだ自損型輸入商品を、「コスパ最強、プチプラ歓迎」と叫びながら買い漁り、さらに自分の首を絞めていくという、この病的な消費活動…。
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以前、秋葉原で人混みにレンタカーで突入し、通行人をナイフで刺した痛ましい事件があり、「拡大自殺」という言葉が登場しましたが、自損型輸入業者が日本経済に対して行っている行為も、まさに「企業版の拡大自殺」ではないでしょうか。
「人件費の安さ」を経営における最優先の条件とした時点で、いずれ削れるコストがなくなって破たんすることは目に見えています。
だったら、自社だけが破産するのは悔しいから、どうせなら業界全体を巻き込んで、シリアルキラーのように、手当たり次第に「低価格」というナイフで同業他社を刺しまくり、「売上と利益の出血多量」という傷を負わせて、自国、自社が属する業界、自社が育ててもらった産地にまとめて損失を与え、玉砕のような共倒れの道連れにする・・・。
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この自壊的、自滅的、自殺的な悪しき経済活動を食い止められるのは、「消費者の意識改革」しかなく、それはすなわち、私たち消費者が「コスパ病」を自覚し、治療し、これまで「お得で賢い買い物」と妄信してきた買い方を見直して、一円でも、十円でも自分のふるさと、近隣の町、そして日本にお金が還元、循環する消費活動を盛り上げていくほかありません。
上司、部下、取引先の方々と一緒に『コスパ病』を読んで、一緒に動き始めましょう!
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