海外向け価格を考える際に、忘れがちな基本とは。
輸出に一つの活路を求めて、私が作成した各種のお役立ちツールを利用しながら海外展開の準備を進める企業様から案外多い質問の代表が、「海外向けには、いくらで売ったらいいでしょうか?」という素朴な質問です。
地方の中小・零細企業には、地域の有力企業や大手の調達専門子会社からの下請けで、言われるがままに出荷してきた経験しかない企業や、JAに出荷したらその先は分からない、という農家も多く、いざ自分で売るとなったら、何をどんな理由で、いくらで売ったら適切なのか、価格設定に戸惑う企業も少なくありません。
まず、ゼロベースで考えてみれば、「売りたい価格を自分で決められること」は良いことです。
海外市場といえども需要と供給の力学は当然作用しますが、より需要が高いセグメントを設定し、より供給が不足しているカテゴリの情報で自社商品を武装できれば、コモディティ的な相場の価格競争に巻き込まれて値下がりするリスクを避けやすくなり、より価格設定の自由度が高いブランド的なポジショニングで投入しやすくなります。
だから私は、上記の質問を受けたら、「輸出で本質的に何を行いたいか」だけにシンプルに思考を集中してもらうべく、「本当は、いくらで売りたいですか?」と逆質問を行い、「分からない」、「市場調査していない」、「その国の相場を知らない」という言い訳を聞き流して、価格設定の主権を取り戻して自主的、創造的に価格を考え、設計してもらうお膳立てとなる質問を繰り出して、「思考を整理するお手伝い」をします。
すると、自分では「海外展開したい」と言いながらも、実は日本で売れにくくなった在庫を海外で捌きたいだけ、実は「値下げ要求」しか来ない日本で事業を展開する未来に意欲を失っただけ、という場合も少なくありません。
こんな消去法的な発想で海外市場がきちんと見えるわけがありませんから、「自社の難局打開」、「地域活性化」など、顧客に無関係で無意味な動機に基づく思考を捨て、純粋に「仕事は相手の問題解決であり、わが商品はその解決手段だ」というシンプルな常識に立ち戻って、希望価格を自分で決め、それが成り立つ理由を求めて市場調査を行ってこそ、やりがいのある事業計画を構築できます。
つまり、価格に対する正しい問いは、「設定した希望価格で売るためには、どうしたらいいか?」であるべきなのです。