日本人とがん
今も日本人にとって最もつらい病気!?
おととい2月4日は、「世界対がんデー(World Cancer Day)」でした。朝日新聞でそれに関する各種記事があり、あらためてがんという病気の怖さや、患者や家族に与える影響の大きさを考えさせられました。
私自身も過去にがん患者の家族という立場を味わいました。その時にがんという病気に対して「無知」でいることの怖さと、事後における大きな後悔を味わいました。
がんは、日本人にとって特別な病気というイメージもあったので、私もそこからがんに対して学び始め、がんそのものもそうだし、がんとかかわるさまざまな事に関心を持つようになりました。現在もその知識を高めながら、自分の生活習慣の改善に取り組んでいます。
がん患者さんは懸命に社会復帰を目指している
その朝日新聞の記事で、芸能人の堀ちえみさんの事例が取り上げられていました。今年1月7日(火)にもテレビを見ていたら、堀ちえみさんが、ステージⅣの舌がんの治療を乗り越え、出演していらっしゃったのを見ていたので、興味深く読んでみました。
舌の約60%を切除する手術をされたとのことで、以前のようにしゃべることができなくなっているそうです。それでも相当なリハビリを頑張って回復してきているそうです。涙を流しながら、闘病中のこと、家族とのことを語っておられて、今家族と一緒に過ごしている幸せを感じていらっしゃるのだと思いました。10代20代7人のお子様もいらっしゃるそうで、無事に手術が終わり、お子様たちも安堵したことと思います。
その記事の中で、堀さんが訴えていたことは、
「がんは絶望的な病気ではない」
ということ。先月テレビで拝見した時は、まだ歌を歌うということは困難な雰囲気でしたが、記事の中では、再来年がデビュー40周年で、その時にライブで歌声を披露することを目標に現在もリハビリに取り組んでいるそうです。
こうしてご自身のつらい状況をあえて披露することに関して、堀さんはやはり日本社会における、がん及びがん患者に対する誤った見方があるということをおっしゃっています。
「がん=死」とか「がん=絶望的」といった、おそらくいまだ多くの日本人に植え付けられているイメージが、がん患者さんの治療後、場合によって治療中の復帰に対して、壁となっている可能性があります。堀さん自身も
「がん患者は家でおとなしくなさい」
という趣旨の言葉をぶつけられたことがあることをおっしゃっていました。
その言葉を、悪意を持って差別的に発しているのならば問題外ですが(もちろんいいことではないのですが)、そういった言葉を発する人の中には、
「がんなんだから無理をしないで治療に専念してね」
といった、悪気はなく発せられる言葉も多いのだと思います。
ただ、社会復帰を目指して希望を持ってがんと闘おうというしている患者さんにとっては、「社会復帰」を前提からはずされた言葉として、刺さるのかもしれません。
がんは、以前と比べ、早期で発見できるようにもなっていますし、新しい治療方法もたくさん出てきて、治療の選択肢も増えています。30年前と比べると、本当に「がん=死」ではありません。そしてがん患者は日本では増え続けている。そういったがん患者さんが、がんを克服して社会に復帰しやすいための体制や雰囲気を作っていくことが大切ですし、差し当たりは、家族や周囲の人ががんに対して正しい知識を持ち患者さんの思いに寄り添うことが大切なのだとあらためて感じました。
これからの日本、そして社会インフラの在り方は…?
一方別の記事において、60代で非正規社員として宅配便会社で働く60代女性のがん患者さんの事例も出ていました。
4年前に悪性軟部腫瘍で、右おしりから太もも、ひざ裏にかけて筋肉を切除。現在も足を多少引きずりながら歩いているとのこと。その状態で、職場では荷物の配達を行い、いまだに傷が痛むことも。
昨年乳がんも見つかり、手術。医者からは引き続きの抗がん剤治療を勧められたそうですが、健康保険の高額療養費制度を使っても、月の負担が厳しく、結局抗がん剤治療は断念。その際に、貯金も有給休暇も使い果たしたそうです。
1,000円少々の時給で週5日の勤務。手取りは月に11~12万円程度で、家賃が6万5千円。また、万が一仕事を休むと、給料はその分減ってしまう。
がんに関しては、現在ホルモン剤を服用しながら、3か月に1回検査を続けているとのこと。
「もし再発、転移が見つかっても、仕事を休んで入院するのは無理」
ということもおっしゃっています。この方は、家族と言える人がいらっしゃらず、手術を受ける際の保証人も偽名を書き、手術当日の立会人がいないことを病院から叱られたそうです。
現在家族の在り方やライフスタイルの多様化で、いわゆる「おひとり様」と言われる方も増えてきています。それと同時に、長寿化が進み、家族単位でなく自己責任で自分の生活を全て(ここでのがん発症のような突発的な出来事も含め)対応していく準備がなければ、普通の生活自体を送ることが困難となってきます。
この事例の女性も、生活保護を受ければ医療費が無料となるため、抗がん剤治療が受けられるといった案内を受けたそうですが、現在つながっている 社会(会社)と切れてしまうことを危惧し、あきらめたそうです。
こういった状況、そしてますます加速していく人口減少と高齢化に対して、国も何らかのデザインを描いていく必要があると思います。まあ国会を見ると、いまだに「桜の会」でピーチクパーチクやっていますので、国に期待するばかりではなく、同時に自己責任での準備も考えなければならないと思います。
「がんへの備え=がん保険」は危険!!
何度か申し上げましたが、日本ではいまだに「がん=死」というイメージを持った方が多くいらっしゃると私は感じています。私ももちろんがんで死にたくありません。
ただ言葉は悪いのですが、死んでしまったらその後はなんの苦労もありません(死後の世界について、私は詳しくないので、こう言わしていただきました)。もちろん世帯主が亡くなってしまい、家族が経済的に困るということはあると思います。
しかし、亡くならずに治療やリハビリが継続する状態、またしばらくした後に、再発や転移といった再度の闘いとなった、がんとの長い付き合いとなったケースの方が、家族の負担は間違いなく大きいですし、がん患者本人も、家族に負担をかけ続けていることに苦しんだりします。
そして、がんの診断を受けた場合、後者のケースの方が増えてきています。ですから、これだけ国民病として認識がされているがんに対しては、元気なうちに一定の準備をしておくことが大切だと思っています。
では具体的に何をするのか?多くの方は、
「がんへの備えで、がん保険に入ろう!!」
と発想されるのではないでしょうか。もしくは、
「自分はがん保険に加入しているから安心!!」
というように思われるのではないでしょうか。保険は私の専門分野です。 ここではがんがテーマなので、保険については詳しくは述べませんが、 少なくとも
「がん保険でがんへの備えが安心!!」
ということはあり得ませんので、注意してください。さきほど述べた60代女性の方、あの方がもし、一般的ながん保険に加入していた(記事の文面より保険未加入と推察しました)としたも、一定の治療費については給付を受けることができたでしょうが、例えば入院して仕事を休んだ分のお給料については、がん保険は助けてくれません。
私はがんとお金の話に関して、一番注目すべき点は
「就業不能で稼げなくなる」もしくは「稼ぎが少なくなる」
ということだと思っています。がんは以前と比べ、間違いなく亡くならなくなっています。ただし、命を取り留めた方の全てが、がんになる前と同じ状態で復帰ができているかというと、決してそうではありません。
ですから、簡単に言うと、資産を築いておくことが大切ですし、また可能であれば、自分が働いているところからもらうお給料とは、別の収入減がある状態が望ましいと思っています。
もし仮に、生命保険で備えたいならば、がんの治療費を払ってくれる一般的な「がん保険」ではなく、がんの診断を受けた瞬間に、まとまったお金(私は1,000万円くらいがいいと思います)がもらえる、もしくはその後の収入減を補填してくれる保険が望ましいと思います。
そういった意味で、まずは「お金の確保」というところではありますが、でもそれと同時に大切なこと(私は必須と考えてます)が、
「学ぶこと」
だと思っています。何を学ぶのか?
がんという病気に詳しくなれば良いかというと、それもそうなのですが、それだけでは不十分だと思います。例えば、がんになった時に、
・その時代にどういった治療の選択肢があるのか
・自分がどういった治療を受けたいのか
・それには費用がいくらかかるのか
・国の制度にはどんなものがあるのか
・主治医の先生と治療についてちゃんと話ができるか
それ以外にも、
・そもそもがんにならないために何が必要か
・がんになる原因は何が大きいのか
・家族ががんになったらどうすべきか
・自分の人生の仕舞い方をどうするか
などといったことがあると思いますし、他にもたくさんあると思います。
私も過去そうでしたが、日本人は医療に関する教育を受けておらず、いわゆる医療リテラシーが非常に低いと言われています。基本的に理解できないまま、主治医の先生の言ったとおりに身を任せます。多くの方が、大病院へ行けば、お金を積めば、どんな重い病気も治してくれるというイメージをお持ちではないでしょうか。スーパードクターとかゴッドハンドがなんでも治してくれる。だからお金があれば、なんとかなると思っている方が多いと感じています。
私はがんに関しては、そういう医者は、それほど重要ではないと思っています。自分で自分のがんと向き合い、お金の心配なく、自分で治療の方針を定め、残りの人生を前向きにがんと共生していく。是非そのための準備を、多くの方が元気な時に行っていただくことを望んでいます。