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一般社団法人 京都生命科学研究所の実現(持続)"不”可能性【資金編】

2025.01.15 Ver. 1.0 初版


はじめに

2020年初頭から始まり,今現在も継続中のコロナ禍(コロナパンデミック)に於いて,最も(良くない意味で)有名になり,転落した『研究者』と言えば宮沢孝幸氏であろう[1].
宮沢氏は2020年当時,京都大学の附置研究所であるウイルス再生医科学研究所の准教授としてSNS等で発信を始め,Twitterでいわゆる『バズった』事により注目を集めた.
その後,多くのデマゴーグと組み始め,新型コロナウイルスや新型コロナワクチンの誤情報を多く発信した*.その影響もあってか,2024年5月に京都大学側から任期を更新しないとの審査結果を受け,京都大学を退職するに至ったようである[2].

そんな宮沢氏は退職後に『一般社団法人 京都生命科学研究所(略称: AHOI)』なる法人を立ち上げ,そこの代表理事として活動することになる.
このnoteでは『一般社団法人 京都生命科学研究所』の実現可能性,と言うか持続可能性について考察していきたい.

*どんな誤情報を流したのか.何故間違っているのか,需要があれば(= この記事の『スキ数』が10増える毎に)別の記事として公開していく.

一般社団法人 京都生命科学研究所の概要


まずは『京都生命科学研究所』の概要を調べてみる

法人番号指定日: は2024年5月29日
代表理事: 宮沢孝幸
登記上の住所は 京都市にあるQUESTION内

とある[3], [4].
QUESTIONというのは京都市の河原町御池にある,京都信用金庫河原町支店を有するビルで,いわゆるレンタルオフィスである.

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000023.000086001.html

そう,登記上の住所ではいわゆる(生物学実験を伴う)『研究』はできない.後述するが,研究(実験)可能なスペースを賃貸契約するそうだ.

クラウドファンディング

そんな中,宮沢氏は『クラウドファンディング』を始める.
題目は「研究室を再建し、犬や猫などの伴侶動物の健康寿命を延ばしたい!」[5]で,目標資金は1500万円(最終ゴールは5000万円)とのことだ.
リターンがしょぼいとか,そう言ったことは個人の価値観に大きく依存するのでここでは言及しない.
クラウドファンディングのページにある,調達資金の使用目的やタイムスケジュールは以下のようである.

研究スペース賃料(1年間+敷金) 800万円
ドラフトチャンバー(設置費込み) 250万円
バイオハザードキャビネット(設置費込み) 200万円
改装費 250万円
実験台、机など 200万円

2024年10月22日 クラウドファンディング開始
2024年11月 研究室スペース改装工事開始
2024年12月 既存機材の搬入・セットアップ
2025年2月 新規研究機材の購入
2025年3月以降 新規研究機材の搬入・セットアップ
2025年4月 研究スタート
2025年7月 第一回京都生命科学研究所総会にて進捗状況を報告

2024年12月31日時点で,既に改装工事の予定が2ヶ月以上遅れているようだ[6].12月末時点で許可を取るまで更に2ヶ月ということは,3月以降に工事開始だろうか.当初予定から4ヶ月もの遅れだが,クラウドファンディングのページ[5]にはその旨を隠し「年内に改装工事を行います」とだけ記載し,終了時までその状況報告は一切無かった.クラファン終了日になって初めてX(Twitter)上で工事のさらなる遅れに言及したのである.

年内に改装工事を行う旨の記載はある
現在の状況には「11月に賃貸契約を完了し、改装に取りかかる予定」と記載

このような『進捗の遅れ』の未報告は一般には不誠実とみなされるのだが,支援者は気にならないのだろうか.

しかしそのような不誠実な状況の中でも驚くべきことに,第一目標の1500万円は突破し,最終目標の5000万は届かなかったが,4000万円の寄附を集めることに成功した[5].どんな奇特な人がお金を出しているのだろう.
尚,手数料を惹かれた後の取り分は約3300万円である[7].

そもそも,何が驚きかと言うと,研究を続けていくうえで必要なモノ・カネ・ヒトがチョットダケワカル人間からすると今後の持続可能性が極めて低いと感じるからだ.
要するに,こんな脆弱な状態で研究なんてできるんか?と言う疑問である.以下にその理由を述べていく.

本編 ~ 資金の持続”不”可能性

大学や企業等の研究機関に所属しないということは,そう言った機関に所属している時にはあまり意識せず,当前のように利用できていたリソースが使用できなくなると言う事だ.
意識せずに利用できていたモノ,つまり所属した時点で研究機関からほぼ対価無く与えられていたもの,の例としては

  • 研究・実験場所(最悪自宅でもできなくはないが,生物学的実験の場合には許可などの関係もあり不可能に近いだろう)

  • 研究機関共通利用機器(組織構成員ならば申請すれば誰でも使える機器.高価なものも多い)

  • 人的リソースの一部(いわゆる事務の人や,学生)

  • 文献関係(オープンアクセス化が進んでいるとは言え,契約していないと読めない論文もいまだに多い)

パッと思い浮かぶだけでもこれだけある.研究機関に所属しなければ,これら全て『自前で』『お金を払って』準備しなければならない.

仮に『場所』がクリアできたとしたら次は研究機器の調達である.
クラウドファンディングのページには,調達資金で以下のを調達したいとの記載がある.クラウドファンディングに記載されていた資金用途として挙げられていたのは

研究スペース賃料(1年間+敷金) 800万円
ドラフトチャンバー(設置費込み) 250万円
バイオハザードキャビネット(設置費込み) 200万円
改装費 250万円
実験台、机など 200万円

合計1700万円である.その他の研究資材はさらに3000万円必要で,不足分は自己資金も投入するとのことだ.
と言うことで,最低限一通りの『実験』ができる環境を整えるために,宮沢氏の元研究室に存在した機器[2]を中心に,追加で『必要なもの』を思いつく限り上げていく.

  • 生物実験には欠かせない超純水装置(Merck社のMilli-Qが一般的だが,Pall社などの他社製もある)
    試薬の調製・洗浄何をするにしても必要になってくる

  • 細胞培養のためのCO2インキュベータ
    細胞を一定の温度・湿度・二酸化炭素濃度を維持して培養するためには無くてはならない

  • 遠心機も必要だろう
    タンパク質生成(をするのか知らんけど)から細胞の継代,様々な場面で様々な”サイズ(対応容量)”のものが必要である

  • 大腸菌等を培養するバイオシェーカーや分光光度計もサーマルサイクラー(PCR装置)もオートクレーブ(高圧蒸気滅菌器)も乾熱滅菌器も要る

  • 試料保存のための冷蔵・冷凍庫もディープフリーザも必須である

  • 場合によっては細胞長期保存用の液体窒素もいるかも知れない

  • 顕微鏡も要る

  • 蛍光観察なども行うなら蛍光顕微鏡一式も必要だ(普通の顕微鏡と蛍光顕微鏡は共通化できなくもないが通常は別途用意する).

それなりに大きな物品でこれだけある.
細かいものだとマイクロピペット一式やボルテックスミキサなんかもなくてはならないし,消耗品も必要である(紙類,プラ・ガラス器具など).

これらのものは"研究機関に所属していれば”共通機器として使えるものもあるかもしれないが,多分レンタルラボではそのような共通機器は無いだろう.自前で研究室()を再建するのならば『最低限度』一式でこれだけ必要なのである.

上記の物品の,それなりに高額だと思われる装置にいくらかかるか概算してみよう.おそらく"割引”(大口割引)はしてくれないと思うので,カタログ価格でざっくりと計算してみる.
選んだ機器は特に理由は無い.あくまでも一例である.

Merk Milli-Q(Milli-Q IQ 7003 バイオタイプ): 2,998,000円[8]
CO2インキュベータ(CO2インキュベーター E-50): 570,000円[9]
遠心機(卓上): 数万(省略)
遠心機(据え置き)(himac CF5RE): 906,000円[10]
遠心機(培養細胞用)(himac 5072): 288,000円[11]
バイオシェーカー(Eppendorf Innova 40): 1,771,000円[12]
分光光度計(ヤマト科学 U-5100): 900,000円[13]
サーマルサイクラー(Eppendorf MC X40): 941,000円[14]
乾熱滅菌器(ヤマト科学 SK401): 254,000円[15]
ボルテックスミキサ: 57,950円[16]
オートクレーブ(トミー精工 LBS-245): 590,000円[17]
冷凍庫(日本フリーザ ): 170,000円[18]
冷蔵庫(日本フリーザ ): 330,000円[19]
ディープフリーザ(PHC MDF-DC102VH): 690,000円[20]
顕微鏡'(細胞観察用)(Olympus CX33): 289,000円[21]
顕微鏡(蛍光観察): 数百万(省略)

省略したものを除いても約1100万である.機材のグレードによってはもっとかかるだろう.

それに加えて備品・消耗品も調達しなければならない.ピペット(ギルソンのピペット1つが5万円くらい[22]),チップ,細胞培養液等を始めとする各種試薬,培養用CO2ボンベ,キムワイプ,ディッシュ(培養皿)等の紙/プラスチック製品などなど.

思いつくままに記載したので,一覧から漏れてしまった機器もまだあると考えると,確かにあと3000万(合計4700万)円必要と言うのも頷ける.

ともあれ,これでクラウドファンディングで手に入れた3300万のうち,1年目の場所代と主要な機材類で2800万円を使用した.

研究をするには当然人件費も必要である.
研究者が1人(= 宮沢氏)だけだったとしても,何らかの収入は必要であろう.
在職中の給与平均を当てはめれば宮沢氏の年俸は約900万/年程だろうか[23].

もうすでに資金が足りてないが,『研究所」が軌道に乗るまでは宮沢氏は無報酬で,著書の印税や講演会の収入やらで食いつなぐのだろうか.

研究に携わる人が宮沢氏1人なら講演会()はする余裕はほとんどない(一人で研究して講演会三昧など絶対にできない,そんなに研究は甘くない)はずだから他に誰か雇用することになると,雇用した人数分の人件費が当然かかってくる.
時間雇用のバイトにしろ,正規に労働者として雇用するにしろ,1人あたり数百万は必要になるだろう.前述の資料[23]によれば,特定研究員の給与は平均約460万/年だそうだ.
なるほど,1名だけ雇うのなら,もしかしたら足りそうな気もしなくもない.
1年目だけは.

2年目以降にかかるコストを考えてみよう.

一般社団法人にかかる税金
レンタルオフィス(QUESTIONの分)[24]: (22000 + 5500) x 12 = 33万/年
研究スペース賃料(2年目分): 800/13 x 12 = 740万(簡単のため敷金は家賃1ヶ月分と仮定)
研究スペースの水道光熱費: 120万円?(月平均10万円と仮定)
各種雑費・消耗品: 数十万~約100万?(どれくらい"精力的に”研究するかによって変わってくる)

特段何もしなくても税金や賃料,光熱費合わせて年に約900万円は固定費として消えていき,研究を行えばそれに加えて『各種雑費・消耗品』が増えていく.
そしてこれに『研究員』の人件費(460万/年・人)も必要になってくる.
つまり,”900 + 460*(雇用した人数)” 万円必要である.

さて,収入の面はどうだろうか,宮沢氏によれば,運転資金は寄附等を除けば主にニコニコ動画と有料ブログの収入でまかなうそうである[25].
これをザックリと見積もってみよう.

クラファンに寄付した人(1184人)が,全て月額550円のニコニコチェンネル,月額660円のfoomiiに登録していたとする(もっと多かったらごめん)
そうすると,月の収入は

ニコニコチャンネルの収益: 550円 x 1184人 = 65.12万円 ,手数料等[26]が引かれて43.46万円
foomiiの収益: 990円 x 1184人 = 78.144万円,手数料等(2割と仮定)が引かれて62.52万円
合計: 約106万円

年間収益にすると約1272万円となる.
上に述べた人件費を除く想定固定費900万を差し引くと残り372万となり,宮沢氏はおろか研究員1人分の給料もまかなえない.
大雑把な見積もりだが,それほどかけ離れてもいないだろう.

もちろん誰かが高額寄附するかもしれないし,課金コンテンツが絶好調で収益が倍増するかもしれないが,自転車操業であることに変わりはない.
上記で想定した経費等は,想定する『最小・最低限』での維持費である,これにソフトウェア代や出張費やら論文閲覧・出版費用やら,機器のメンテ代やらも数十,百万単位で上乗せされる事を考えると,頭が痛くなってくることだろう.
研究所を運営する限りこれが毎年続くのである.

おまけ ~ 人材の持続"不"可能性


研究員を雇うとなっても,人材が集まるかは大いに不安である.
何故ならば,一般社団法人京都生命科学研究所は

科学研究費補助金研究機関番号を有していない[27]

機関番号が無いということは,研究費取得に大きな制限がかかる事を意味する[28].少なくとも文部科学省の科研費は申請できないはずである.

公的研究費が取れないだけなら良いじゃないか(寄付やクラファンで賄えるなら),と思う人もいるかも知れない.しかし,今後もアカデミアで研究者としてやっていこうと考える人が『科研費の申請ができない研究所』で研究したいと思うだろうか.研究者キャリア上では空白期間とみなされかねない.
いや,俺はアカデミアは見限ったんだ,この研究所の理念に賛同してアカデミアには戻らないつもりで研究をするんだ!と言う奇特な人雇用するにしても,もう少し資金基盤を盤石なものにする必要があるだろう.

まとめ

  • 宮沢孝幸氏は京都大学を退職して「研究室再建」(本人談)のため一般社団法人を立ち上げた

  • クラウドファンディングを立ち上げ約3300万(手数料等引かれた後)の資金調達に成功

  • クラファンページに記載の物品だけでは研究は行えない

  • その他必要不可欠な物品,経費等を勝手に見積もってみた結果,クラファンで調達した資金だけでは(少なくとも2年目以降は)足りなそう

こういった(相当甘く見積もっているが)資金的,人的課題をどう解消していくのか.大口スポンサーが見つかった(or これから見つける)のか,ニコニコチャンネルや有料ブログサービスfoomiiの収益で足りるのか,それは宮沢氏本人にしか分からない事ではあるが,現時点では持続可能な研究活動にすることは相当困難と言わざるを得ない.
支援者の方々は今後もきっとさらなる援助を求められるに違いない.

次回は研究テーマ「犬や猫などの伴侶動物の健康寿命を延ばしたい!」の持続"不"可能性について考察していく.

有料部分はただの参考文献である.
万が一,参考文献を見たいと言う変わった人がいれば参考にしてください.
自力で調べられる人には不要なものです.

参考文献

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