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【実行団体紹介】NPO法人ユナイテッドかながわ(神奈川県大和市)
本記事では、2020年度の休眠預金活用事業「外国人と共に暮らし支え合う地域社会の形成」事業を経て実施した「外国人と共に暮らし支え合う地域社会の形成2」事業の実行団体について、ご紹介しています。
取組紹介内容:多国籍団地支援プロジェクト
1)プロジェクトの背景
神奈川県最大の公営住宅であるいちょう団地は1971年(昭和46年)に建てられました。以後、増改築を行い、現在は横浜市側のいちょう上飯田団地が48棟、大和市側のいちょう下和田団地側が27棟で構成され、戸数は横浜市側が2,233戸、大和市側が1,263戸と横浜市側の規模が大きく、いちょう団地に入居が開始された1973年当時、入居者の大半は日本人でした。
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1980年2月から1998年3月まで、南林間に大和定住促進センターが設置され、インドシナ(ラオス、ベトナム、カンボジア)難民の方々への日本への定住支援が行われ、インドシナ難民の方々が同センターにて日本の生活について教育を受けた後、いちょう団地を含む隣接地域への定住を開始しました。その後、近隣の厚木市や海老名市にある自動車関連メーカーに職を求める中国や南米の出身者も集まってきました。現在、団地には中国、ベトナム、韓国・朝鮮、カンボジア、フィリピンなど11か国の方が在住し外国籍世帯の割合は2割を超えています。
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2)事業実施準備
大和定住促進センターが1998年に閉鎖されると、外国籍住民の支援の担い手はNPOや行政となり、2000年以降、いちょう団地近隣地域を含めた外国人支援に関わる多くのNPOが設立され、行政には外国人向けの窓口が設置されました。そのような中、大和市内に拠点を構え、神奈川県内外で自然災害被災地への支援活動を行っている「NPO法人ユナイティッドかながわ(以下、UK)」はこの度の休眠預金等活用事業の一実行団体として、いちょう団地の住民を対象とした「多国籍団地支援プロジェクト」の事業を担うこととなりました。
本事業は『一人も取り残さない社会』の実現に向け、多国籍団地に活動拠点構築のうえ居場所作り、食や食事支援、学習支援などの活動を通じ、子ども達の健全育成と外国ルーツ世帯等地域で支え合うコミュニティ形成を目指すものです。本事業は資金配分団体であるJSURPの「外国人と共に暮らし支え合う地域社会の形成事業」の一事業にあたるため、外国人が主たる受益者となりますが、多国籍団地住民の全体的な調和を重視する観点から受益対象を外国人に限定せず、日本人の困窮世帯も支援の対象としています。具体的には、大和市側のいちょう下和田団地を受益対象としていますが、同団地内の日本人世帯、非生活困窮世帯、横浜市側の団地の住民の参加を排除するものではありません。
プロジェクトの事前準備として、UKは2020年から団地内の小学生を対象にお弁当配布を毎月2回~3回行いました。また、準備期間に団地内にて実施したアンケート調査によれば、朝食を食べられない、夕食は一人で、また21時を過ぎてなどの回答も多数あり、食事面での課題が明らかとなりました。また、神奈川県県土整備局建築住宅部と2年間の交渉の末、いちょう下和田団地の居室を活動拠点として借り受けできるようになっています。2023年2月にはJSURPと資金提供契約を取り交わし、同年2月から7月にかけて、トイレ改修、洗面台の設置、クロスの張り替え、椅子・机の搬入等居室のリフォームに取り組み、2023年7月に本事業の拠点を54号棟104号室と定めました。
3)事業の実施
これまで、いちょう団地を対象として支援活動を行ってきた多くのNPOは、集会場所の制約や活動費の不足、治安、人手不足等の理由により、活動の存続が困難な状況に直面してきました。こうした中、いちょう下和田団地内に拠点を確保したことは今後の活動実施に向けて大きな前進と言えます。2023年8月23日には大和市議会議員、神奈川県県土整備局建築住宅部、社会福祉協議会、学校関係者、民間企業、自治会等から関係者を招待し、いちょう下和田団地事務所の開所式を開催しました。
開所後は外国人・生活困窮世帯向けに食料・お弁当配布を行っており、事務所の開所後は居場所づくりとして月数回の談話室の開催、外国ルーツの子どもたち向けに学習支援・体験教室の開催等ボランティアや自治会の支援を受けながら開催し、PRの一環として、複数言語によるイベント用のちらしの作成、各国語によるイベント案内作成、SNSの開設と発信などの活動に取り組んでいます。2023年2月~12月末にかけて活動を実施した結果、延べ966人の参加者の内、外国ルーツの参加者は7カ国、62世帯112人(実数)に達し、認知度の向上とともに参加者が増えつつあります。
4)事業実施の課題
本事業のプログラムオフィサー(P.O.)及び伴走者として、月一回の会議等の機会において、情報共有、助言、手続き支援などの役割に従事しました。月次会議に際しては、UK側には事業の実施を担う理事及びスタッフを中心としてご対応をいただきました。本事業においては実行団体に対する住民の認知度の向上や住民との関係づくりなどのプロセスを重視したため、全体的に活動が遅滞した点は伴走支援の反省点です。今後、より良い事業の遂行のため、実施体制・能力、関係者の意向を十分に反映した計画の策定、迅速な情報共有と意思決定、関係機関とのネットワーキング、将来的にはフルタイムベースで活動できるスタッフの確保等事業を推進する体制整備も検討が望まれます。事業は実行団体のみならず、受益者、資金配分団体、休眠預金等活用事業実行団体、関係機関等とともに遂行していくため、様々な立場から意見や助言を受けるが、事業の成功ためには異なる意見を取り入れ、関係者を巻き込むことも必要です。
5)今後の支援の継続への期待
本事業は国内に多くある多国籍団地開発にも応用できる事業の芽を孕んでいるため、休眠事業終了後も事業を継続していく必要性は高い。横浜市の外国人意識調査報告書によれば、必要な取組として、市内在住の調査対象外国人の内、各国籍者から多く要望があった活動の一つが、外国語での相談体制を充実させることとなっています[1]。
UKからも母国語によるイベント案内には大きな反響があったと報告があったとおり、母国語による相談窓口の設置は日常、可視化が難しい世帯を見える化し、問題や事故の発生予防に大きな役割を果たす可能性がある。母国語による相談事業はUKの当初の事業計画として掲げられており、いちょう団地住民のニーズとも遠からず合致していると推察されます。相談事業を今後の事業の枠組みの一つとした支援の継続に期待されます。
[1] 横浜市国際局2020「令和元年度横浜市外国人意識調査調査結果報告書」
(菊池匡/Jsurp会員・株式会社地域計画連合)