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【実行団体紹介】NPO法人 北関東医療相談会(群馬県太田市)
本記事では、2020年度の休眠預金活用事業「外国人と共に暮らし支え合う地域社会の形成」事業を経て実施した「外国人と共に暮らし支え合う地域社会の形成2」事業の実行団体について、ご紹介しています。
取組紹介内容:生きていけない外国人のための準生活保護
1)団体概要
北関東医療相談会は、生活困窮している外国人を対象に健康診断、検診結果の説明、要治療者のフォローを実施しているNPO法人です。1997年群馬県において、「外国人の為の医療相談会」として発足以来活動を続けており、関東地域(群馬県、栃木県、茨城県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)で、年間1回以上の医療相談会、年間3回以上の健康相談会を実施しているほか、必要に応じて個別医療相談もおこない、25年間で約3,000人以上の健康を支えています。また、働くことが出来ずに不安定な居住実態におかれた方々が多いことから、必要に応じて家賃支援や食料配送などを実施しています。
就労や移動など生活に制限がある「仮放免者」がおかれた厳しい現状はまだ社会へ十分に周知されているといえないため、文章による発信、講演会や記者会見、ロビイング等を通じて就労条件の緩和や医療保険加入を認めさせるための活動をしています。
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2) 課題の背景
在留資格を持たない非正規滞在者の人口は年々増加しています。中でも「仮放免者」という非正規滞在者は、国の方針で在留資格がなく、就労が禁止され、県をまたぐ移動の制限、生活保護の対象外となるなど、恒常的に経済的に困窮しており、その数は令和4年12月末で4,671人。彼らは同国人ネットワークや本団体などの支援団体の援助で命からがらの生活をしています。入国管理施設としては在留資格がなく生活に困窮すれば帰国を促しやすくなるが、仮放免者からは母国の状況から帰国できないとの訴えが多く、中には30年に渡り仮放免者として日本で生活している方も多数いることが判明しています。
2021年に本団体は仮放免者生活実態調査報告書というアンケートを取り、「生きていけない」絶対的貧困状態、つまり食事の制限、家賃の未払い、医療費の制限、学校教育費の制限など、基本的な生活基盤を維持することさえ困難な状況が明らかになりました。
本団体の本来の事業は、医療相談会を柱とする健康支援ですが、アンケート調査や当会に来る相談者の声から見逃すことのできない状態を把握したため、従来の医療相談事業に加えて、家賃、水道光熱費・シェルターの整備などの生活基盤の支援を開始しました。
3)今回の取組
本助成事業では、①本団体が保有しているシェルターの運営、②生活に困窮している仮放免者の家賃支援を行いました。
①シェルターの運営
外国人は部屋を借りるために、日本人の保証人を必要とされることが多く賃貸契約のハードルが高いため、本団体では群馬県に4部屋、埼玉県に1部屋(女性専用)を確保し、賃貸事業を行っています。現在5名の外国人がシェルターを利用していますが、本事業ではそのうち4部屋の1年間分の家賃と水道光熱費の支払いを行いました。
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②生活に困窮している仮放免者の家賃支援
支援にあたり以下の条件を決め、仮放免者または就労許可をもたない外国人の家賃の支援を行いました。医療相談会の「家賃相談ブース」に相談にきた方や、以前から本団体と繋がりのある方を要支援者としました。
金額の上限は1人につき10万円と設定
支払いの前に相談者の身分証を確認する
支払いは相談者本人ではなく、不動産会社や家主に直接振り込む
支払先に領収書または請求書の発行を依頼する
子供がいる家庭、母子家庭、健康状態が悪い家庭など、緊急性が高いと本団体が判断した人を優先して支援する
4)伴走支援の概要
本団体は外国人支援を長年続けてきたNPOであり、その理念と経験にもとづいた支援を行っています。複雑な在留資格や就業問題を理解した上で、当事者からの聞き取りを重ね、当事者にとって最善と思われる解決策を探り続ける姿勢と様々な分野の協力者を募りながらビジョンに沿って取り組む実行力を有した団体であるため、支援活動は自主的に進められました。
伴走支援者としては、都度報告を受けながら助成事業を受ける際に必要な体制づくり、会計のルール、報告書類の作成などのアドバイス、プロボノ支援の提案を行いました。
5)取組の効果と今後の展望
①シェルターの運営
4部屋のシェルターの運営費である賃借料・水道光熱費を本助成事業で使用し、賃貸契約が困難な仮放免者に安心して生活できる場を提供したことで彼らのホームレス化を防ぐことができました。助成事業終了後も運営は継続され、埼玉県の女性専用シェルターの部屋を増設する計画をしています。
②家賃支援
本助成事業期間内に、45世帯の賃借料合計約366万円を支援しました。
滞在資格の種別は、45世帯のうち36世帯が仮放免者、6世帯が特定活動、2世帯が技術・人文知識・国際業務、1世帯が非正規滞在者です。
また、45世帯のうち、単身37世帯(このうち1世帯の女性は母国に子供あり)、子供を持つ家庭が7世帯で、男女比は男性:女性=33:12です。そして、子どもをもつ7世帯のうち、3世帯が母子家庭、4世帯は困窮家族です。また7世帯は困窮女性(この中の1世帯は妹(特定活動)・母(仮放免)と共に生活)、残りは男性単身(もしくは知人宅に居候し、家賃の一部を支払いしている)です。
支援者の選定には、子どものいる家庭(特に母子家庭)や、健康面で問題を抱えている人など個々の状況を理解し、緊急度の優先順位をつけました。45世帯のうち、23世帯が大家、20世帯が不動産会社、1世帯が保証会社、1世帯が支援団体の貸し出している物件との契約でした。大家の中には仮放免者含む非正規滞在者に理解のある方もおり、低価格で物件を貸してくれる人がおり、また、支払いができない現状に理解を示してくれる人もいます。今回の支援は非正規滞在者だけでなく、彼らを支えている個人の大家さんや団体を助けることにもつながっています。
支援地域については、10世帯が東京、2世帯が神奈川、残り33世帯が当会が主として活動している北関東地域でした。法律が変わらない限り仮放免者の生活状況の改善は見込めないため、引き続きあらゆる手段を検討して居住支援を行う予定です。
③今後の展望
低所得者向けの住居として公営及び国営の空き団地活用を提案していますが、そうした場合でも日本人の保証人を要求されるケースが多いことや、自治体が外国人向けの住居の建設に消極的であることも多く、官民の他団体と協力・連携し、支援の方法を模索していければと考えています。
(大山未央/特定非営利活動法人エティック)