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【実行団体紹介】NPO法人アクセプト・インターナショナル(東京都中央区)
本記事では、2020年度の休眠預金活用事業「外国人と共に暮らし支え合う地域社会の形成」事業を経て実施した「外国人と共に暮らし支え合う地域社会の形成2」事業の実行団体について、ご紹介しています。
取組紹介内容:脆弱性の高い外国にルーツを持つ若者の社会定着促進事業
1)団体の概要
特定非営利活動法人アクセプト・インターナショナルは、紛争地域における諸問題の解決を目的に発足した団体です。対話による平和的なアプローチと共に「排除するのではなく、受け入れる」という姿勢を活動の軸としています。海外ではソマリア、ケニア、イエメン、インドネシアでテロ組織から脱退した投降兵やテロ組織からの勧誘を受けやすいギャングなど社会に居場所がない若者を対象に活動しています。また、日本国内では、社会から取り残されるリスクのあるイスラム教徒を始めとする在日外国人と非行少年の支援に向けた包括的な取り組みを行っています。
1. 過激化防止(テロ組織などへ加入しない道を選べるような支援)
▷ 収入創出支援
▷ 社会での居場所づくり など
2. 脱過激化・社会復帰+投稿促進
▷ 経済・社会的自立に向けたトレーニング
▷ 和解に向けた対話プログラム
▷ 長期カウンセリング など
2)活動の背景
イスラムにルーツを持つ在日の子ども・若者は、言葉や文化の違いから日本社会と家庭・モスクから成る身近な環境で生きづらさを抱えています。日本社会で彼らは学校や職場では日本人と同じように振る舞い、その個性を抑圧してしまったり、周囲との関係維持のため課題を抱え込んだりする可能性もあります。他方、最も身近な親が相談相手の役割を果たすことが困難な状況にあり、極度に孤立する子ども・若者は著しい自己肯定感の低下から引きこもりや自殺に至るケースもあります。日本社会・家庭に居場所のない彼らが安心して自己表現し、複合的なアイデンティティを形成する機会が必要となっています。
3)活動の概要
本事業においては、親が在日外国人であり、幼少期から日本で育ったイスラムにルーツを持つ子ども・若者を対象に、彼らを取り巻く地域社会を巻き込んだ包括的支援を行っています。
直接受益者が安心して自己表現できる第3の居場所で、複合的なアイデンティティを形成しながら周囲の人々と関わることに前向きな気持ちを持っている状態
教育機関や他の支援団体等の日本社会を含む多様なステークホルダーが直接対象者の課題を理解し、コミュニティ全体で問題解決に向けた機運を高めている状態
上記のような状態になる事を目指し、社会から取り残されてきた外国にルーツを持つ子ども・若者が日本社会で将来活躍できる体制構築へ寄与することを目的としています。
4)具体的な活動支援内容
そのための活動として、直接受益者が自由に自己表現できる環境(赤羽ベース)を整備し、さらに相談支援やコミュニティ形成の促進、社会定着に必要な知識の学習支援を行っています。併せて、モスクへのアウトリーチや赤羽ベース近隣地域におけるイスラムコミュニティでの生活相談、民生委員など地域の日本人コミュニティとの協力関係づくりや啓発活動などを実施し、問題の認知を広めることで、直接対象者が社会定着を実現するための基盤の醸成を目指しています。
① 赤羽ベースの整備(居場所づくり)
本事業の活動拠点となり、かつ、イスラムルーツの子どもや若者の居場所づくりの拠点となる「赤羽ベース」の整備を行いました。共有スペースは1階と2階に部屋があり、ムスリムの男子と女子が必要に応じて分かれて過ごすこともできるようになっているほか、礼拝スペースも設置しています。
寛いで過ごせるよう書籍や漫画、ボードゲームなどもあり、ハラルのお菓子なども常備しています。利用者は、勉強をしたり漫画を読んだり、簡単な調理をしたり、スタッフとおしゃべりをしたりと、自由に思い思いの時間を過ごしています。
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② 夏休みの宿題&日本語お助け会の開催
イスラム・ルーツの子どものいる家庭においては、学校からのお手紙(日本語)の理解が難しかったり、言葉の壁があるために、宿題を親が見ることができず困っている、といった声が寄せられたことを受け、夏休みの最後の時期に「夏休みの宿題&日本語お助け会」を実施しました。当初2日間の予定だったが、好評だったため3日間実施しました。
③ 日本語くらぶ(初学者を対象とした日本語教室)
日本語の初学者を対象とした日本語教室「日本語くらぶ」を毎週水曜日に開催しています。子どもの支援のニーズから保護者の日本語学習ニーズへとつながり実施、好評を得て継続しています。また、口コミなどで少しずつ参加者が増えてきています。
④ 東京都018サポートの手続き支援
東京都独自の018サポートの申請手続きが複雑で、かつ、言葉の壁があり対応が難しいという相談が相次ぎ、対応しています。主に電話による相談を受け1件1件サポートし、円滑な手続きにつなげています。
⑤ ハラール食材で作る日本食イベントの開催
「学校給食を通じて和食に親しむ子どもとの食文化の共有、食事時のコミュニケーションに難しさを感じている」といった相談が寄せられたことをきっかけに、ニーズを丁寧に聞き、和食の作り方教室を実施しています。家庭で簡単に、子どもと共に作れる和食メニューを選び、一緒に調理して食べるこの教室は大変好評で、継続的に実施していこうと考えています。
⑥ モスク関係者との情報交換イベントの開催
東京都内の複数のモスク関係者が集い(一部、オンライン参加あり)、赤羽ベースの活動報告を行うとともに、イスラム・ルーツの在日外国人の親子のニーズや支援について情報交換を行うイベントを開催しました。近隣在住以外の潜在的な利用者とのつながりを得ています。
5)今後に向けた課題
イスラム・ルーツの在日外国人数は多く、赤羽ベースでのこれまでの活動を通じて、学習、生活、就労など様々な支援ニーズが寄せられています。赤羽ベースを定期的に訪れ寛いで過ごすことで、少しずつ自分の心配事をスタッフに相談し始め、支援を受けながら進学に前向きに取り組み始めた利用者、日本食を通じて子どもとのコミュニケーションが図れた利用者など、子どもたちの「居場所づくり」に成果を挙げつつあります。
今後は更にニーズの発掘と利用者数の増加を図りつつ、地域の日本人コミュニティとの交流の場としての活用を促進し、相互理解と地域の中の「居場所」となるよう取組を進めていきます。
(栁坪めぐみ/Jsurp会員・株式会社地域計画連合)
(渡辺亜矢子/株式会社地域計画連合)