【創作】詩と写真 『母の嫁入り』
「母の嫁入り」
あれは、今からホンの数年まえ
母の嫁入り仕度をした夜
母はこの街に長く暮らした
父と結婚した その時からずっと住んだ
産まれた街より長く暮らし
育った街より長く暮らし
戦争をしのいだ幼い日を過ごした街より
長く暮らした
母の裁縫箱は長い年月
蓋が壊れたままだった
その蓋を丁寧に
小さなげんのうで
金具を叩いた
とんとん
とんとん と
涙がにじんだ
ふと噂にしか聞いたことがない番頭の
ヒロスさんが頭をよぎった
母と父の結婚に
お嬢様の嫁入り仕度をしたのは
ヒロスさんだと聞いていた
店の品物からも最上級の物をと
ワガママお嬢様がやっとお嫁入りw
今も変わらんワガママ婆さんww
母はこの街を出る
兄のそばへ行く
兄のそばの施設に
「在宅は最もいのちの危険が高いです
お勧めしません」
誰からのプロポーズで
母はお嫁入りなんだろう…
涙がにじんだ…
今度は私が嫁入り仕度してあげる番
ヒロスさんは、極貧の農家から来たらしい
いつも同じエピソードを聞かされていた
『お母ちゃんが魚を用意した時
ご飯が終わって
ヒロスさんのも下げようと
そしたら、お皿の上になにひとつも無くて
お母ちゃんが
「ヒロスさん!あんた、魚、どこやった?」
すると「へえ!いただきました!」
だって』と
繰り返しの思い出話が
魚を全部食べる私を
いつも
まるでヒロスさんだと
笑った母
ひとつひとつ手に取ってたたむ衣類…
おしゃれさんだった母の衣類は
何だかどれもひどく小さく見えた…
退屈しないように
好きな物もきちんとそろえて
時に駿じゅんする
旅行が好きな母
旅の本、旅のアルバムを入れるべきか…
私と二人の珍道中のアルバムもあった...
落ち着いてから渡そう、にした
懐かしい物も目にする
手が止まる
心が動く
できるだけ楽しく幸せであって欲しい思い
そして反面…
自分が分からなくなる
それほどまでに遠いわけじゃない、と
自分に言い聞かせる
母はこのお嫁入りに乗り気ではなかった
新しい街は
新しい人たちは
母のhomeになってくれるだろうか
そうなって欲しい
18, Mar. 2020
© by Haruka JOnly
☆ ☆ ☆
写真は、母の若いころの写真です。
誰が撮影したのか?です。
☆ ☆ ☆
2020年3月のFBへの投稿作品です。
お読みいただき、ありがとうございました。
では、また。
玻瑠佳(Harukaはるか)