スポーツコミッション海外事例調査を行いました
先日、海外のスポーツコミッション事例調査のためアメリカ合衆国にある4つのスポーツコミッションを訪問しました。
本調査は、スポーツ庁委託事業の一環で実施しているため、詳細な結果は来年度にスポーツ庁より公開される予定ですが、有益な情報も多かったことから、速報版として概要をご報告いたします(なお、本文中では目安としてUS1ドル=150円換算で計算しています)。
① Erie Sports Commission〔ESC〕(ペンシルベニア州エリー)
▼活動エリア・人口:エリー郡・約27万人、エリー市・約9.5万人(2020年時点)
▼設立:2013年
▼スタッフ数:フルタイム3名。シーズンに応じてパートタイム、インターンシップを採用。
▼予算(2023年):24万ドル(3,600万円)*人件費除く
・運営母体の観光DMO「VisitErie」から分配される(VisitErieの主な財源はエリー郡が徴収する宿泊税)
・予算は主にマーケティングやイベント招致など、SCの事業に活用される。
▼実績(2022年):
・開催イベント:74
・宿泊数:30,431泊
・経済効果(予測):2,080万ドル(31.2億円)
▼自主イベント:
基本的には郡内で開催されるイベントを主催することはなく、イベント主催者のサポートがメインであるが、2015年から自主事業として『ESC SPORTS TOURISM AWARDS』(エリースポーツコミッション スポーツツーリズムアワード)を開催。直近1年間でエリー郡のスポーツツーリズムに貢献したパートナー企業・団体らを夕食に招待し、活動報告と様々な賞を授与している。賞は、地域への貢献度や経済効果などいくつかのカテゴリーで活躍したグループや個人が対象。
▶関連サイト:
https://www.eriesportscommission.com/about-us/esc-sports-tourism-awards/
▼近年の主な誘致イベント:
・Sarah Backstrom Memorial Girls Hockey Tournament
・Strongman Corporation National Championships
・National Club Basketball Association Men’s and Women’s Championships
・Keyston State Wrestling Championships
・The Great Race
▼その他:
エリー市は、アメリカとカナダの国境に接する五大湖のひとつ「エリー湖」のほとりに位置し、ニューヨーク州とオハイオ州の州境にも近いことから、夏は市内ホテルが満室になるほど多くの観光客で賑わうそうです。一方で、冬は降雪もあり寒さも厳しいため観光閑散期となり、スポーツコミッションとしては冬期のイベント誘致により力を入れています。
②Greater Cleveland Sports Commission〔GCSC〕(オハイオ州クリーブランド)
▼活動エリア・人口:カヤホガ郡・約126万人、クリーブランド市・約37万人(2020年時点)
▼設立:2000年
▼スタッフ数:フルタイム15名、パートタイム2名。シーズン・イベントに応じてインターンシップを採用。
▼予算(2023年):250万ドル(3億7,500万円)
・郡や市など行政からの経済開発補助金やDestination Cleveland(観光DMO)、企業からの寄付などが主な財源。
▼実績(2022年):
・開催イベント数:全米大会/10、地域プログラム/12
・経済効果:1億5500万ドル(232.5億円)+ NBAオールスター2022/2億4900万ドル(373.5億円)
▼自主イベント:
『SPORTS AWARDS』というファンドレイジングイベントを開催し、オハイオ州北東部エリアの高校・大学・プロアスリートを選出し、表彰。
また、イベントのバータイムやビュッフェなどの食事のテーブル券やサイレントオークションなどによって資金を調達。
▶関連サイト:
https://www.clevelandsports.org/events/2024/01/23/greater-cleveland-sports-awards
▼近年の主な誘致イベント:
・NBAオールスターゲーム
・NFLドラフト
・Junior Volleyball Association Nationals
・USA Artistic Swimming 13-15 &U12 Championships
・USA Boxing
・NCAA DIII Outdoor Track & Field
▼その他:
・2022年は大規模なスポーツイベントが開催され、大きな経済効果がもたらされたそうです。2024年以降も「Pan-American Masters Games」「Nike North Coast Cup Volleyball」「USA Gymnastics Men's Eastern National Championships」「USA Fencing March North American Cup」などの大規模イベントの開催が予定されており、更なる経済効果が生まれると期待されています。
③Greater Columbus Sports Commission〔GCSC〕(オハイオ州コロンバス)
▼活動エリア・人口:フランクリン郡・約132万人、コロンバス市・約91万人(2020年時点)
▼設立:2002年
▼スタッフ数:フルタイム12名。その他、契約社員やフリーランス、インターンシップ生。
▼予算(2023年):300万ドル(4億5,000万円)*大規模イベントは別予算
・観光DMO「Experience Columbus」から分配される宿泊税の一部、自主イベント、企業パートナー、公的パートナーシップからの収入が主な財源。
▼実績(2022年):
・開催イベント:約70
・経済効果(コロンバス地域の観光業全体で):66億ドル(9,900億円)
▼自主イベント:
・『Community Youth Camp』:6~12才対象で、4日間で12種目以上のスポーツを体験する地域貢献プログラム。
・『Community Cup』:コロンバス地域対象の企業対抗運動会で、GCSCの資金調達イベントでもあり、収入から地元の非営利団体への寄付も行う。
▶関連サイト:
https://www.columbussports.org/community/
▼近年の主な誘致イベント:
・Little Brown Jug
・Nationwide Children's Championship
・Nationwide Children's Hospital Columbus Marathon
・NCAA DI Volleyball Championship
▼その他:
GCSCは全米でもまだ数少ない、ジェンダー平等を掲げて女子スポーツに注目し、積極的に女子スポーツの誘致を行っているコミッションです。
④Harris County - Houston Sports Authority〔HCHSA〕(テキサス州ヒューストン)
▼活動エリア・人口:ハリス郡・約473万人、ヒューストン市・約230万人(2020年時点)
▼設立:1997年
▼スタッフ数:フルタイム19名。シーズン・イベントに応じて期間限定スタッフやインターンシップを採用。
▼予算(2023年):9,770万ドル(147億円)
・ハリス郡が徴収する宿泊税や自動車レンタル税、地域内で管轄するスタジアムの利用税等が財源。
▼実績(2022年):
・開催イベント:17
・経済効果:5,789万ドル(86億円)
▼自主イベント:
・『Houston Sports Awards』:ヒューストンのトップアスリートの功績やパフォーマンスを表彰するイベント。
▶関連サイト:
https://www.houstonsportsawards.org/
・『Houston Sports Hall of Fame』:ヒューストン出身やヒューストンで伝説的なキャリアを築いたスポーツ界のレジェンドを称える表彰式。
▶関連サイト:
https://www.sportsauthorityfoundation.org/houston-sports-hof
▼近年の主な誘致イベント:
・NCAA DIII Women's Golf Championships
・Olympic & Paralympic Day
・USA Rugby
・Catamaran World Championships
・NCAA Men's Final Four
▼その他:
2024年1月に開催される「COLLEGE FOOTBALL PLAYOFF NATIONAL CHAMPIONSHIP」では、HCHSAの指導のもと、ヒューストン・ホスト委員会が『BUY HOUSTON : BY HOUSTON』というサプライヤーダイバーシティプログラムを展開し、大規模イベントが開催される際は、地元の多様なサプライヤーが積極的にビジネスチャンスを得られるよう認定制度を開始しています。これにより、マイノリティ、女性、LGBTQIA+、退役軍人が経営する企業の支援にも繋がることが期待されています。
また、FIFAワールドカップ2026の開催都市のひとつとして決定しており、地元もHCHSAも大いに盛り上がっています。
今回はアメリカにある4つのスポーツコミッションの事例調査を行いましたが、インタビューの中で「アメリカにおいても、きちんと人材を雇用し、スポーツイベントを誘致し、自主イベントを開催するような団体は20あるかどうか」との発言もありました。
また、いわゆる収益的な事業による収入のみで団体を運営しているわけではなく、税による支援(特に宿泊税:Bed TAX)が欠かせないことも明らかとなりました。一方で、税金を活用することから、どのコミッションも経済効果を含めた地域への効果を数字で示していくことを必ず行っていました。
日本のスポーツコミッションにも参考となる取組も多くありましたので、来年度スポーツ庁から公開される報告書をお待ちいただければと思います!