コロナ下で所得基準が上がるからくり①
必須技能ワークビザ(Essential Skill =ES= work visa)と永住権技能移民部門(Skilled Migrant Category =SMC= resident visa)の審査に使われる所得基準(Remuneration threshold)について、移民局は、2021年7月19日から、現行の時給25.50ドルから同27.00ドルに引き上げると発表しました。
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この所得基準が、新型コロナウイルス流行に伴う渡航規制やロックダウンで経済がダメージを受けているなかで引き上げられることに違和感を感じる方も多いと思います。そこでどのように所得基準が決まるのか、その決め方が妥当なのかどうかを考えてみます。
所得基準とは
所得基準は2017年8月28日に導入され、ニュージーランドの所得中央値(New Zealand median income)をもとに決められており、2020年7月27日から中央値と同額となりました。SMC resident visaの所得基準も所得中央値と同額です。移民局の規定では毎年11月に見直されることになっていますが、ここ数年は改定が遅れていて、2020年は新型コロナウイルス流行の影響で改定されず、2021年7月まで時給25.50ドルで据え置かれました。
ES work visaでは、申請者のジョブオファーが所得基準以上あれば最長3年間のビザが承認されますが、基準を満たしていないと最長1年間(2021年7月19日からは特例措置で最長2年間)となります。また、所得基準以上ですとご家族のビザをサポートできますが、そうでない場合はサポートできません。SMC resident visaは所得基準以上でないと申請できません。このため、所得基準はSMC resident visaやES work visaの申請者には大きな影響を与えます。
所得基準は、ニュージーランド統計局(Statistics New Zealand, SNZ)が毎年発表する所得中央値の統計に基づいています。今回の改定も、2020年8月下旬に発表された同年6月末時点での被雇用者の所得中央値が時給27.00ドルになったことによるものです。
では、新型コロナウイルス流行のために経済がスローダウンしているのに、なぜ所得中央値が上がったのでしょうか。筆者は、中央値の性質と、ニュージーランドの雇用市場の構造が原因ではないかと考えます。
所得中央値の計算方法
平均値(Average)が「全部の値を足して、値の数で割って」計算するのに対し、中央値(median)は「全部の値を(高い方から)並べた時の真ん中の値」を表します。例えば、
Employee A (citizen): $32.00 per hour ($66,560 per year)
Employee B (work visa): $29.50 per hour ($61,360 per year)
Employee C (resident visa): $25.50 per hour ($53,040 per year)
Employee D (work visa): $23.00 per hour ($47,840 per hour)
Employee E: (work visa): $21.00 per hour ($43,680 per hour)
という5人の値の中央値は、時給が高い方から順番に並べた時の真ん中(3番目)であるEmployer Cの値(時給25.50ドル)となります。
もし、値の数が偶数になった場合には、真ん中の値がありませんので、その上と下の値を足して2で割って中央値を計算します。上記の例で、もしEmployee Aがいなかったとすると、
Employee B (work visa): $29.50 per hour ($61,360 per year)
Employee C (resident visa): $25.50 per hour ($53,040 per year)
Employee D (work visa): $23.00 per hour ($47,840 per hour)
Employee E: (work visa): $21.00 per hour ($43,680 per hour)
真ん中のすぐ上の値(Employee C)とすぐ下の値(Employee D)の値を足して2で割った24.25ドル(($25.50+$23.00)/2=$24.25)が中央値となります。
次回は、労働者数に対する移民の割合が多いニュージーランドで、新型コロナウイルス流行が所得中央値にどのように影響したかを考えてみます。