永住権申請を返却する可能性が低いわけ①
先週金曜日(2021年5月14日)以降、「移民局に申請した永住権技能移民部門(Skilled Migrant Category =SMC= resident visa)が返却され、手数料の一部も返金される」という情報が流れ、びっくりされた方もいらっしゃると思います。当方にも情報確認のお問い合わせをいただきましたが、当方としては、そうした措置がとられる可能性はかなり低いと考えています。
この情報が広まった一因は、移民アドバイザーや弁護士の業界団体であるthe New Zealand Association of Migration and Investment (NZAMI)が5月14日、「SMC resident visa申請のうち、審査担当オフィサーが決まっていないものを申請者に返却し、申請料の一部を返金する方針であることを、移民局が14日に発表する予定だと承知している」というプレスリリースを出したことにあります。業界団体が公式に発表したことで、信用できる情報だと受け取られたわけです。
https://www.scoop.co.nz/stories/PO2105/S00129/immigration-minister-likely-to-devastate-skilled-migrant-hopes-with-new-announcement.htm
しかし、移民局は17日午後6時の記者会見に先立って、その情報を否定しました。
https://www.newshub.co.nz/home/politics/2021/05/immigration-minister-kris-faafoi-to-outline-border-policy-changes-as-govt-signals-plans-to-allow-in-more-workers.html
また、同日午後6時の会見でも、申請を返却するといった具体的な話は出ませんでした。
https://www.newshub.co.nz/home/politics/2021/05/government-announces-once-in-a-generation-immigration-reset-new-zealand-to-move-away-from-relying-on-low-skilled-workers.html
「いったん受理した申請を返却する」ことの法的妥当性
それだけではなく、「いったん受理した申請を、後から決めたルールに従って返却する」ということ自体が、合法なのかについて疑問があります。
原則として、ビザ申請は申請が受理された時の規定に基づいて審査されます。このため、申請が受理された後に移民局の規定が変更されても、影響は受けません。これは、一般的な「法の不遡及」(後から決めた法律や規定はさかのぼって適用されない)の原則とも合致しています。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B3%95%E3%81%AE%E4%B8%8D%E9%81%A1%E5%8F%8A#:~:text=%E6%B3%95%E3%81%AE%E4%B8%8D%E9%81%A1%E5%8F%8A%EF%BC%88%E3%81%BB%E3%81%86,%E3%81%AE%E4%B8%80%E3%81%A4%E3%81%A7%E3%81%82%E3%82%8B%E3%80%82
移民局が2002年から2003年にかけて、当時の永住権総合技能部門(General Skills Category resident visa。現在のSMC resident visaの前身)で新しい規定を作り、受理されたがその規定を満たさない申請を却下したことがあるので、移民局が同様の措置を取る可能性がある、とする方もいらっしゃいます。しかし、実はこれには後日談があり、この措置が違法であるとして高等裁判所に提訴され、移民局が敗訴し、判決が確定しています。
https://www.scoop.co.nz/stories/BU0212/S00212/immigration-rules-to-be-challenged-in-court.htm
https://www.cicnews.com/2003/07/retroactive-immigration-laws-dismissed-zealand-court-07250.html#gs.1mzuam
この措置が取られた当時は、2001年9月のアメリカ同時多発テロの影響でアメリカ合衆国が移民の受け入れを停止し、移住希望者がニュージーランドに殺到した結果、移民局がパンク状態になりました。この時、移民局は滞留しているビザ申請の審査に悩み、General Skills Category resident visaの英語力基準をIELTSテスト総合評価5.0から6.5に引き上げ、その基準に満たない一部申請を却下したわけです。
これは、2020年3月以降、新型コロナウイルス流行という特殊な事情で移民局に大量のビザ申請が滞留している、という状況に似ています。しかし、当時の移民局の措置を違法とする判例がありますので、移民局が未処理のビザ申請を大量に抱えているからといって、「受理されたビザ申請を後から作ったルールに基づいて返却する」とは考えにくいのです。
(つづく)