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サーキュラーエコノミーへの道~最終処分場の必要性~

石井一英
論説委員
北海道大学大学院工学研究院 教授

1.サーキュラーエコノミーとは

サーキュラーエコノミー(循環経済)とは、「従来の3R(Reduce, Reuse, Recycle)の取組に加え、資源投入量・消費量を抑えつつ、ストックを有効活用しながら、サービス化等を通じて付加価値を生み出す経済活動であり、資源・製品の価値の最大化、資源消費の最小化、廃棄物の発生抑止等をめざすもの」とある(環境省:令和3年度版 環境・循環型社会・生物多様性白書)。また、これまでの「原材料」→「製品」→「利用」→「廃棄物」といったリニアエコノミーからの脱却とも言われている。すなわち、「原材料」→「製品」→「利用」→「リサイクル」→「原材料」のように、再生資源が原材料の一部として利用され、結果としてエネルギーを含む原材料の節約になることを意味しており、カーボンニュートラルとネイチャーポジティブにも貢献する。

ここで重要なのは、第一に、長く使える、リサイクルしやすい、そして原材料として再生資源をできる限り多く使うといった「製品設計」の視点、第二に、シェアリングに代表されるようにモノではなくサービスを提供するといった「製品利用」の視点、第三に、店舗回収されたペットボトルの水平リサイクル(PET to PET)に代表されるような「回収→リサイクル→製造の一体化」の視点が強調されている点である。いずれも、資源保全という点では、これまでにない活動であり、そのビジネスとしての進展に大きく期待するところである。

2.廃棄物の二面性

廃棄物は二面性を有すると言われている。すなわち、「汚物」と「不要物」である。例えば、ふん尿、生ごみなど腐敗しやすく汚水や悪臭の原因となるものや有害物質を含むものは「汚物」の側面を有し、生活環境を含む環境保全のために適正処理されなくてはいけない。一方、きれいに分別された鉄くず、紙やプラスチックは「不要物」の側面を有しており、環境面において適正にリサイクルされる。ここで難しいのが、例えば、リサイクル可能なプラスチックであっても、市場がなくリサイクルできなければ、適正処理せざるを得ないことである。あるいは、適正処理しなければならないふん尿や生ごみであっても、仕組みや施設があればリサイクルできるということである。このことが、廃棄物が二面性を有する所以となっている。

また時代を遡ると、例えば廃棄物処理施設に保管基準がない、不法投棄に関する罰則が軽いなど、適正処理に関する法律が不完全であった頃は、リサイクル名義で不法投棄が増え、環境汚染につながったことがある。上記より、廃棄物の二面性を忘れてはいけないと思う。

3.環境保全からみたサーキュラーエコノミーの課題

さて、サーキュラーエコノミーを目指す上で、小生が大事だと思うのは、物質循環の中でその循環を阻害してしまう「低品質なもの」や「有害なもの」は、回収(抽出)し、処理あるいは隔離するシステムが必要ということである。循環の輪の中で、品質がどんどん悪くなったり、有害物質が濃縮したりするのはマイナスであり、循環そのものの意義が問われかねない。どうしても再生利用できないもの、あるいは有害性を有しており循環の輪から除外しなくてはいけないものがあるはずである。それらを処分する、あるいは隔離するための「場」である最終処分場が、サーキュラーエコノミーの成立には必要であると強く感じる。一般廃棄物・産業廃棄物最終処分場には、実はこのような役割があるということを再認識する必要がある。また、再生資源を利用する際の品質管理の徹底と平行して考えていく必要があろう。

また、現時点では市場がない、あるいは小さいため、リサイクルできないものであっても技術の発展や価格の向上などにより、将来、利用価値が向上するものもあろう。例えば将来の枯渇が懸念されているレアメタルなどの金属資源は、廃棄物焼却に伴って排出される飛灰中に濃縮されているが、現時点ではほとんどが最終処分されている。最終処分場は、環境を保全しながら資源を比較的長い期間、保管することができる。最終処分されてしまった資源のマイニングという研究分野もある。

最後に、サーキュラーエコノミーにおける最終処分場の価値について、今後自信の研究課題として追求していきたいと思う。

第206回 論説・オピニオン(2024年7月)



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