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学び直しのすすめ

渦岡良介
論説委員兼幹事長
京都大学防災研究所

偶然にも土木学会誌5月号、地盤工学会誌5月号(筆者の専門は地盤工学)の特集はそれぞれ、「土木教育」、「地盤工学教育のこれから」であった。そこで、筆者の大学や学会等での経験を通じて、教えること・学ぶことについて考えてみたい。

いずれの学会誌でも、コロナ禍でのオンラインやVRを用いた教育、DXが進む中で地球規模の問題に対応するための教育など、最近の事例が紹介されている。どう教えるのか(学ぶのか)、何を教えるのか(学ぶのか)を考える良い刺激になった。

「どう教えるのか」についてはICT利用が主題となる。講義ビデオのオンデマンド配信とその後のオンライン講義での討議や演習による反転授業が普及し、筆者もこれを機に反転授業を取り入れた。対面授業が復活してもこの方法は有効と思う。また、リアルタイムのオンライン講義でも、その録画を受講者が見直すことが可能となり、理解度が向上したと言われている。さらに場所を選ばない学習が可能となり、宿題も増えて、学生の学びに対する主体性が高まったと言われている。実験・実習など体験型学習についてはさらなる工夫が必要となるが、VRによる現場体験や安全教育、数値実験、遠隔実験など様々な試みがなされている。一方、学生にとって最大の問題は、友人と共に学ぶ場がないことと思われる。筆者の学生時代を振り返っても、教室に行けばなんとかなるという感じで、友人と物理的な空間を共有することで多くの情報が自然に得られたものである。通信制高校でも友達作りが肝心とのことで納得である。

学会の講習会などの行事もオンライン化された。従来一部の講習会が東京からオンライン配信されていたが、全てがオンラインとなり地方からの参加が格段に楽になった。さらに、支部主催のオンライン行事にも全国から参加可能となり、本部支部の垣根はなくなった。講習会のように知識を得ることが主目的であれば、今後もオンライン開催が有効と思われる。配信側の大学や学会は最新のオンライン技術の導入・普及のため、予算・専門スタッフの充実を継続して行う必要がある。

「どう教えるのか」を考えることは「何を教えるのか」を改めて考えるきっかけとなった。大学ではJABEEのように継続的な改善が求められる教育制度が浸透しており、PDCAサイクルの中で教育内容を見直す必要がある。大学では、伝統的な卒論・修論を通じた課題解決型学習だけでなく、入学当初から、少人数セミナーやプロジェクト設定型の演習のように学生参加型の学習が増えている。講義や演習だけでなく、これらの学習を通じて、何を教えるのかを自問自答しているが、両学会誌の記事から改めて認識したのは次の二つである。

一つは基礎理論の学びである。これは大学だけでなく社会に出てからも重要で、何度も学び直しできる。基礎理論はとっつきにくいが時間をかけて身につけたものは長く使えるものである。一方、すぐに身につくものはすぐに使えなくなる(恩師より)。地盤工学で扱う多くの問題でも基礎理論は変わらない。最近では、数値解析のV&V(検証と妥当性確認)やデータ駆動型解析が盛んとなり、研究では「不確実さ」を避けて通れない。また、設計・施工でのリスク評価など様々な問題で不確実さの評価は必須となっている。コロナ禍で通信教育の受講者が増えていると聞く。未来の問題解決のために、基礎理論を改めて学び直すことをお勧めする。教科書だけでなく、大学のオープンコース、学会の講習会など、多くのオンライン学習の機会を利用してほしい。

もう一つは新しい問題への取り組みである。現在でも気候変動、エネルギー、自然災害など多くの問題があるが、今後も様々な新しい問題が生じるはずである。これらの解決のために土木が貢献できることを皆で共有する必要がある。新しい問題への対応においても基礎理論が重要なことは間違いないが、問題発見のきっかけとなる機会が必要である。大学だけでは不可能なので、いろんな立場の方が集う学会などの機会が欠かせない。例えば、土木学会応用力学委員会では、基礎理論をベースに若手主体のメンバーが様々な問題に取り組んでおり、良い機会になると期待している。久しくできていない対面の良さは、このような問題発見の機会が増えることにあるはずである。
オンライン学習等を利用し基礎理論を学び直すこと、そして新しい問題発見の機会に数多く触れることに努めたい。


土木学会 第169回 論説・オピニオン(2021年6月版)

#土木学会 #論説・オピニオン #学び直し #地盤 #建築基礎

国内有数の工学系団体である土木学会は、「土木工学の進歩および土木事業の発達ならびに土木技術者の資質向上を図り、もって学術文化の進展と社会の発展に寄与する」ことを目指し、さまざまな活動を展開しています。 http://www.jsce.or.jp/