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日本インフラの体力診断(道路)

土木学会事務局です。

土木学会では、インフラ健康診断・日本インフラの能力診断との組み合わせで、日本のインフラの「強み」「弱み」を総合的に評価する資料・データとして活用していただくよう、インフラの体力診断を行い、2021年9月22日に第一弾となるレポートを公開いたしました。

本記事は、インフラ体力診断のページに掲載したPDFレポートの内容から、道路WGの内容をnote向けに再構成したものです。一部、脚注等省略している部分やリンク等を追記した部分がございます。詳細は「日本インフラの実力診断」のページに掲載しているPDFをご確認ください。

1. 高規格幹線道路の計画目標とその意味

〜高規格幹線道路は日本全国をつなぐ、計画延長14,000kmの高速道路ネットワーク〜

高規格幹線道路は1987年における道路審議会答申に基づき, 同年6月30日に建設大臣が14,000kmの道路網計画を決定した。また、「第四次全国総合開発計画」(同年6月30日閣議決定)においても“交流ネットワーク構想”を推進するため14,000kmの高規格幹線道路網が位置づけられ、以下の6つの機能を有する路線で構成されるとされた。

① 地方の中心都市を効率的に連絡
地域の発展の拠点となる地方の中心都市を効率的に連絡し、地域相互の交流の円滑化に資するもの
② 大都市圏の近郊地域を環状に連絡
大都市圏において、近郊地域を環状に連絡し、都市交通の円滑化と広域的な都市圏の形成に資するもの
③ 重要な空港・港湾と高規格幹線道路の連絡
重要な空港・港湾と高規格幹線道路を連絡し、自動車交通網と空路・海路の有機的結合に資するもの
④ 高速交通サービスのナショナルミニマムの確保
全国の都市、農村地区からおおむね1時間以内で到達し得るネットワークを形成するために必要なもので、高速交通サービスの利益が全国に行き渡ることに資するもの
⑤ 災害発生等に対する高速交通システムの信頼性の向上
既定の国土開発幹線自動車道等の重要区間における代替ルートを形成するために必要なもので、災害の発生等に対し、高速交通システムの信頼性の向上に資するもの
⑥ 既存の高規格幹線道路の混雑の著しい区間の解消
既定の国土開発幹線自動車道等の混雑の著しい区間を解消するために必要なもので、高速交通サービスの改善に資するもの

上記の6つの機能を受けて、高規格幹線道路網は次の条件を満たすように計画されている。

① 全国の都市・農村地区から概ね1時間以内で高速ネットワークに連絡する。
② 重要な空港・港湾の大部分と高速ネットワークに概ね30分に連絡する。
③ 人口10万人以上の全ての都市とインターチェンジで連絡する。

2. 計画目標の達成度

〜特に西日本や北海道に事業実施に至っていない区間が多く、地域的な偏りがある〜

(1)計画延長に対する開通延長割合

2021年4月1日現在、12,082km (計画延長の86%)の高規格幹線道路が開通している。一方で、残り14%が未開通である。また、図1に示すように事業化もされていない調査中区間が、西日本や北海道に多く、偏在している。

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図1 高規格幹線道路の未開通区間の分布(2021年)出典:国土交通省資料

3. 整備水準の国際比較

〜高規格幹線道路延長は諸外国と比較して、わが国は短い〜

道路網の延長密度は、人と人を道路でつなぐという観点からは「人口」あたりの延長、国土を覆うという観点からは「国土面積」あたりの延長が評価指標として考えられる。交通ネットワークの必要延長は、延長の増加によって得られる速達性の向上効果と整備に要するコストの増加のバランスによって左右されるが、単純なケースを想定した理論分析によれば、必要延長は、√(人口P×国土面積A)の値に比例するという結果が得られる。この√(人口P×国土面積A)の値を伝統的に「国土係数」と呼んでいる。

国士係数:国士面積と人口を考慮して,各種のインフラなどの整備度を簡便に相対比較する手法である。最もシンプルなモデルでは,面積と人口の積の平方根の値によって基準化される。

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したがって、実際の延長をこの国土係数の値によって基準化して比較すれば、交通ネットワークの相対的な充実度を判断できることになる。

そこで、人口 (P) と面積 (A) で算出した国土係数(√PA)で基準化した道路網密度を用いて国際比較すると図2-1のようになる。このように基準化したわが国の高規格幹線道路延長はドイツ、フランス、イギリス、アメリカ、韓国よりも短い。また、その国の経済活動を支えるとの観点から、経済規模を表すGDPを用いて基準化すると図2-2のようになり、わが国は最も短い。

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図2-1 国土係数で基準化した高速道路延長(2019年値)

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図2-2  GDPあたりの高速道路延長(2019年値)

分析対象国において高速道路とした道路種とその延長については「b. 体力診断にあたっての作業資料」を参照。
GDPの出典:National Accounts - Analysis of Main Aggregates, United Nations
イギリスについては下記の資料を用いて北アイルランドを除く本島(GB: Great Britain)の値を用いた。
Office for National Statistics, Regional economic activity by gross domestic product, UK

1963年 7月に名神高速 栗東~尼崎(71km)が開通して以来、50年を超える努力の結果、主要国の水準に近づきつつあるが、未だ追付いていない。

同じ縮尺でドイツとわが国の高速道路ネットワークを図3で比較すると、ドイツの方が国土全体を覆い、やや密度が高いという印象がある。また、アメリカや中国と図4で比較すると、両国は広大な国土に大規模な高速道路を整備しており、高速道路延長という観点からは圧倒的な延長である。

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図3 同じ縮尺で見たわが国(左)とドイツ(右)の高速道路ネットワークの比較(2018年)(出典:国土交通省資料)

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図4 同じ縮尺で見たわが国(右)と中国(中)、アメリカ(左)の高速道路ネットワークの比較

アメリカ合衆国交通省(U.S. Department of Transportation)
「第13回5カ年」近代総合輸送システムの開発計画の通知、2017(平成29)年2月、中国国務院
国土交通省資料

4. インフラの質的評価

〜わが国の高規格幹線道路の質については多くの課題がある。一方、サービスは進化している〜

(1)わが国の高規格幹線道路について解決すべき課題

わが国の高規格幹線道路は未だ整備途上にあり、主に未完成区間に起因する多くの課題を抱えている。特に次に説明する課題が世界標準に比して劣る課題として、早期の解決が求められる。

①ネットワークが不連続である
高規格幹線道路上には未供用区間・2車線区間が多くある。図5はその分布である。高規格幹線道路ネットワークは、まず地域を繋ぐことを優先して整備してきた歴史がある。このため、本来は4車線などの多車線で整備するべきところを、投資規模を抑えて暫定的に2車線で整備した区間(暫定2車線区間)が全国に多く分布している。また、地域を繋ぐという目標もいまだに実現せずに、つながっていない区間も多い。 

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図5 未供用区間・2車線区間の分布(2021年4月1日現在)
出典:国土交通省資料

②車線数が少ない
高速道路の車線数延長構成比を図6で見ると、諸外国では75%が4車線、25%が6車線以上であり、このような構成比が国際的な標準と見られる。一方、わが国の高規格幹線道路は延長の38%が2車線であり、6車線以上も6%のみである。車線数の延長構成比は国際的に稀な状況である。
この状況は、前述したように、とにかく地域を繋ぐことを優先して高速道路を整備し、道路の質を犠牲にしてきたことの結果である。

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図6 高速道路の車線数別延長構成比(日本は2015年値、他国は2020年値)

日本:2015(平成27)年道路交通センサスの集計値
アメリカ:統計値(Highway Statistics 2019, FHWA, USDOT、値は2020年)とデジタル地図(出典:USDOT, 2019)集計を組合せて求めた値
フランス:Autorouteのうちの有料区間
(全Autoroute延長の79%)のみの統計値(CHIFFRES CLÉS, ASFA, 2020)
ドイツ:統計値(Längenstatistik der Straßen des überörtlichen Verkehrs, Stand 01.01.2020, Bundesministerium für Verkehr und digitale Infrastruktur)
韓国:統計値(STATISTICAL YEARBOOK OF MOLIT 2020)、
2車線には3車線道路、4車線には5車線道路を含む

③2車線道路が多く、異常時に弱い
2車線(片側1車線)の高速道路は単に狭いということにとどまらず、追い抜きができないために速度が最も低い車両に交通流が支配され、走行速度や快適性などの観点から交通サービスの質が低い。また、図7に示すように、2車線(片側1車線)の高速道路では事故・災害・工事時に通行止めが長く続き、復旧に長期間を要することから、異常時に脆弱である。

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図7 ネクスコ(NEXCO)管理道路の区間当たり年間通行止め時間(2016年)

④高速道路の2車線区間は安全性が低く、4車線区間が最も安全
道路の様々なタイプについて死亡事故率を用いて交通安全性を評価すると、図8のようになる。4車線の高速道路が最も安全であり、2車線の高速道路の死亡事故率は4車線区間の2倍である。2車線区間では中央線逸脱による正面衝突事故に象徴されるように危険性が高い。
また、一般道路の死亡事故率は4車線の高速道路の3倍である。一般道路では信号で走行が中断され、交差点や沿道施設からの出入り交通などによって交通の乱れが発生し、交通安全性が低い。更に、生活道路は、4車線の高速道路に対して5倍危険である。
このため、高速道路を4車線化し、幹線道路を整備することで、生活道路の交通をより高い規格の道路へ誘導し、交通安全性を高めることが求められる。

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図8 道路タイプ別の死亡事故率

出典:死亡事故率は以下の二つの資料から引用した。
・高速道路4車線以上・暫定二車線の死亡事故率については「第1回 高速道路の正面衝突事故防止対策に関する技術検討委員会」から引用した高速自動車国道有料区間の平成25(2013)年値
・直轄国道・その他の幹線道路(補助国道+主要地方道+一般都道府県道)・生活道路(左記以外の道路)の死亡事故率については「第75回基本政策部会配付資料」から引用した平成27(2015)年値

⑤移動速度が低い
高速道路は長距離移動に利用される。そこで、主要都市間を連絡する道路の走行速度を平均値で見ると表1のようになる。欧州諸国では80km/h以上であるのに対して、わが国では60m/hである。中国・韓国を加えても主要国の中でわが国が最も低い。

表1 主要都市間を連絡する道路の平均走行速度(2018年)

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【対象都市】下記の拠点都市及び一定の距離離れた人口5万人以上の都市および主要港湾である。
日本:都道府県庁所在地、ドイツ:州都、フランス:地方圏庁所在地、イギリス:地域開発庁(RDA)中国:州都と直轄市、韓国:特別市・広域市等
【所要時間】算出は次のように行なった。
ドイツ・フランス・イギリス・中国:所要時間経路探索システム(google Maps、2018(平成30)年2月)による計測値、日本:ETC2.0データ(2017(平成29)年4月〜2018(平成30)年3月)を集計、韓国:民間プローブデータの実勢速度(2018(平成30)年2月)を集計

都市間の連絡速度を図9で個別に見ると、50km/h未満の区間も多い。図10に示すように、連絡する道路の走行速度が低い都市間を見ると、高規格幹線道路の延長比率が小さい傾向がある。今後、未供用区間が整備され、走行速度が高まることが期待される。

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図9 主要都市間を連絡する道路の走行速度(2018年)

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図10 都市間連絡経路上の高規格幹線道路の延長比率(2018年)

表2 各国の高速道路の法定速度・設計速度(km/h)

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図9・10、表2の出典は以下
【法定速度】
日本:道路交通法施行令、ドイツ:Straßenverkehrsordnung(道路交通令、StVO)、フランス:Code de la Route(道路交通法)、イギリス:Road Traffic Regulation Act 1984、アメリカ:各州の州法、韓国:道路交通法施行規則、中国:中華人民共和国道路交通安全法
【設計速度】
日本:道路構造令、ドイツ:「アウトバーン施設に関するガイドライン(Richtlinie für die Anlage von Autobahnen)」道路交通研究協会(FGSV)、フランス:ICTAAL、イギリス:『道路橋梁設計マニュアル(Design Manual for Roads and Bridges, DMRB)』DfT、アメリカ:「A Policy on Geometric Design of Highways and Streets」ASSHTO、韓国:「Roads in Korea 2011」韓国国土海洋部、中国:公路工程技術標準

一方、各国の法定速度を表2で見ると、わが国は暫定二車線の構造分離されていない区間等を有するため、60km/hの区間が存在し、主要国の中では最も低い。道路の設計速度についても表2で見ると、主要国の中では低い。このことは、わが国の国土が急峻な山地など地形的な制約が多く、経済性を考慮すると道路線形等が他国よりも不利となる課題を有するためと考えられる。わが国でも、近年では、新東名高速道路等においては120km/hの法定速度の区間が新たに設けられており、今後、同様の法定速度へ引き上げられる区間が一層広がることが望まれる。

⑥高速道路の交通量分担率が小さい
高速道路の交通量分担率を図11(1)で見ると、欧米主要国では30%台であり、近年は上昇している。一方、わが国の高速道路の交通量分担率を見ると、上昇しているものの10%台であり、欧米諸国の1/2程度にとどまっている。

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図11(1) 高速道路の交通量分担率の国際比較

出典は以下。フランス:Les comptes des transports、ドイツ:Verkehr in Zahlen、アメリカ:Highway Statistics、日本:道路交通センサス

高速道路の延長密度は主要国に追いつきつつあるものの、わが国の高速道路は、市街地から遠い、出入口の間隔が長い、走行速度が低い、ミッシングリンクがあるなどの要因で、使いにくい。このため、欧米主要国の高速道路と比較して、利用率が低くなっている。
図11(2)を見ると、ドイツでは移動距離が10km以上で半数以上の交通が高速道路を利用しているのに対して、わが国では30kmを超えても1/4程度しか高速道路を利用していない。また、図11(3)の調査例を見ても、同様の傾向が見られる。これらの資料から、わが国の高速道路は短距離移動で顕著に利用率が小さいことがわかる。

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図11(2) 移動距離別の高速道路利用率(2015年値)

日本については、2015(平成27)年道路交通センサス起終点調査集計値、ドイツについては、市町村(約11,000)間の空間距離および市町村人口から重力モデルを用いて市町村間の交通量を推計し、また、デジタル道路地図を用いて市町村間の最短経路を探索し、最短経路上に高速道路がある市町村間交通量(走行台キロ)の割合を計算した。

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図11(3)ドイツと日本の地方部における移動距離別の高速道路利用率の調査例

出典:「使える」ハイウェイ政策の推進に向けての提言、「使える」ハイウェイ推進会議、2015(平成17)年

高速道路の利用率を高めるためには高速道路一体となって機能し、高速道路にアクセスしやすくするような広域高速交通網の整備が必要である。
一般道路に比較して、走行の中断がなく円滑な交通流が実現する高速道路の交通分担率が大きくなると国全体の交通の質が高くなる。
また、高速道路を整備すると、交通が高速道路に移り、一般道路の交通量が減少する。これによって、安全性が高まるとともに生活道路の暮らしの質が向上する。図12を見ると、高速道路の整備が進むに従って、高速道路の交通量分担率が上昇し、生活道路の交通分担率が低下することがわかる。
これによって、4車線の高速道路に対して5倍危険な生活道路の交通量が減少し、交通事故が減少することが期待される。

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図12 道路種別の交通量分担率推移

各年の道路交通センサスデータを集計した。ここで、幹線道路とは一般国道、都道府県道を指し、また生活道路とは市町村道路を指す。

⑦トンネルや橋が多く建設・維持に高額な費用がかかる

わが国の高速道路は、図13に示すようにトンネルや橋の延長比率が高く、建設・維持に高額な費用がかかる。わが国の高速道路は、1963年7月に名神高速道路栗東IC - 尼崎IC間(71.7 km)が最初に開通した。その時から58年が過ぎ、建設後50年を超えている区間も少なくなく、老朽化したトンネルや橋が増加する。今後の大規模更新に備える必要がある。

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図13 トンネルや橋の延長比率の比較(2020年)

【算出方法】日本:高速自動車国道における道路延長に対する橋梁及びトンネル延長の割合、アメリカ:インターステイトハイウェイにおける道路延長に対する橋梁及びトンネル延長の割合※プエルトリコ自治連邦区を含む
【出典】日本:道路統計年報2020(道路延長、橋梁延長、トンネル延長:2019年3月31日値)、アメリカ:道路延長:Highway Statistics 2019 by FHWA(2020年9月30日時点)、橋梁延長:National Bridge Inventory 2019 by FHWA(2019年12月31日時点)、トンネル延長:National Tunnel Inventory 2020 by FHWA(2020年公表)

(2)わが国の高規格幹線道路における優れた特徴

わが国の高速道路はハードウェアとしてのネットワーク整備にとどまらず、道路サービスを幅広く捉えて、利用利便性の向上・交通の高度化・利用者サービスの向上・地域社会への貢献などに努めてきた。近年においては特に次の施策が世界に誇る施策として注目される。

①スマートICの整備による高速道路出入り箇所の増設
高速道路は出入り箇所を制限することによって高速交通サービスを提供している。しかし、このことにより地域によっては出入り箇所が遠くなり、利用利便性が低下する。これを緩和するため、2006年にETC搭載車専用の高速道路出入口であるスマートICが本格導入され、低コスト・コンパクトといった利点を有する本ICにより、広い地域で高速道路のICが近くなり、利用利便性が向上している。

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図14  スマートICのイメージ図(出典:西日本高速道路株式会社)

②全国で一つの車載器のみで有料道路を使えるETC
ETC(自動料金支払いシステム)は、高速道路の料金所のアンテナと、車両に装着したETC車載器との間の無線通信により、通行料金を支払うシステムであり、世界の多くの国で運用されている。2001年からサービスが開始されたわが国のETCの大きな特徴は全国統一システムで運用されていることであり、全国のどこでも一つの車載器で有料道路を利用することができる。一方、ヨーロッパ諸国やアメリカでは国や州ごと、あるいは路線ごとに異なるETCシステムが運用されている。このため、長距離移動の場合は多数の端末を車両に搭載する必要があり、大きな社会問題となっている。
また、このETCをより一層活用し、戦略的な料金体系の導入が容易になること等を通じた混雑の緩和など利用者の生産性の向上、料金収受員や利用者の新型コロナウイルスなどへの感染リスクを軽減する観点等から、ETC専用化等による料金所のキャッシュレス化・タッチレス化について、都市部は5年、地方部は10年程度での概成に向けた取り組みが行われている。
その他にも、ETCは高速道路料金の徴収以外への活用が進められ、ドライブスルー等での利用(ETC多目的利用サービス)が可能となるといった展開も進められている。 

③公的機関が運用する高度情報システムETC2.0
2016年から本格運用されているETC2.0は個々の車両の位置(緯度・経度)、時刻等のデータを即時に収集することができ、匿名化されたデータを用いて渋滞箇所、所要時間、走行経路などの解析や情報提供に用いられている。
 公的機関が全国統一システムを運用しているため、交通の流れの最適化などの公共目的に広く用いられている。

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図15  ETC2.0が提供するサービスの例(出典:首都高速道路株式会社)

④高水準のサービスを提供する休憩施設
2005年に日本道路公団が民営化され高速道路株式会社となってから、顧客サービス・地域社会への貢献の意識が高まり、さまざまなサービス拡充の努力がされてきた。例えば、東北自動車道上り線の蓮田サービスエリアは2019年7月にリニューアルオープンした。駐車マスを約3倍に拡張して乗用車と貨物車の駐車場所を分離、商業施設は規模が約2倍に拡張された。
さらに、大規模広域災害が発生した場合に、消防や医療機などの活動を支援する機能を備え、井戸、ヘリポート、食料や毛布を備える防災倉庫などを整備し、防災拠点としての機能も整備している。
このような顧客サービス・地域社会への貢献は、高速道路が交通サービス提供にとどまらず、幅広い機能を持つ社会インフラであることを示しており、今後の更なる拡大が期待される。

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図16 蓮田サービスエリア内フードコート(出典:東日本高速道路株式会社)

5. 総合アセスメント

今回、高規格幹線道路を対象として量・質の2つの面から評価を行った。

①量的評価
欧米に比べ大きく後れを取り、戦後から整備がスタートした日本の高規格幹線道路は、急速に整備延長を伸ばしてきた。現在の高規格幹線道路の整備延長は、全体14,000kmの計画に対して86%が供用済みとなったが、まだ、ミッシングリンクとなっている箇所が残っている。これを√PAを用いて国際比較すると、世界に比べて追い付いてきているが、とびぬけて大きいわけではない。一方で、事業実施に至っていない区間も偏在していることが課題である。

②質的評価
欧米に比べ高速道路の交通分担率が低く、交通安全性の向上や移動時間の短縮等のため、高速道路の更なる活用が必要である。また、国際的に比較し、日本は暫定2車線の区間が非常に多い。そのため、事故が多く、復旧に時間を要するといった課題を有している。更に、地域間の移動速度が他の国に比べて低く、質的な面で日本の高速道路は多くの課題を有している。
一方、わが国はETCのように国全体が統一したシステムを運用し、更にはETC2.0への進化を進めている。また、ETCを活用し、スマートICを増やす取り組みを行いIC間隔の短縮を行っている。更には、民営化したNEXCO各社により、SA・PAの質も大きく向上しているなど、日本が優れている面もある。

 日本の高規格幹線道路は、今後に向けて、以下の2点が必要である。

①ネットワークのあり方
ミッシングリンク、暫定2車線区間の4車線化等、既存の高規格幹線道路の機能向上とともに、高規格幹線道路と一体となって機能する地域高規格道路も含めた広域的な道路ネットワーク構成することにより、上記の課題に的確に対応していく必要がある。
そのような課題を有する中、コンパクトプラスネットワークに資する広域道路ネットワークのみならず、交通・防災拠点、ICTを活用した交通マネジメントの視点から中長期的なビジョン、計画である「新広域道路計画」が策定されており、同計画を推進していくことが必要である。 

②持続可能な高速道路システム
上記の「新広域道路計画」を踏まえた高速道路ネットワークの拡充に加えて、日本の道路は、他国に比べ構造物比率が高く、今後、計画的な修繕や大規模更新が必要となるといった課題を有する。また、今後、自動運転やトラック隊列走行など、新たな交通に対応していくための技術開発、道路構造といったハードと運用面でのソフトの改善が必要となってくる。
 そのためには、高速道路制度がサステナブルな制度となるよう、財源の確保が不可欠であり、料金制度の抜本的なの見直しが必要である。

参考資料

a. 高規格幹線道路整備の概略史
(1)高規格幹線道路網14,000kmが定められた経緯

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22 出典:「ワトキンス調査団名古屋・神戸高速道路調査 報告書」
23 1963(昭和38)年7月15日開通式当日の写真、出典:滋賀県

(2)高規格幹線道路の整備体系
高規格幹線道路は、効率的に整備を図る観点から路線の性格を勘案し、高速自動国道または 一般国道の自動車専用道路として整備している。

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道路法において道路は、高速自動車国道、一般国道、都道府県道、市町村道で構成されている。一方、機能上の分類として、全国的な自動車交通網を構成し、地域相互の交流促進等の役割を担っている高規格幹線道路や地域高規格道路がある。

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参考図1  道路の種類(道路法上の分類、機能上の分類)

(3)高速道路計画の変遷
ネットワーク整備計画は歴史的には次の図のように変遷し、現在の高規格幹線道路14,000kmのネトワークが計画されるに至った。

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参考図2 高速道路ネットワーク計画の変遷

第1回 新たな広域道路ネットワークに関する検討会(2020(令和2)年3月24日)配布資料

b. 体力診断にあたっての作業資料
 分析対象国において高速道路とした道路種とその延長(2019年値)を以下に示す。

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以下の資料を参照した。日本:国土交通省『国土交通白書』、ドイツ:Bundesministerium für Verkehr und digitale Infrastruktur, Längenstatistik der Straßen des überörtlichen Verkehrs、フランス:Ministère de la transition écologique, Mémento de statistique des transports 2019、イギリス:Department for Transport, Transport Statistics Great Britain 2020、アメリカ:FHWA, Highway Statistics 2019、韓国:국토교통부、『통계연보2020』(国土交通部『統計年報2020』)、中国:国家统计局、『中国统计年鉴2020』

c. 参考文献リスト

1) 高速道路のこれまでとこれから、池田 豊人(国土交通省道路局長)、土木施工2020 VOL. 61 No.4
2) 東名名神開通から50年:高速道路ネットワーク展開の歩みをどう読み解くか?、家田 仁(政策研究大学院大学教授)・山本 巧(国土交通省道路局高速道路課長)、土木施工2020 VOL. 61 No.4
3) 平成の水平展開から垂直展開へ、『世界のトップランナー』を目指す覚悟を持って道路政策の推進を、家田 仁(政策研究大学院大学教授)、道路2019(令和元)年12月号
4) 道路の日本史 - 古代駅路から高速道路へ、武部 健一、中公新書、2015(平成27)年5月
5) 国土と高速道路の未来 豊富なデ-タから読み解く道路網整備のこれから、国土政策と高速道路の研究会、日経BP社、2004(平成16)年03月
6) 第四次全国総合開発計画、国土庁、1987(昭和62)年6月

d.参考サイト


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