日本インフラの体力診断-はじめに-
土木学会事務局です。
土木学会では、インフラ健康診断・日本インフラの能力診断との組み合わせで、日本のインフラの「強み」「弱み」を総合的に評価する資料・データとして活用していただくよう、インフラの体力診断を行い、2021年9月22日に第一弾となるレポートを公開いたしました。
本記事は、インフラ体力診断のページに掲載したPDFレポートの内容をnote向けに再構成したものです。一部、脚注等省略している部分がございます。詳細は「日本インフラの実力診断」のページに掲載しているPDFをご確認ください。
はじめに
道路、港湾、鉄道等の交通インフラ、上下水道の都市インフラ及び発電・送電等エネルギーインフラは、戦後から高度経済成長を経て整備が進捗し、日本の生活・社会・経済を支えてきた。また、河川の整備は、国民の生命・財産を守る重要な役割を果たしてきた。このように、日本のインフラは、国民の安全・安心、生活水準や経済・産業の国際競争力に対応して、「体力」を確実につけてきた。
一方近年では、地震災害、豪雨災害等の自然災害が頻発・激甚化している。また、笹子トンネル天井板落下事故等各種インフラの老朽化が顕在化している。これら災害や老朽化は、「インフラの体力」を脅かす要因として、その影響は年々深刻になっている。
土木学会では、東日本大震災の復興を総括するとともに、豪雨災害に関しては流域治水に関する提言を発信してきた。また、インフラメンテナンスに関して、教材の発刊、セミナー実施等人材育成に取り組むとともに、道路、河川、港湾、鉄道等の健康状態を国民と共有するために「インフラ健康診断」を実施し、広く公表してきた。
さて、日本のインフラへの投資に目を向けると、ここ数年、防災・減災、国土強靭化のための緊急対策や加速化対策として重点的に財政措置されているものの、「日本の社会資本整備の整備水準は概成しつつある」との財政当局からの指摘も影響して、1996年をピークにほぼ半分まで減少した状況が続いている。これに対して、欧米及びアジアの諸国では、インフラへの投資を継続的に増加させている。
上記の点を踏まえつつ、日本のインフラを取り巻く情勢を俯瞰すると、「東京一極集中」の是正が進まない中、大都市部と地方部とのインフラの整備水準とそれに関連する生活・交通・産業・雇用等の格差が拡大する一方、相対的な国際競争力が低下し続けていると認識せざるを得ない。
さらに、COVID-19災禍により、日本の生活・社会・経済の先行きの不透明感がまん延しつつあり、都市住民と地方住民の意識を含む分断という問題が顕在化してきた。ただ、このCOVID-19災禍により先進諸国の対応、状況が連日報道されることにより、日本の政策、法制度及びインフラの運用の課題も明らかになった。例えば、地域公共交通に対する公的補助金制度などソフトの制度改革も必要であることがわかった。
折しも米国バイデン大統領が「The American Jobs Plan」を、英国 ジョンソン首相が「National Infrastructure Strategy」を発表するなど、ワクチン接種が進み経済回復の兆しが見える国々では、ポストパンデミック時代を見据えて、社会基盤整備の政策転換とともに大規模な積極財政政策に舵を切りつつある。
これのような背景を反映して、「日本のインフラの実力・体力は大丈夫か?どの程度か?」と疑問視する声も大きくなってきた。また、欧米と同様にパンデミック後の日本のインフラ整備について、国民をはじめ多くのステークホルダーを巻き込んだ議論を始め、投資額を盛り込んだ長期的計画を策定する必要があるとの機運も高まってきた。
そこで、土木学会では、「インフラ体力診断小委員会(委員長:家田仁)」を設置し、「日本のインフラ体力を分析・診断し、国民に示す」議論をスタートさせた。第1弾として主要な公共インフラである道路、河川、港湾を対象として主査を中心としたメンバーにより各インフラの体力に関連するデータを収集し、熱心な議論を重ね、ここに成果をとりまとめた。
なお、この「インフラ体力診断」は、「インフラ健康診断」及び「日本インフラのオリジナリティ(土木学会誌連載中)」と組み合わせて、日本のインフラの「強み」、「弱み」を総合的に評価する資料・データとして活用して頂きたい。
2021年9月 公益社団法人土木学会
部門別診断
第一弾のレポートでは道路(高規格道路)・河川(治水)・港湾(コンテナ港湾)の3分野について診断を行いました。各分野のレポートは以下記事からご覧頂けます。