Allyへ繋がる途(みち)-土木学会誌2022年4月号特集より-
土木学会では、会員向けの機関誌として「土木学会誌」を毎月1日に発行しています。1915(大正4)年4月創刊で弊会の広報活動の中心となっています。
現在の学会誌では毎号特集を企画し、さまざまなテーマを取りあげています。例えば2022年3月号は「土木を描く」がテーマでした。
そして最新号である2022年4月号では「多様性」をテーマに、「Allyへ繋がる途」というタイトルの特集を掲載しています。
今回の特集において、「Ally」になることの真髄を「アライ-自他の自由のために行動する-」という記事で解説いただいた森千香子氏は、記事の中で、アライ特集を組んだ弊会について、
と評価くださいました。
この特集が日本において先進的と言えるものであるのならば、この試みは土木学会の会員や土木の世界の中だけでなく、より広く、多くの方々にとっても新たな視点や気づきにつながるのではないかということから今回、特集の趣旨の前半部分をnoteに転載しました。
「あらゆる境界をひらき、持続可能な社会の礎を築く」ことを掲げる土木学会としては、特集に込めた想いを広く学会外の方にも感じていただき、このテーマについて多様な方々とともに考えることができればと思います。
Allyへ繋がる途
土木に関わる私たちは、社会を支える基盤を広く公平に整備することを仕事としている。その私たちのいる土木の世界は差別や偏見のない社会だろうか。お互いの存在を認め合えているだろうか。特定の規範に従属することを強要していないだろうか。Diversity & Inclusionという言葉を聞く機会が増えた今だからこそ、日本、土木の世界の差別や偏見を真正面から取りあげ、次の一歩を踏み出すきっかけとしたい。
特集タイトルに込めた想い
タイトル「Allyへ繋がる途」にある「Ally(アライ)」は、本特集で最も重要なキーワードである。アライの概念については森氏執筆の「アライ-自他の自由のために行動する」を参照いただき、ここではなぜこのタイトルとしたかを記す。
アライは支援者といった意味を持つ言葉であり、非当事者が当事者に協力することである。しかし、「アライになります!」と宣言してなれるほど、決して簡単なことではない。対面する当事者が必ずしも自分と同じ意見や思想を持つとは限らない中で“支援する”ということは、今までの自分が持つ意見や思想、特権を否定・破壊する行為を伴う険しいみち(途)なのである。そして、その険しいみちの先に必ずしも決まったゴールはないかもしれず、「アライになる」ことは、“生涯続く学びのジャーニーである”と示されることもある。また、“みち”は「土木」を連想させ、土木業界内のアライになることを目指すという思いである。
日本の土木業界のD&I
日本社会においても「女性活躍」や「ダイバーシティ推進」「Diversity & Inclusion」「D&I」といった言葉は珍しいものではなくなった。多様性を受け入れてそれを活かす、すなわち狭義のDiversity & Inclusionという観点において、日本は他の国と比べてどうだろうか。
日本は、先進国どころか世界で最低水準(156カ国中120位(2021年))のジェンダーギャップ指数である。
最近でも、公平であるべき大学や高校の入試での属性による差別、公の場での障害のある方や女性を蔑視する発言がニュースで取りあげられたことを覚えている読者もいるだろう。性自認や性的指向による職場での差別・偏見等を実際に目撃した人もいるかもしれない。このように、私たちは多くの事例を知っている。つまり、D&Iの実現はまだ遠くにあるのだ。
では土木の世界はどうだろう?
われわれが働く土木業界の使命は、誰もが健全な生活を営むことができる生活基盤を築き、それを守ることである。これは、いままでもこれからも揺るぎない使命であり、それ故に今なお引き継がれている古き伝統や昔ながらの考え方もあると考える。しかし、この古き伝統や昔ながらの考え方の中には、今の時代にそぐわないものもある。
日本の土木において現在でも女性の技能者はトンネル工事現場には従事できない。女性、障害のある方、外国出身の方、そしてLGBTQ+の方々は、土木学会においても限定的にしか参画しておらず、差別や偏見の実態も明らかにされていない。
私たちは、日々の仕事の中で求められる条件や環境など何一つとして同じでない多種多様な現場に対して、積極的で前のめりに技術や能力、知恵を生かして、ニーズに応えるという観点で「公平」になることを目指している。そんなわれわれは、共に働く仲間に対して多様性を単に、“属性が多様であれば十分”と解釈してしまっていないだろうか。そして、多様な属性の人を”受け入れる”ことだけに満足せず、”多様な価値観を生かす”ビジョンを描いているだろうか。
本特集では、土木業界に携わる私たちが、これまで目を背けていた土木のD&Iに関する現実をまずは直視し、真のD&Iとは何かを理解すること、そして前に向かって一人一人が歩みだす、すなわち「Allyになる」きっかけを提供することを目指す。
土木業界の差別と偏見の実態
企画趣旨の後半では、土木業界の差別や偏見の経験、それらを取り巻く現状の把握を目的に実施した「土木業界D&Iアンケート調査」の結果を紹介しています。土木学会誌HPでも公開している以下のPDFでお読みいただけます。
特集記事
目次
2022年4月号特集全体は、以下のタイトルの記事で構成されています。興味を惹いたタイトルがありますでしょうか。
関連書籍
またコーヒーブレイクでは以下の4冊を関連書籍として紹介しています。アライを理解するためのヒントになりましたら。
アライになるためのガイド
アメリ・ラモント=著、三木那由他=訳
ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー
ブレイディみかこ=著
目の見えない人は世界をどう見ているのか
伊藤亜紗=著
差別はたいてい悪意のない人がする
キム ジヘ=著、尹怡景=訳
特集担当者
今回の特集は、
特集担当主査:中村ゆかり、段下剛志
特集企画担当:植野弘子、小林里瑳、山田菊子
の5名が担当しました。
論説・オピニオンでも
土木学会では、会員だけでなく広く一般社会に、土木に関わる多様な考え・判断を紹介し、議論を重ねる契機とすることを目的に、社会に対する土木技術者の責務として、社会基盤整備のあり方・重要性、国際社会における我が国の貢献、地球環境・地域環境保全に対する土木技術者の役割、公共事業をめぐる社会問題など土木を取り巻く広範な問題をタイムリーに取り上げ、土木技術者はもとより多彩な方々の見解・見識を『論説・オピニオン』として広く社会に発信しています。
2022年4月号土木学会誌に掲載された2編の論説・オピニオンは、特集記事と連動する形で「D&I」がテーマになっています。論説・オピニオンは土木学会noteのメインコンテンツとして掲載していますので、あわせてお読みください。
論説・オピニオンのnoteマガジンはこちら。
ダイバーシティ・アンド・インクルージョン推進委員会
土木学会では特集中の記事でも紹介しているように、2004年から学会内に委員会を設置し、土木界におけるダイバーシティ及びインクルージョンの推進に向けて活動しています。現在の活動は、ダイバーシティ・アンド・インクルージョン推進委員会(D&I推進委員会)が中心となって推進しています。
そしてD&I推進委員会では2021年3月から2022年1月まで、土木の世界のダイバーシティ・アンド・インクルージョン(D&I)を一歩前にすすめていくことを目指し、多彩なゲストに出演いただいて、色々な考え方、生き方、働き方を紹介するオンライントーク番組「D&Iカフェトーク」を開催しました。
2022年4月からは第2シーズンをスタートさせています。
こちらもぜひ、よろしくお願いします。
D&Iカフェトークのnoteマガジンはこちらです。アーカイブ動画や関連する記事を随時追加しています。
土木学会誌について
土木学会誌について詳しく知りたい方は、土木学会誌HPをご覧ください。
なお土木学会誌は、発行後50年を経過したものについてはデジタルアーカイブスからどなたでも無料でご覧いただけます。
(弊会の会員の方は最新号も含めWEBでバックナンバーをご覧頂けます。)
学会誌は一般の方でも入手できます
冒頭に述べたとおり、土木学会誌は弊会会員の方向けの機関誌で、書店での一般販売は行っておりません。
会員以外の方で入手を希望される場合は、最寄の書店様経由でご注文いただけます。土木学会では入手に関するお問い合わせには対応しておりませんので、丸善出版営業部様、または丸善出版様のお問い合わせフォームより、丸善出版様へお問い合わせください。