見出し画像

スマートインフラネットワーク

土橋 浩
論説委員
一般財団法人首都高速道路技術センター 副理事長

近年、「プラットフォーム」という言葉が、様々な分野や場面で使われている。ITの分野では、コンピュータが動作する基本的な環境、アプリケーションソフトを動作させるためのオペレーティングシステムの種類やそれを動作させるハードウェアの構成等を指す。一方、電力などのエネルギープラットフォームや通信などインフラに対して用いられることもある。さらにはスマートシティ官民連携プラットフォームのように官民が一体となって全国各地のスマートシティの取組を強力に推進する「場」としての形態などもある。

そもそも、プラットフォームとは「基盤」という意味であるが、図書館情報学用語辞典第5版によると、「利用者と生産者など異なるグループや要素を仲介し結びつけることでネットワークを構築する基盤。情報や財、サービスなどの交換を可能にするもので、ソフトウェア、ハードウェア、標準規格など多様な形態をとる。もともとは台地などを意味し、主に工学、経営学、経済学の分野で利用されている概念であるが、様々な文脈で用いられるため汎用的な定義はない。」と解説されている。すなわち、様々な文脈で「プラットフォーム」という言葉が、今日用いられるようになったものと思われる。さらには、ネットワークを形成する基盤として、分野や業種の垣根やフェーズを越えて、情報や技術などが交流できる「場」としてのプラットフォームという概念もあると考える。

このようななか、道路や鉄道、上下水道、電力・ガス・通信、学校や福祉施設などは、国民の暮らしや経済活動を支える根幹的なインフラストラクチャ(以下、インフラという)として、生活に不可欠な社会基盤(プラットフォーム)である。また、これらの基盤の特徴は、リアルな施設を軸にアナログ的な基盤として機能している。しかし、近年のデジタル技術の進化にともない、このようなアナログ基盤にデジタル技術を導入・適用することにより、その機能をより効率的に発揮させる技術革新、デジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みが、現在進められている。こうした取り組みは、インフラなどのリアルな基盤に対してデジタル基盤を連携、つなげることにより、インフラがネットワーク化され、従来アナログ技術だけでは困難であった高度な利活用やサービスの提供、維持管理などライフサイクル全体での最適化が可能となる。

例えば、インフラデータプラットフォームは、フィジカル空間のインフラから様々なデータをサイバー空間上に統合・蓄積し、データの見える化、すなわちインフラの状態が可視化される。また、シミュレーションなどを行うことにより、現状の分析や想定される様々な条件に対して将来の状態を予測し、最適解を導出できるようになり、インフラの効率的なマネジメントの実現に資する。このようなデジタル基盤を活用し、空間軸および時間軸でデータを扱うことで、data-based decision making、evidence based policy making(EBPM)などデータ駆動型マネジメントが実現する。加えて、交通、電力、防災、医療、農業などの異なる分野のプラットフォームをデジタルの力でつなげ、ネットワーク化することにより、基盤間の相互作用が活性化され、新たな付加価値の創出や経済効果が得られるものと期待する。このように各基盤が分散化したネットワークとしてつながり、リアルインフラ、デジタルインフラ、システム・オペレーションインフラが三位一体となって機能することにより、それぞれのプラットフォームはさらなる進化を遂げるものと考える。

この基盤間の連携、ネットワーク化は、既存のインフラ機能をさらに高度化・複合化することによって、各施策・事業間や地域間の横断的な連携を推進するとともに、インフラの多様な価値を生み出す。例えば、賢く、安全で、持続可能な基盤ネットワークシステムを実現する「WISENET(ワイズネット)2050」の取り組みは、まさに道路ネットワーク空間を最大限に有効活用し、その空間に自動物流道路など新たな物流システムや電力ハイウェイ、治水機能強化など従来の発想を超えた機能を導入することにより、新たな価値を創出する公共空間へと進化させ、社会課題の解決が期待される。

このように生活に不可欠な社会基盤であるインフラが拠点となってプラットフォームを相互につなげ、時間軸・空間軸での需要に対し、ハードとソフトが一体となってシームレスなネットワークを形成し、「スマートインフラネットワーク」として機能する。これにより、各インフラ設備等の効率的な運用・維持管理の推進に加え、社会・経済活動の活性化、強靭で安全な国土の構築に資するものと考える。

第210回 論説・オピニオン(2024年11月)


いいなと思ったら応援しよう!

公益社団法人土木学会【公式note】
国内有数の工学系団体である土木学会は、「土木工学の進歩および土木事業の発達ならびに土木技術者の資質向上を図り、もって学術文化の進展と社会の発展に寄与する」ことを目指し、さまざまな活動を展開しています。 http://www.jsce.or.jp/