【JSA】クロマグロ釣り採捕規制Q&A
はじめに
2021年8月20日、遊漁(釣り)によるクロマグロの採捕禁止の指示が公示されました。
クロマグロ釣りを行う際、2021年8月21日より採捕(キープ)が全面禁止となります。
採捕禁止指示とは
発出元:太平洋、日本海・九州西、瀬戸内海広域漁業調整委員会
対象者:漁師、調査研究等を除く採捕者(釣りをするひと)すべてが対象(遊漁船、プレジャー、ショアどこから釣っても対象)
期間:2021年8月21日から2022年5月31日
エリア:日本の全海域
禁止事項:クロマグロのサイズを問わず採捕(キープ)の禁止、採捕した場合はすぐにリリースすること
罰則等:指導に従わない等の悪質な違反者に対しては、農林水産大臣が指示に従うよう命令(裏付け命令)をし、その命令に従わなかった場合、罰則(1年以下の懲役、50万円以下の罰金等)が適用(漁業法第191条)
クロマグロ採捕禁止措置のQ&A
今回の規制の内容がわかりにくい、結局釣りはしていいのか、だめなのか。たくさんの質問を頂いています。
少しでもわかりやすいようQ&A方式でまとめました。
JSAは、本委員会指示に関する広域漁業調整委員会すべてに参考人として出席し、意見陳述・意見交換を実施しています。
また、水産庁に対しても正式に確認を取っています。万が一間違いやご意見、質問等ある場合は当会のウェブサイトからお問合せください。
<全15問クロマグロ採捕禁止措置Q&A>
本Q&AはJSAが作成しました。水産庁等が作成したものではありませんが、事実確認を行った上で作成しています。
Q1)クロマグロはサイズ問わず釣ってはいけないのですか?
A)6月1日より30kg未満は採捕禁止、30kg以上はリリースするか採捕した場合は水産庁に報告義務がありました。今回の指示では30kg以上も採捕禁止になりました。
Q2)禁止の期間はいつまでですか?
A)2021年8月21日から2022年5月31日までとなります。
Q3)堤防などから釣るのはよいですか?
A)堤防、プレジャー船、遊漁船問わず全ての釣りにおいてクロマグロの採捕は禁止です。
Q4)今回の対象者は釣り人ですか?船長ですか?
A)「採捕者」とは釣り人です。採捕者に該当しないのは、漁業従事者、漁業者のために採捕する漁業従事者、調査研究を行う者です。漁師さんは今回対象外です。
Q5)キハダマグロ等のマグロも対象になりますか。
A)クロマグロのみが対象となっています。
Q6)採捕した場合ただちにリリース、とありますかがマグロが死んでいた場合キープしてもよいですか?
A)マグロの状態問わず採捕した場合はリリースしないといけません。
Q7)採捕とはなんですか?釣り自体もNGなのですか?
A)「採捕」は魚をキープする事です。釣り自体やリリースが禁止されたわけではありません。
Q8)北海道ではサケ等は狙って釣る行為そのものが禁止されていますが。
A)河川、沿岸、沖合の資源管理はそれぞれ法的根拠と解釈が異なります。
水産資源保護法・北海道漁業調整規則によるサケ等一部の法解釈では採捕禁止の場合、釣りという行為そのものも禁止と捉える場合もある、とされています。しかしながら、漁業法に基づく広域漁業調整委員会指示による今回の釣りによるクロマグロ採捕規制の採捕は釣りの行為そのものを禁止するものではありません。
水産庁に確認済みですが、自粛要請が出ているため水産庁として公式にキャッチ&リリースをOKとは示せないが、今回の規制内容はキャッチ&リリースや釣りを禁止するものではありません。
照会を行った先: 水産庁 資源管理部 管理調整課 沿岸・遊漁室
Q9)結局のところクロマグロ釣りはしていいの?だめなの?
A)6月1日付の広域漁業調整委員会指示において遊魚によるクロマグロ釣りは自粛要請が出ています。
一方、採捕やキャッチ&リリースの取り扱いはわかりにくさや、解釈、曖昧な点があるのは事実です。むしろこうした制度についてJSAは国と共に改革していく提案を行います。
Q10)広域漁業調整委員会とはなんですか?
A)広域に回遊、分布する魚について、資源管理を行うための漁業調整を行う漁業法を根拠にした国の常設機関です。今回の指示も含めて委員会指示には強い権限があります。
太平洋、日本海・九州西、瀬戸内海の3つの委員会から構成され、委員は主に漁業者と学識者等から構成されます。
Q11)広域漁業調整委員会に釣り人は参加できますか?
A)委員会開催の際は一般傍聴も可能で、議事録も後日公開されます。
また、先日開催された広調委には3エリアの委員会全てにJSAが参考人として意見陳述を行いました。
Q12)意見陳述したなら禁止を阻止できなかったのですか?
A)すでに3月の委員会から禁止に向けた検討が進んでおり、そのプロセスにはJSA含め釣り団体は入っていません。今後の検討時には多くの釣り人の皆さんの声を集めてルール作りに積極的に関与していく必要があります。そのためにJSAが生まれました。
Q13)そもそも釣り人が釣るマグロの量は全体のどのくらいなのですか?
A)日本は年間約8,000から10,000トン前後のクロマグロの漁獲枠があります。
全体が10,000トンで仮に釣りの採捕が100トン(昨年の水産庁推計は約10トン)だとしても全体の1%にしか過ぎません。
Q14)釣りによる採捕が全体の数パーセントしかないなら問題ないのでは?
A)クロマグロは国際的に厳しく資源管理された重要な魚です。釣りによる採捕が多い、少ないは関係なく、「数量を正確に把握して適切に管理すること」が世界的に求められています。
そのため、むしろこれまで自由に釣り人が釣ってキープ出来ていたことがそもそも問題です。
この点については水産庁が悪い、釣り業界が悪い、という話しではなく、むしろ連携して資源管理を今後行なっていくことが、釣り人にとっても漁業者にとってもクロマグロに関与する全てのひとたちにとって大切になります。
Q15)来年以降もっと厳しく規制されるのでは?
A)来年の措置は2022年3月の広域漁業調整委員会で議論、決定される可能性が高いです。
JSAとしては、釣りによるクロマグロ漁獲枠の創設や、キープのバックリミット等を含めた制度案の提案を予定しています。
改正された漁業法では、釣りも含めた総合的、全体的な資源管理、漁獲枠の管理を目指しています。
むしろ釣りによる採捕も当然ながら権利はあるため、各種漁法含めた資源への影響も踏まえて制度作りに取り組みます。
おわりに
世界はSDGs(国連が定める持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals))の推進を行っており、その中には「海を守る」という論点も含まれ、沿岸・伝統漁業を含めた保護、資源管理の推進が全世界で求められています。
今回、日本における釣りによるクロマグロ採捕規制は、国際社会的に見れば決して迅速な対応とは言えず、資源管理を行うことはもはや義務となっています。
今回の禁止措置の大きな理由は、釣りによる採捕状況の把握を含めた適切な資源管理ができていなかったことです。全体の漁獲の占める割合の大小や、他の大規模操業の漁法と比較した影響の大小ではなく、純粋に把握ができていない、管理ができていないことが問題です。
当初、水産庁が推計する釣りによるクロマグロ採捕数量は、遊漁船へのアンケート調査をもとに年間10トン程度と推計されていました。ただし、アンケートの回答率は高いとは言えず、実態に対して明らかに少ないことは明白です。しかしながらその他に把握を行う制度や仕組み、取り組みが無かったためこの数字を根拠にするしかありませんでした。
年間を通じて、漁業者も日本に割り当てられたクロマグロの漁獲枠を遵守しています。すでに今年度の漁獲枠管理がスタートしている中では、釣り人に割り当てる数量はほとんど準備されておらず、好きなように釣っていてはいけません。
国際管理されているクロマグロにおいては、むしろ国際社会の枠組みの中で言えば漁師さんが釣ろうが、釣り人が釣ろうが極論は関係なく、与えらた枠の中できちんと管理してくださいね、ということが最も重要です。
そのため、来シーズン以降は、JSAとして釣り人の漁獲枠の創設、キープにおけるバックリミット、資源管理調査での連携等の制度を提案、創設を目指して活動しています。
海は国民の共有財産です。そしてクロマグロは広範囲に回遊する魚であり、日本だけのものではありません。
水産庁への批判や、大規模操業の漁業者への批判を行いたくなる気持ちもとても分かります。
しかしながら、これまでこうした関係者間の相互理解、対話は決して十分なものではありませんでした。
制度や規制に不備や不明瞭な点があれば共に修正していく、クロマグロをはじめ資源管理に寄与する取り組みは協働していく、海や魚を愛する気持ちは全員一緒です。
魚という貴重な資源を軸にしてJSAではすでに漁協、学識者、政治家、官僚といった様々な皆さんと連携をしています。
本投稿をお読みになっている皆様も、今一度この機会に海を取り巻く制度、法律、他者との連携について考え、共に行動していけますと幸いです。