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【Pick Up Analyst】削ぐ行為こそがアナリストの本質:バレーボール・藤原稜氏

第一線で活躍しているスポーツアナリストに対して、自らの仕事への思いや考えを語ってもらう連載企画『Pick Up Analyst』。第26回は、バレーボール・NECレッドロケッツの藤原稜氏に聞きました。

東大卒のバレーボールアナリストという異色のキャリアを歩み、チームの頭脳として活躍する藤原氏。どのような思いを持ってこの世界に飛び込んだのか。日々の業務の中で感じていること、今後やっていきたいことを存分に語っていただきました。

※こちらは抜粋バージョンです。全編読みたい方はこちらから▶︎http://jsaa.org/pick-up-analyst/3605


断ち切れなかったバレーボールへの想いとデータバレーとの出会い

−アナリストになったきっかけを教えてください

高校まではバレー部でプレーヤーをしていたのですが第一線で活躍できるレベルでは全くなかったので、「バレーボールは高校で引退かなぁ」と思っていたのですが、東京大学に入学後一応バレー部を見に行こうと思って運動部の部活を見に行ったところ雰囲気がとても良かったんです。正直、高校時代バレーボールを気持ち良い形で終われたわけではなかったので、ちょっと未練もあって。一方で大学では新しいことをやってみたいという気持ちもあったので、その折衷案というか、それを両立できるようなことが、バレーボールの分析に携わることなんじゃないかと思ったのがきっかけですね。環境としては、大学のバレーボール部に「データバレー」というソフトウェアがあったのもきっかけでした。


–データバレーを活用していた。つまり選手たちがデータを扱う土壌があった?

当時、東京大学男子バレー部にはアナリストとして専属で分析の作業をしている人はいなかったのですが、プレーヤーをしながら分析を兼任している先輩が何人かいらっしゃったんです。その方々が分担して行っていたデータ分析の仕事を「全部まとめてやらせてもらいたい」と申し出ました。アナリストとして入部するという前例はなかったのですが、当時の主将と監督に快諾をいただいて。そういったチームの懐の大きさというのも僕がこの世界に飛び込むことが出来た一つの大きな要因だと思っています。

東京大学男子バレー部は、僕が入部した当時関東三部に所属していたのですが、スポーツ推薦などもない中で一般入試の入学者からバレー経験者を集めてなんとかチームをつくっていくとなると、技術とかフィジカルだけではなくて、我々のストロングポイントである頭脳でも補わなきゃいけないよね、というチーム自体の方針も大きくあったと思います。それでOBからの支援もあってバレーボールを分析するソフトウェア「データバレー」を購入していたという経緯は聞いたことがあります。


データが必要とされる土壌づくりは簡単ではない

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−これまでのアナリストの仕事で、一番大変だったことは?

少し抽象的な話にはなるのですが、勝てない時期というのは恐らくどのチームでもあると思います。そういう時に「そもそも、データ以前の問題だよね」とチームの雰囲気がなってしまっていて、かつ僕自身もそう思ってしまっている、今までの経験の中でそんなことがあります。そういう時って「自分の存在価値をどうやって出していったらいいんだろう」と悩むというか、難しいなぁと思うことは多いですね。

単純に作業量が多いとか、やるべきこと、業務量が多いとかっていうことはもちろんアナリストの大変さとして少なからずあるのですが、それよりも「アナリストとしてどうチームに関わっていけるんだろう」という難しさを感じることが一番大変かなぁと思いますね。今シーズン、チームにもう一人アナリストが増え、そういう形でマンパワーを増やしていったりとか、ソフトウェアの導入などで作業量を減らしていく方法はいくらでもあると思うんですけど、そもそもチームとしてアナリストの仕事や役割が必要とされる土壌づくりというのは、とても難しいことだと思います。どうやったら自分の情報が試合に関わっていけるようになるのか。そういうことを考えるのは、とても難しいですね。

正直、良くも悪くもデータ以前の問題で決まる試合もあるとは思っていて、だからといって自らの業務を捨てるのではなく、、その中でも出来ることを見つけられる人が優秀なアナリストになれるのではないかと思います。それは僕自身に対する壁でもありますし、僕が超えていきたい挑戦なのかなと思いますね。


−自身が考える「スポーツアナリスト」の定義は?

これ難しいですよね。(笑)

僕自身、今やっている仕事がアナリストなのかというと、それが少し難しくなってきているところはあって。選手の戦略・戦術以外の部分で、例えばモチベーションを上げるようなミーティングをすることもありますし、そういうことも考えていくと、少なくとも「競技者もしくは競技者を支えるスタッフに対して、分析的なサポートが出来る人」だとは思っています。アナリストの中にはもちろん統計が強い人もいますし、逆に映像解析とか動作分析に優れている人もいます。どちらかというとストレングス寄りのアナリストももちろんいると思います。スポーツサイエンティストと名乗る人も出てきている時代なので、領域の差別化をすべきところはしっかりと線を引いて専門家に任せて、逆に区切るべきでないところは手広くやっていく必要が今後はあるのかなと思います。

バレーボールではアナリストが戦術を決める側面も強いので、他のスポーツだとコーチやヘッドコーチにしか出来ない領域もバレーボールではアナリストが担うことも多いと思います。なので、バレーボールにおけるアナリストって本当に色んな仕事をしてるなぁと思いますね。


−今後の目標、夢は何?

正直、アナリストから監督とか、バレー界に関わり続けて地位をあげていくということはそれほど考えていなくて、いま自分が成長するために必要なものを、このアナリストという仕事で学ばせてもらっているという意識の方が強い気がします。アナリストに関連してやりたいことでいうと、次世代のアナリストがもっと自由に活躍できるような環境を整えてあげるということはしっかりやっていきたいと思っています。実際に今も学生アナリストに刺激を与えるため、異業種とか他競技のアナリストの方々と座談会を少しずつ行ったりしています。僕が学生時代に先輩アナリストから教えていただいたことがたくさんあるので、僕も同じ立場になって還元していきたいと思っています。

それこそ渡辺さん(JSAA代表理事)のようにバレーボール界でのアナリストという立場、地位を高めてくれる方がいたから、今の自分のようなポジションがあると思っています。ただ僕らもそこに甘え過ぎてはいけないなと思います。先輩方がこれまで道を切り開いてくれて、今も道をきれいにしてくれている。僕らが歩きやすいようにしてくれているところをいつまでも甘えているのではなくて、僕らはもっと後輩のために道を大きくしたりとか、もっときれいにしたりする仕事をしていかなきゃいけないっていう使命感というか、目標はありますね。


人に興味を持つことは大事な資質。削ぐという行為こそがアナリストの本質。

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オンラインにてインタビューを受けて下さった藤原稜氏


−アナリストに必要な資質は?

人に興味を持つというのは大事な資質だと思います。第一線のアスリートって「俺が!」っていうのがないとダメってよく言うじゃないですか。逆にアナリストって「俺が!」っていうのが強すぎると上手くいかない。もちろんそういうタイプの人もいていいと思いますけど、それよりもっと「隣にいる人が輝くためにはどうしたらいいのか」というのを観察して、興味を持って関わっていくという素質は必要かなと思いますね。脇役になることを厭わないというか、自分が輝かないと気が済まない、ではなくて、隣の人が輝く手伝いでいいって思えるかどうかは大事だと思いますね。

正直、僕自身、人に関心があるタイプではなかったのですが、だからこそ選手に対しても、人の話なんて聞かないだろうという前提で出発しているんです。僕みたいな、プレーヤーとしては大した成績も残していない人の話を聞いてもらうためには、余程のものを準備しなきゃいけないとか、聴きたくなるような話し方をしなきゃいけないとか。他の人が30分話さなければ伝わらないことを10分で話せるようになれば、その10分だけでも聞いてやろうと思ってもらえるかもしれない。そんなところから出発して、伝え方を工夫しなければいけないとやってきたのは事実ですね。

伝え方については、わかりやすいと言ってもらえることもありますが、特別な工夫をしたわけではなく、僕は僕なりに喋ろうと思って喋ったことがたまたま分かりやすかっただけなのかなとは思います。ただ、言わなくてもいいことは言わないようにしようと思っています。その場で言うべきことかどうかは常に考えています。ミーティングってどうしても、準備すればするほど話したくなる内容が増えると思うのですが、そこからいかに削っていけるかが重要だと思っています。リーグ中は毎週ミーティングをしてるのですが、その度に「話しすぎたな」、「あの話は要らなかったな」って思ってしまうので、それを削ぐ行為こそがアナリストの本質なんじゃないかと思いますね。本当に必要な情報だけを話す、伝える、聞いてもらうという感じですね。

※こちらは抜粋バージョンです。全編読みたい方はこちらから▶︎http://jsaa.org/pick-up-analyst/3605