2021.09.22【Interview】阿佐ヶ谷・高円寺プロジェクト ケの日のハレが生まれる高架下
JR中央線・総武線 高円寺・阿佐ケ谷駅間の高架下では、「阿佐ヶ⾕・高円寺プロジェクト」と題して「高架下芸術祭」や「高架下見本市」など、地域のみなさまに高架下を身近に感じていただけるようなイベントを開催してきました。コロナ禍を経て、まちと人の関わりはどうなっていくのでしょうか。
シリーズ後編もプロジェクトメンバーの 北田 和美 さんと 原田 健司 さん、 岡 志津 さんが登場。
高架下が、まちに溶けこんでいくにはどのような関わり方が必要か、地域に愛される銭湯・小杉湯三代目の 平松 佑介 さんと、番頭(当時)兼マリンバ奏者の野木 青依 さんにお話を伺いました。
※写真は左から原田さん、北田さん、野木さん、平松さん、岡さん
前編はこちらからご覧ください。
高架下は「ケの日のケ」
平松:僕はよく特別を意味する「ハレ」と、普段通りを意味する「ケ」という言葉を使います。銭湯である小杉湯という環境が生み出しているのは、日常の範囲にある、ちょっとした贅沢。いわゆる「ケの日のハレ」なんです。
この表現でいくと「ケの日のケ」はインフラに近いといえます。今回の話に当てはめるなら鉄道や高架下がそうなのかなと。
高架下ってインフラなので、簡単になくなるものではない。その場所を使った取組みを、長い年月をかけて取り組んでいく。担当者がたとえ変わっていったとしても何十年もかけてやっていくんです、という宣言みたいなのがここだったらできると思うんですよ。
なくならないから。変わらないから。そういう中でやれるっていうのは強みなんじゃないでしょうか。
高架下なのに、というギャップを活用したい
北田:「高架下=ケ(日常)」の象徴だと私も同感です。高架下で何かをすると、「高架下なのに面白かった」など、「高架下なのに」が枕詞でついてくるんです。来た人に良い意味でのギャップを感じさせるんですよね。野木さんに高架下でマリンバを演奏してもらうと、音が柔らかく反響して、本当に心地よい空間に変わるんですよ。
メディアに取り上げていただくときも、高架下なのにこういう施設ができました。という取り上げ方がまだまだ多いですが、そういう風に取り上げてもらえるうちが花かなぁと思っています。
高架下で何かやっているのが当たり前になり、差別化が図れなくなった時にどうするかは常に考えています。
とはいえ、毎日使ってもらえるような高架下になるのは、まだまだ先かもしれません。高架下が日常に溶け込むまでの間は、従来の「高架下のイメージ」とのギャップを活用していきたいです。
すぐに評価されることがすべてではない
野木:平松さんと北田さんの「高架下が日常に溶け込むまで時間がかかる」というお話を聞いてて思い出したのですが、今はみんな理解するのに時間がかからない、暮らしや感情に即効性があるものが好きだな、と思わせられる事が多々あります。
とあるパブリックアートに対して「子供が喜ぶようにキャラクターの顔にすれば良いのに」という感想があったり…私もたまに「クラシックは分からないから、懐メロとか演奏して欲しいな」と悪気なく言われます(笑)。
今、人が目指したり求めたりするものが、今すぐ役立つ、今すぐ理解できる…届いた瞬間に「いいね!」が押されやすいコンテンツに偏っているように感じます。芸術は、瞬間的な評価には繋がらなくても、一度受けた効能が死ぬまで続く。芸術は触れたらその後の世界が少し変わる、そんな感じのものだと思います。
原田:まちづくりもすぐに評価されるものではないですよね、でも効能は死ぬまで続く。芸術とまちづくりの時間軸は似ているのかもしれません。
目指す環境は隣人の顔が見えるまち
岡:私は最近子どもが生まれてちょっとした変化がありまして。周囲に知り合いがたくさんいる安心感が欲しいと感じるようになったんです。まちづくりでも、もっと隣の人の顔が見えるソフト部分のしかけの必要性を考えるようになりました。
また、平松さんはよく、小杉湯の環境が大事、愚直に綺麗な環境を作り続けることが大事と仰っていますよね。私が最近気になっているのはそこで、まさに「環境」がキーワードだなと。
当社も不動産屋なので環境という点がつながってくると思いました。高架下は「暗くて汚い」のようなイメージがあるし、まちを構成する一部分なので、それを環境的に整える、ハード的にもソフト的にも整えることをやっていかなければならないと考えています。
イベントを作るのではなく日常を作りたい
平松:コロナ禍を経て、あらためて必要性を感じているのが、知っている顔が多いまちをもう一度丁寧に作っていくことです。
そもそも銭湯って名前も肩書きも必要ない。でもその代わり、「話もしないけど知っている、でも会えば目を合わせて挨拶する」、そんな関係が必要だと思います。
北田:先程平松さんが仰っていた「ケの日のハレ」というのが、まさに我々の目指すところなんだろうなと思っていて。イベントを作りたいんじゃなくて日常を作りたい。それが、当社が目指す「歩きたくなる高架下」につながると考えています。
小杉湯さんとは、同じまちで同じところを目指してるから、一緒に色んなことをやっていけたらいいなと思っています。これからもよろしくお願いします。
取材編集/くらしづくり・まちづくり室
マリンバ奏者・小杉湯元番頭 野木 青依
<あなたにとって、くらしづくり・まちづくりとは>
高円寺から始まり、墨田、流山、今秋は愛媛…と様々な地域の公共空間で、その地に住む方々へ演奏する機会が増える度、私の「好きな街」も増えていきます。暮らしの風景に潜む魅力を(音楽を通して)再認識する事で「我が街」への誇りが高まる…街への信頼が暮らしの喜びを支える、と信じて演奏しています。
プロフィールは第一弾後編で紹介しています。
株式会社ジェイアール東日本都市開発 施設管理本部 北田 和美
<あなたにとって、くらしづくり・まちづくりとは>
くらしは日々のちょっとしたことの積み重ねですので、自分で自分の機嫌を取るための種をあちらこちらに散りばめ続けることが、今の私のくらしづくりです。自分の機嫌取りのための行動が、意外と他人の為になっていることもあるんですよね。そんな積み重ねの連鎖がまちづくりにも繋がっているのかなと思っています。
プロフィールは第一弾後編で紹介しています。
※平松佑介さん、原田健司さんのプロフィールはこちら
岡志津さんのプロフィールはこちら
(この記事は当社webサイトから修正、再掲したものです)