金融マーケット関連職の魅力を語る【就活生・若手社会人・転職希望者向け】

これまであまり筆者は自分自身の業務内容に関して語ることは無かったが、今回初めて自分自身の職種に関して少し語ってみたい。
筆者は、基本的に新卒からずっと金融マーケットに関わる職種に従事してきた。
元々大学時代は経済学部の金融学科に所属しており、ファイナンスや統計学、更には金融工学・リスク管理と言った内容を中心に勉強してきた点、どうしてもリテール配属が嫌だった点、更に何となくではあるが、自分にフィットしそうなのはマーケットの職種かと思いこちらの職種を志望した。

筆者は内定後の最初の人事面談で「学者っぽい」との評価を受けており、支店では使い物にならないと判断された可能性が高いし、そもそもマーケット関連職では共通言語が英語であり、英語力はあるに越したことがない分野であるので、その点でも帰国子女のこいつはとりあえずマーケット関連職に置いておけば良いかと言う判断があったのかもしれない。
ちなみにマーケット関連職では、数理的な素養(数学ではなく数理的な素養)が要求されることから、配属される方の多くは有名大学の理系院卒である。文系学部卒も存在することには存在するが、多くが帰国子女だったりする。英語か数学のどちらかは必要な領域であると考えて良い(勿論どちらもあれば尚ベターではある)

ちなみにマーケット職と言っても、バイサイドとセルサイドで職務内容は当然異なってくる。
バイサイドの方がプレイヤーの幅が広く、多種多様である。バイサイドと言うのは、簡単に言えば自分たちのお金や顧客から預かったお金を何らかのアセット(株や債券、オルタナティブ資産)に投資し、インカムゲインやキャピタルゲインを享受し、それを顧客に還元したり、自分たちの懐に入れるようなプレイヤーのことである。
バイサイドの例としては以下のようなものが挙げらえる。
・生損保の運用部門
・銀行の運用部門
・アセットマネジメント(資産運用会社)
・ヘッジファンド
・農林中央金庫などの政府系金融機関の運用部門
・信託銀行の運用部門(信託勘定)
・PEファンド
・宗教法人や事業法人の一部など

昔は、運用部門への配属が約束される部門別採用は存在しなかったが、近年急速にジョブ型採用が広がったことで、多くの金融機関は運用部門の部門別採用を実施している。採用人数は少なく、多くても3人とかその程度認識である。彼らは、支店などを経由せずに一場所目からいきなり運用部門に来る。このような初期配属でいきなり運用部門に配属され、社会の厳しさを味わっていない彼らは通称「ナチュボン」等と呼ばれていたりする。
ナチュボンは「Natural Born Buy Side」の略である。

セルサイドは、言ってしまえば上記のバイサイドのプレイヤーに金融商品を提供する(金融業界では「流動性を供給する」と言う)プレイヤーである。
業態としては、バイサイドほどバラエティーがある訳ではなく、証券会社とメガバンク・信託銀行のセールス&トレーディングの部隊のみしか存在しないという認識だ。メインは証券会社のセールス&トレーディングの部隊である。
こちらも部門別採用を行っている。就職偏差値の表で言うと(GM)と付いてある部門がこちらに該当する。GMはGlobal Marketsの略である。

更に上記はフロントの話になってしまうが、勿論ミドルやバックも存在する。
約定した金融商品を管理する部署やリスク量を計測する部署、金融商品の契約書を締結したり作成したりする部署、コンプライアンスに関わる部署、規制対応を行う部署などミドルやバックにも色んな部署が存在する。最近では、マーケットに関わるデータ分析を行うような部隊も強化されている認識である。

前置きは長くなってしまったが、今回は金融マーケット職の魅力に関して語ってみたい(尚、今回は魅力だけ語るが、当然ながらデメリットも存在する)。

1.勤務地はほぼ100%東京か海外の大都市


日本でマーケット関連職に就く場合は、地銀の運用部門を除いて殆ど100%の確率で東京勤務を叶えることが出来る。地方を基盤とする地銀さえも運用部門だけは東京駅周辺にあることが多い。
今の若手が嫌う勤務地リスク・転勤リスクを殆ど100%の確率で回避できるのが、マーケット関連職の魅力である。
更に言うと、東京の中でもマーケット関連職は対象が東京駅周辺もしくは六本木にしかオフィスが無い。
これは恐らく、証券取引所が茅場町(日本橋の近く)にあることが関係しているのだと思う。

地方転勤はないが、海外転勤の可能性はある。
ただこの場合も、新興国や治安・政治情勢が怪しい国ではなく、世界の大都市にしか勤務地が無いというのも魅力である。やはり金融マーケットがそもそもある程度成熟した国にしか機能が無いという事が背景として挙げられるだろう。
では世界の大都市はどこなのかと言う話であるが、90%近くがニューヨーク、ロンドン、シンガポール、香港の主要4都市のどれかである。
アメリカであっても、いきなりデトロイトに送り込まれることは無いし、欧州でもドイツやフランスに行くことは殆ど無いだろう。
都会生まれ都会育ちでどうしても働くなら大都市が良いという若手にとってはこの上ない選択肢なのではないかと思われる。
つまり未来永劫、東京、ニューヨーク、ロンドン、シンガポール、香港と言った世界の大都市のどれかで働きたい方にとって金融マーケット関連職の魅力は大きいのではないかと考えられる。

2.一度配属されるとジョブ型の世界で戦うことになる(色が付く)

他の金融専門職も同様ではあると思われるが、マーケット関連職は特に金融機関の中でも他の業務と毛色が異なるため、一度配属されると基本的にはずっとその村社会の中で生きていくことになる。所謂背番号制、色が付くというやつである。
勿論フロントからミドル・バックに移るものは存在するが、基本的にはマーケット関連職の中で生きていくことになる。
ジェネラリストが多いJTCにおいて明確にジョブ型専門職として働くことが出来るというのはある意味一つの魅力なのではないかと考えられる。
またこれは更に言うと、一度あるアセットの色が付くと、基本的にはアセットが変わることも本人の強い希望がない限りは無いと思われる。株を扱ってきたものはずっと株の世界で戦うことになると思われるし、債券を扱ってきたものは基本的にずっと債券の村で戦うことになると思われる。

またこのジョブ型の世界で戦うことはもう一つ大きなメリットをもたらす。
それは、転職に(ある程度)強いという事だ。もう少し正確に言うと、金融マーケット関連職を引き続き希望するのであれば、どこかには引っかかるという事である。

3.周囲が高学歴ばかりで理不尽なことが(比較的)少ない


これはメリットにもデメリットにもなり得るが、マーケット関連職に従事している者の太宗が理系院卒であり、文系学部卒は少数派である。また理系院卒と言ってもそこら辺の大学卒ではなく、東大京大東工大早慶が結構な割合を占めており、話が通じない人と仕事をしなくても良いというのは大きなメリットかもしれない。文系も大体が早慶以上の帰国子女だったりする。

その上、支店を経験せずに最初からいきなりマーケット関連職に従事していることもあり、物凄く理不尽な仕打ちをしてくる人はあまり存在していない。
またマーケット業務がそもそもグローバルで動く職種であることから、海外のメンバーと密にコミュニケーションを取る必要があり、考え方も比較的柔軟ではある。
新卒の研修で見たようなきちんとジェルでセットし、礼儀に厳しいような人種はあまりマーケット関連職にはいないと考えて良い。
いたとしてもセールス職くらいであろう。

4.世の中の動向に敏感になることが出来る


これは自分自身がマーケット関連職に就いて大きく成長できた部分かもしれない。マーケット関連職に就くと、毎日世界情勢を見ることになるので、現在世界しいては日本国内で何が起きているかを常に気にするようになる。
こうして毎日マーケットを見渡していることである程度、世界経済を立体的に捉えることが出来るようになった。
頭の使い方としては、東大世界史に似た部分があると考えていて、まずは森を見てそこから部分的な木を見ていく、つまり俯瞰的に物事を見ていく力が付いていくのは大きなメリットであると思われる。
またこれはマーケット関連職に就いている方であれば同じであると思われるが、自分でサブスクすると月に数十万はする金融ベンダーが提供する情報端末を当然無料で見ることが出来るし、アナリストが書くレポートを読むことを「仕事」とすることも出来る。

大学時代も、マクロ経済学の理論的な話を授業で学んだりしたが、理論的かつ抽象的であり、正直なところあまり頭に入ってこなかった。例えば、フィリップス曲線と言われてもそれが具体的なマクロ経済の事象とどのように繋がってくるのか分からないし、経常収支の推移等を見せられても、それがどのような意義を持つのかと言うのが自分の中で腹落ちしてこなかった。
それが実際に日々マーケットを眺め、具体的なイベントを日々ウォッチしていくことで「あの時に学んだことはそういう事であったのか」という事が後々分かってくるという局面がよく訪れたし、今でも訪れることがある。
中央銀行の金融政策、各種経済指標、企業業績の動向、政治の情勢、株価や金利の推移等色んな指標を見ていくことであらゆる事象が点と点で結びついてくる瞬間が来るのが醍醐味の一つなのかもしれない。


5.過激な労働時間になることは無い

セルサイドであれ、バイサイドであれ、マーケット関連職は激務にはなりにくい。金融関連職の一つであるIBD(投資銀行業務)は月に100時間を超える残業を強いられることもあるが、マーケット関連職はそのようなことは起きにくいし、実際に自分自身も周りで見たことは無い。
暇な部署であれば毎日定時帰りすることも可能であるし、そのような人たちについては実際に観測したことがある。
筆者も社会人になってからの平均残業時間は30時間程度である。

背景としては、マーケット関連職はどこまで行っても資本集約的であるという事がある。結局マーケット環境が良くなれば儲かるし、マーケット環境が悪化すればパフォーマンスが低下するので、どこまで行ってもマーケット環境次第と言う側面が強いからである。
その点IBD(投資銀行業務)は人が実際に動いて作業や交渉を行わなければ一向に前に進まない業務であり、労働集約の最たるものである。

それでは、資本集約的なマーケット関連職とIBD(投資銀行業務)のような労働集約的な職種でそこまで収益性が異なるのかと言うと全くそんなことは無い。
これはピケティのr>gにつながる話で、金が金をもたらす業務と人が必死に働く業務では、労働時間は大きく変わるが、収益性は殆ど変わりない。
それどころか、マーケット環境さえ良ければ、マーケット部門の収益性の方が高いという事はよくある。

正直筆者も業務中暇な時間が結構ある。やることないなーと思いながら散歩したり、アナリストのレポートを読んで時間をつぶす瞬間が結構ある。
勿論昼休憩も1時間きっちり取得することが出来る。ただこれは筆者の運が良かったというのもあり、どの部署でも1時間の昼休憩を取れるわけでは無い点は補足しておく。


6.「勉強が出来る」ことが大きな強みになる

マーケット関連職の中でも扱う商品の仕組みが難しくなればなるほど、勉強が得意なメンバーが集まってくる。債券やデリバティブ、オルタナティブアセットのような難解な金融商品においては、そもそもある程度自分自身で勉強して習得していく能力が必要であり、「勉強が出来る」ことが大きな差別化要因(=参入障壁)となり得る。
これは筆者のような勉強しか出来ない高学歴発達障害にとっては非常にプラスであると考えられる。勉強はそこまで出来ないが、勤務態度が良く内申点が高そうなタイプは、(ことマーケット関連分野においては)そこまで活躍の場が無いと思われるし、どこかで限界が来る。
ぶっちゃけ新卒でマーケット関連職に入ってくるものは、高学歴だが、社会人としては「こいつ大丈夫か?」と思われるようなタイプも結構存在する。そんな理系院卒君や帰国子女ちゃんでも全然やっていけるのがマーケット関連職の良さかもしれない。

筆者は当然自分が発達障害であることを認識しており、「何か強みを付けないと(ヤバい)」と言う思いが強かったので、自分自身の「要塞」(参入障壁)を築くためにも、一応色んな勉強をしてきたつもりではある。(大したスキルは無いが)


7.英語を用いたグローバルな業務に携われる

バイサイドであってもセルサイドであっても、マーケット関連職は基本的にグローバルな環境で働くことになる。
勿論アセットによってはドメスティックな環境で働くこともあるかもしれないが、多くのアセットにおいてはグローバルな環境に身を置くことになる。
海外拠点との会議は頻繁に発生するし、そもそも契約書が全て英語で記載されているという事もよくあるので、英語が話せる・読めるに越したことはない。
英語を用いたグローバルな業務がしたい!と言う若手は案外多いので、そういう方にとってはピッタリかもしれない。
また理系院卒が多く、彼らはそんなに英語が得意ではないので、英語が出来るという点だけでも大きな差別化要因(=参入障壁)になりやすい。

以上がマーケット関連職の魅力である。
魅力を語ってきたが、当然ながらデメリットもあり、そのデメリットゆえにマーケット業務の人気はIBD(投資銀行業務)に劣後しているという認識である。また学生にとっては少し馴染みにくいというのもあるのかもしれない。
こちらの記事が今後マーケット関連職を目指していきたい方にとって参考になれば幸いである。