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パレット輸送と商習慣

JPR広報部の那須です。私たちJPR広報部では、様々なメディアからパレット輸送に関する取材をいただいています。そこでよく受ける質問のひとつがこれです。

なぜパレット輸送は普及してこなかったのですか?

いくつかの理由をお伝えするのですが、その一つが「商習慣」です。今回はパレット輸送と商習慣の関係についてのまとめに挑戦します。

よいものならば普及するはず?

サプライチェーン上の企業が協力して、パレット輸送(一貫パレチゼーション)を拡大すると、物流の効率が改善します。そうすると全体としてコストが下がり、その下がったコストを分配できればさらにパレット輸送は拡大していくはずです。(図)
ところが現実にはまだパレット輸送の普及は道半ばで、国レベルでの問題にもなっています。なぜでしょうか。ここに商習慣が関係しています。

理想的なパレット輸送拡大の好循環

「店着価格制」・「建値制」という商習慣

「店着価格制」とは、商品そのものの価格と物流コストを分けずに価格設定をする取引の形態です。店着価格制は、個々の現場で発生する物流コストの多寡が、価格に反映されにくくなります。
また、日本特有の商慣行として「建値制」がありました(今はオープン価格へと移行)。建値制は、卸売価格や小売価格をメーカーが設定する取引の形で、販売に対するインセンティブは、値引きではなく販売促進費やリベートによる割り戻しが主流だったようです。物流の面から見ると、物流条件の良い取引先と、そうでない取引先で条件の差を設けにくい仕組みだったともいえそうです。
これらの商習慣は、小規模な企業の割合が高かった日本の小売業で、消費者が全国どこにいってもだいたい同じ価格で商品を手に入れることができるという、良い効果ももたらしていた思います。しかし、反面ではサプライチェーン全体で物流効率化を行うことへの動機づけが働きにくい一因となっていたといえるかもしれません。

サプライチェーン全体で効率を上げてもメリットを分配しにくい

かつての建値制の影響や、店着価格制が一般的な現代の商習慣のもとでは、仮にパレット輸送をして効率化ができるとしても、その効果を売り手買い手でどのように分配するかを話し合うことに難しさが伴います。裏返せば、納品条件やパレットについての認識や決めごとが曖昧になりがちということ。実際に、発・着の荷主が両方とも「パレット納品ですよ」とおっしゃるので現場に行くと、納品ドライバーがパレットからパレットへ手作業で積み替えをしていた、という状況を目にしたことがあります。
このような事象は、決してパレットだけの問題ではなく、物流の様々な場面で表れています。例えば、納品ロット・頻度やリードタイム、ドライバーの付帯作業、あるいは車両の長時間待機といった問題です。

どちらかが悪いという議論でよいのだろうか

いま物流現場で起きている事象に対して、「買い手が条件を緩和するべきだ」という意見や、「いやいや、そもそも売り手が構築してきた商慣習だろう」という反論がでます。
このようにパレット問題の周辺には、どちらが善い・悪い、といった議論が見られますし、そこには立ち入らず「商慣習の見直しが必要だ」という一般論で終わることもあります。
何とかして解を探さなければなりません。

現実に合わせた解を求めてきたこれまでの取り組み

パレット輸送は劇的な普及を見ることなく現代に至っていますが、JPRでは、少しずつパレット輸送を拡大させてきました。そのきっかけは1990年代初頭に始まった加工食品メーカーの方々との取り組みにあります。
当時は、商品の輸送に使用した後のパレットを回収する仕組みがありませんでした。確実にパレットを回収するためには、例えば卸売業にもレンタルパレットの契約をしてもらうのが一つの方法です。しかし、加工食品メーカーの方々は、それを現実的な解とは考えませんでした。メーカーとしての負担を受け入れながら、取引先にも受け入れ可能な枠組みをJPRともに考えてくださったのです。そして自ら同業のメーカーにも声をかけ利用の輪を広げて得意先がレンタルパレットを受け入れやすい環境を創り出しました。私たちJPRは、構想を具現化するために現場で奔走したという訳です。

大切だと思うこと、変わらなければならないこと

商習慣に合わせた仕組みを広げてきたJPRのこれまでの取り組みを評価いただける場面も、ご批判をいただくこともあります。どちらにしても、当事者ではないJPRが商習慣(商取引の条件)を変えることは難しいのは事実です。
もちろん、今のパレット輸送のしくみがいつまでも変わらなくてよいとは考えていません。新しいビジネスモデルが勃興し、技術の進展も止むことがありません。そうやって日々変化していく状況をしっかり理解し、売り手買い手の双方にとって会話が通じる存在でなければ、企業をつなぐパレット輸送を普及する役割は果たせないと思います。ですから、対話は私たちJPRにとってとても大切な行動です。

近年、サプライチェーンの垂直・水平両方向でかつてないような対話が行われています。それは、協調によって物流危機を乗り切り持続可能な物流を創り出すものだと思います。その先に革新的な変化が起きうるのでしょうし、このような取り組みのほかにも、もしかしたら思いもよらない出来事、技術、新しいプレイヤーが現れることによって、これまでの商習慣が激変するかもしれません。私たちは、今あるパレット輸送のしくみを柔軟に変化させることができるよう構えておかなければならないと考えています。

今回はパレット輸送と商習慣の関係についてまとめさせていただきました。最後までお読みくださりありがとうございました。