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【ものがたり】 椿の庭
その家には、小さい椿の木が一本ありました。
日が差すと、光が満ちて溢れかえってしまいそうなほどささやかな庭で、椿はもう何十年も生きてきました。
あまり大きな木にならなかったのは、小さな庭で自分が大きくなりすぎると、深い緑の葉影が増え、春に萌え出る下草たちや小花たちが冬の間に土の中で凍えてしまい、この家にやさしい春を届けることができなくなると、椿は知っていたからでした。
というのも、椿は土の中に根を巡らせていましたから、冬でも、下草たちの声を聞くことができたのです。
日の光がだんだん土を温めて、下草たちがそれぞれに喜ぶ声を聞くのが、椿は好きでした。小花たちは歌をうたいます。
そうして、その喜びの声や歌が、椿の根を伝い、幹を伝って、日の光を照り返すつややかな葉を揺らし、やがて椿は紅い蕾をいくつもつけるのでした。
椿は、この家に暮らすおばあさんのことが、とても好きでした。椿がおばあさんに出会ったのは、これもまた、何十年も前のある日のことでした…
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