論文紹介〜入院中の高血圧に対する降圧治療強化は必要?〜
脳出血や急性心不全など、入院中に厳格な血圧コントロールを要する疾患ではなくても、例えば肺炎、大腿骨頸部骨折で入院した患者さんの血圧が高いと、良かれと思って降圧薬を開始あるいは強化したりすることありませんか? もしかしたら、そのプラクティス、(百)害あって一利なし、かもしれません。
今回は、2021年1月21日付のNEJM Journal Watchで取り上げられていたこちらの論文をご紹介します。
Treatment and Outcomes of Inpatient Hypertension Among Adults With Noncardiac Admissions
非心疾患で入院した高血圧患者の治療と転帰
Radhika Rastogi, MD, MPH1; Megan M. Sheehan, BS2; Bo Hu, PhD3; et al
JAMA Intern Med. Published online December 28, 2020. doi:10.1001/jamainternmed.2020.7501
要約
Importance 重要性
入院患者では血圧高値が多いにもかかわらず、入院患者の血圧マネジメントに関するガイドラインは不足している。入院患者の降圧治療強化に関連した転帰もあまり研究されていない。
Objectives 目的
入院中および退院時の患者の高血圧に対する臨床医の対応がどうであるかを調査し、降圧治療強化に関連した短期・長期転帰を比較する。
Design, Setting, and Participants デザイン、セッティング、参加者
このコホート研究は、2017年1月1日から12月31日まで、クリーブランド・クリニック病院の医療システム内の10病院で1年間の追跡調査を行ったものである。2017年に内科に入院したすべての成人を対象に評価した。心血管系の診断を受けた患者は除外した。人口統計学的特性と血圧特性をプロペンシティマッチングに用いた。
Exposures 曝露
急性期の降圧治療(降圧薬の静脈投与や、新しいクラスの経口降圧薬投与)
Major Outcomes and Measures 主なアウトカムとその測定
急性期の降圧治療とその後の急性腎障害、心筋障害、脳卒中との関連を測定した。退院後30日の脳卒中および心筋梗塞と、1年以内の血圧コントロールも評価した。
Results 結果
非心血管疾患で入院した22,834人の成人(平均年齢[SD], 65.6[17.9]歳;女性56.9%;白人69.9%)のうち、17,821人(78%)が入院中に1回以上の高血圧を記録されていた。これらの患者では、5,904人(33.1%)が治療を受けた。収縮期血圧の高い106,097例のうち8,692例(8.2%)が治療を受け、そのうち5,747例(66%)は経口薬での治療だった。患者の特性と血圧の特性でプロペンシティマッチングを行ったサンプルでは、治療された患者はその後の急性腎障害(466/4520[10.3%] 対 357/4520[7.9%]; P<.001)と心筋障害(53/4520[1.2%] 対 26/4520 [0.6%]; P=.003)の発症率が高かった。血圧の高さがどれくらいでも、未治療の患者と比べて治療を受けた患者の転帰は良好ではなかった。高血圧患者17,821人中、合計1645人(9%)が降圧レジメンを強化して退院した。退院時の降圧治療強化は、翌年の血圧コントロールの改善とは関連していなかった。
Conclusions and Relevance 結論と関連性
このコホート研究では、入院患者の血圧高値はよくみられたが、降圧治療の強化は多くなかった。臓器障害の兆候のない患者への降圧治療の強化は、転帰の悪化と関連していた。
NEJM Journal Watchのコメント
先行研究でも、高血圧の入院患者は一般的に血圧の一過性上昇を経験し、その結果、退院時に外来降圧レジメンを強化されることが示されている(BMJ 2018; 362:3503)。しかし、そのような治療強化は害のリスクと関連している(例:再入院、失神、急性腎障害;JAMA Intern Med 2019; 179:1528)。
著者も述べている通り、入院中の血圧上昇はいくつもの要因があり、高血圧を認知して反射的に治療を開始するのではなく、まずその原因(痛みなど)を評価することが必要である。
私見
降圧薬に限りませんが、患者さんが入院したら、普段飲んでいる薬のうちどれを休薬しどれを継続するか、あるいは新規に開始すべき薬があるか、みなさんも毎度毎度、検討されていることと思います。
降圧薬をやめてみても、入院中は案外正常血圧で推移していたりします。少し本題からは逸れますが、降圧薬関連で休薬するときに私が注意しているのは、①そのCCBは冠攣縮性狭心症に対して処方されている薬ではないのか? ②そのACE阻害薬/ARBは心不全や心筋梗塞、慢性腎臓病に対して処方されている薬ではないのか? ③そのβ遮断薬は不整脈に対して処方されている薬ではないのか?などです。②の場合は、急性期には必要に応じて休薬していても構わないと思いますが、①や③の場合は、休薬によって患者さんに有害事象が生じる可能性があります。では、そういったキードラッグではなかったとして、入院中にやめた降圧薬は退院時もやめたままでよいのでしょうか?
この疑問と、今回紹介した論文とに共通する点として、私が個人的に感じているのは、“白衣高血圧や仮面高血圧をみているのではないか?”(入院中の高血圧=白衣高血圧、入院中の正常血圧=仮面高血圧)ということです。ほかにも、家庭と病院での塩分摂取量の変化やアドヒアランスなどが関与していることもあるかもしれませんね。
今回、非心血管疾患患者に対する入院中の降圧治療強化が、心筋梗塞や急性腎障害を増やす可能性があること、1年後の血圧コントロールも改善していなかったことが示されました。プロペンシティマッチングを行っていると言えど、ランダム化比較試験ではないので、他の交絡因子があるかもしれないことを頭の隅には置いておきましょう。ただ、心不全や脳出血などのように急性期の血圧コントロールが必要な疾患でない患者の場合、血圧のコントロールを焦る理由はありませんし、高血圧治療ガイドライン2019でも、家庭血圧を指標とした降圧治療の実施を強く推奨する(推奨の強さ1, エビデンスの強さB)、と記載がありますので、やはり外来で家庭血圧をモニタリングしつつ調整していくのがよいのではないかと思います。
(文責:平松 由布季 東京ベイ・浦安市川医療センター)
※当記事の内容は、所属する学会や組織としての意見ではなく投稿者個人の意見です。
LINE公式アカウントに友だち登録していただくと、最新note記事や、当チームの主催するセミナー・勉強会のご案内が届きます。
当チームに加わりたい・興味がある、という方は、LINE公式アカウントに友だち登録のうえ、【参加】とメッセージを送信してください。