おすすめの本~米国緩和ケア医に学ぶ医療コミュニケーションの極意~
重篤な疾患をもつ患者さんやその家族との面談の際に、「重い話」だな~とストレスを感じてしまったり、はたまた「重い話」を避けてしまったり。自信がなかったり、患者さんからの問いかけに言葉に詰まってしまったり、家族と口論のように対立してしまったり。なんてこと経験ありませんか?
おすすめの本シリーズ第7段は、重症患者へのコミュニケーションについてです。
米国緩和ケア医の3人の先生方が重病患者とのコミュニケーションの取り方についてまとめた『Mastering Communication with Seriously Ill Patients: Balancing Honesty with Empathy and Hope』を、植村健司先生が翻訳されております。実践的アドバイスにあふれた一冊です。
自分自身、病状説明や治療方針の相談などの面談には少し慣れてきたかな、なんて思っていても、「重い話」となると急に高い壁を感じ、上手くいかなかったり、難しいなと感じることが多々ありました。これまで「重い話」の仕方について系統的に学ぶことはあまりなく、そういう話が上手な先生の面談に一緒に入らせていただくことで学んでいました。しかしながら、達人レベルの先生が話していると、一見簡単そうにみえるのですが、いざ自分では実践が難しく、習得できないことが多々ありました。
本書の中では、「重い話」をするにあたって、普通のコミュニケーション能力しか持ち合わせていない = 3段ギアの自転車で高い丘を登るようなもの、と例えられていました。この技術は学習し身につけることができるものであると強調されており、具体的な実践方法と具体的な学び方が記載されています。
有名な身体診察の教科書である『サパイラ 身体診察のアートとサイエンス』のバイタルサインの章では、ヘミングウェイの『午後の死』の一節が紹介されいます。
手引書には2種類ある。先に読むものと後から読むものである。物事の後に読む形の手引書は、その事柄自体が十分に重要なものであれば、実施前に読んでも限度があって理解しがたいものになる。紙の上では実現することが不可能なもの、あるいは少なくとも紙面上では一度にバリエーション1つ以上は記載できないもの、などにこそ(後から読む)手引書の価値がある(一部改変)
まさに「重い話」に対するコミュニケーション能力の学習こそ、この後から読む手引書の価値があるのだと思いました。
本書は、実際の臨床の流れに沿って構成されてます。すなわち医師が、生命を脅かすような重篤な病気を持つ患者さんと面談し(第2章)、悪い知らせを患者さんに伝え(第3章)、治療方針を決め(第4章)、予後について説明し(第5章)、大きな転機のあとにフォローアップし(第6章)、家族を交えて話し合いを持ち(第7章)、意見の対立に対処し(第8章)、終末期医療へ移行し(第9章)、そして死ぬ事について話し合う(第10章)という流れになっています。
つまり、2通りの読み方ができます。はじめから系統立てて勉強することもできますし、困っているシチュエーションを勉強することもできます。自分としては一度通読した今、今度は自分が実際に面談を行う場面毎の予習/復習に使いたいなと思っています。
話し相手の認知データ(意識的な思考過程)の他に、感情データに注意を払うこととその重要性が各所で強調されています。各場面毎にロードマップ(枠組み)が明確に示されており、また実際の会話例とそれに対する認知/感情の細かな解説、また上手くいかない場合の対処法などが記載されています。また、こちらもサパイラを彷彿とさせるのですが、各章ごとに具体的な「自己学習の方法」が記されいる点も非常にありがたいです。
ロードマップの一例には下記のようなものがあります。
悪い知らせを話し合うための6step(SPIKES)
・Setup:会話に備える
・Perception:患者さんの理解を把握する
・Invitation:本題に進む際に、患者さんの許可を得る
・Knowledge:悪い知らせを伝える時は素直に
・Emotion:患者さんの感情に対応する
・Summarize:今後の予定をまとめる
感情に対して言葉を使って反応する(NURSE)
・Name:感情の名前を挙げる
・Understand:理解を示す
・Respect:敬意を示す
・Support:支持を示す
・Explore:掘り下げて聞く
本書を通読した後、自分のレベルが上がった音、一段高い場所から世界をみれた感覚がしました。
でも達人の先生の面談を見てても、こんな型通りにしているわけではないよな、、、? なんて思っておりましたが、本書の最後には、ロードマップは超えていくものと記載されていました。建物が出来上がると解体される足場のごとく、ロードマップは存在しており、自分なりのスタイルを作っていくのだと。自分もそんな境地を目指して今は型どおり練習に励みたいと思います。
ぜひ読んでいただきたい一冊です。
(文責:小野雅敬 兵庫県立淡路医療センター循環器内科)
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