離島で病院総合診療医~石垣島から~
皆さんこんにちは。沖縄県石垣島にある沖縄県立八重山病院の酒井達也と言います。
現在は日本最南端の総合診療/新家庭医療専門医プログラムを有する八重山病院で病院総合診療医として勤務しています
離島で病院総合診療?と思われる方がいらっしゃるかもしれません
自分が離島で病院総合医として働こうと至った経緯、そして離島やへき地ではどのようなことが求められるのか紹介させていただきたいと思います。
総合診療・家庭医医療に出会うまで
自分は自治医科大学に入学し、学生時代から将来は離島診療所に赴任になることは認識していました。しかしそれはあくまでも「義務」であり、学生時代は義務年限終了後に小児科医になりたいと思っていました。
恥ずかしながら学生当時は総合診療や家庭医療の存在も知りませんでした。
卒業後は沖縄県内の中核病院で初期研修を開始しました。勤務していた病院では当時としては珍しく初期研修2年目で週一回の総合内科新患外来がありました。そこで出会った指導医の先生方が今までの自分の考え方を大きく変えるものでした。問診と身体診察を重視した外来教育と臨床推論のディスカッションがとても衝撃的であり、こんな楽しい世界があるのかと思いました。
そして外来の経験を重ねるにつれて、みなさんも経験されていると思いますが、BPSモデルのBだけでは解決できないこと、患者さんの満足が得られないことに気づきました。その際に家庭医療指導医から全人的医療の方法を教えていただき、総合診療・家庭医療の世界にのめりこんでいきいました
離島診療所勤務時代
卒後4年目にはへき地義務として医師一人、看護師一人の離島診療所に赴任となりました。病院とは違うthe地域医療を経験することができ、また患者さんの生活や背景まで強く意識できるような経験をすることができました
離島診療所は都市部のクリニックとは違う点は、3次救急の初期対応まで求められるという点でした。2年間の赴任期間のうち心肺停止、溺水、心筋梗塞、高エネルギー外傷などそれなりに重症患者を診ることがありました。医師一人で対応しないといけない怖さもありましたが、重症対応はそれなりにやりがいもあり、離島診療所に勤務する中で「医師人生の中でもう少し急性期医療の経験も積みたい」と思うようになりました
その後離島診療所勤務を終え一年間だけ沖縄本島の中核病院で勤務しました。その中で初期研修のころに出会った恩師に今後のキャリアを相談したとのころ「先生は臨床推論や総合診療にとても興味があるから、次は病棟管理もできる環境に身を置いた方が楽しくなるよ」と言われました。そして本来であれば2回目の離島診療所勤務予定でしたが、異動人員の兼ね合いで八重山病院への派遣が決まりました
八重山病院での勤務
八重山病院が立地する八重山地方は石垣島をはじめ周辺に有人離島を8ヵ所(最近は世界遺産登録された西表島も八重山地方にあります)あり、約5万人が住んでいます。八重山病院は地域唯一の総合病院でありありとあらゆる患者が当院に紹介されてきます。また周辺離島から急患搬送の場合は、八重山病院の医師が海上保安庁のヘリコプターに乗り患者を迎えにいきます
病院総合診療医として現在自分の業務内容は下記の通りです
・新患外来 ・定期外来 ・病棟管理(一般病棟から集中治療まで) ・内科当直 ・看取りを主とした訪問診療 ・COVID-19病棟管理 ・離島診療所代診 ・無医島への巡回診療 ・ヘリ当番 ・研修医教育 ・緩和ケアチーム ・地域連携室室長
まさに多くがSHMが掲げた病院総合診療医のコンピテンシーを離島病院でも実践できています(業務内容が多いと驚愕されているかもしれませんが、同僚とみんなで分担していますので、きちんと定時には帰宅でき家族との時間もしっかり確保できています!)
また最近ではCOVID-19の影響でなかなかできていませんが、島だからこそ地域と顔が見える関係性であり、行政と一緒になり地域の福祉介護施設向けに勉強会を開いたりしています。またCOVID-19で施設や周辺離島でクラスターが出た際には保健所や感染症認定看護師と協力し施設や周辺離島に赴き、感染対策指導や検査、日々の回診などを行っています。地域に飛び出すことが比較的多いかもしれません。
離島病院総合診療医の特徴とは?
先ほどお伝えした通り離島でも病院総合診療医はSHMがコンピテンシーとして掲げた内容が主になります。
しかし離島では都市部とは違うpracticeが求められています
離島やへき地医療のシステム、教育が進んでいるオーストラリアのAustralian College of Rural and Remote Medicine(ACRRM)では下記の8つの領域を示しています
上記の表を見てお分かりの通り、求められる能力が幅広いことにあると思います。離島は他の医療圏と物理的にも距離があり、一定レベルの自己完結型の医療が求められます。そのため幅広い疾患への対応能力(初期対応能力)と一定レベルの専門医療が行える能力が求められます。実際2年前に新たに流行したCOVID-19に対してはECMO以外の疾患を対応できるレベルまで求められましたし、また当直でも一次から3次救急まで来ますので、ど重症を内科医師一人と看護師2名で対応しなければなりません。また大動脈解離など当院で対応困難な症例に関しては、自衛隊を要請し沖縄本島へ搬送しています。そのため初期対応能力はもちろんのこと、トリアージ能力(島でみていてよいのか)が求められます。
また離島は医療資源が乏しく、離島中核病院が担っている役割が多いです。そのため二次医療はもちろん、時にはプライマリケアの提供であったり、看取りも行います。
集中治療室で敗血症性ショックの患者を診ていた1時間後に担癌患者さんの訪問診療を行うなどもあります。
離島病院で病院総合診療医をやる楽しみ
離島での勤務する楽しみは個人的には3つあると思っています
一つ目は先述した通り幅広い医療を経験できるところにあります。主に内科系の業務が多いですが、循環器や呼吸器と専科に分かれていないため、年中幅広い症例や手技を経験することができます。また唯一の基幹病院であり興味深い症例もたくさん集まってきます。
二つ目は自分がやってみたいことがすぐにチャレンジできる環境です。
離島病院と言えども病院ですので、病院機能を維持や、質を向上させていく必要があります。しかし離島は常に人材不足であり、また大学病院からの派遣で成り立っています。毎年医師の入れ替わりが激しく、ヘルスケアシステムの向上に寄与する人材が少ない状況にあります。そのため若い医師でも気軽にヘルスケアシステムに挑戦できる環境にあります。様々なことを計画し実践し、よりよいシステムを作り上げていくことが経験できまた身をもって実感できる環境が離島にはあると思います
最後はなんといっても豊かな自然環境です
時には多忙なこともありますが、当直明けに車で5分走らすと、とてもきれいな海がすぐに見える環境です。疲れも一気に引き飛びます。週末には船に乗っていけばすぐに西表島や竹富島といった離島にも行くことができます。ゆっくりとした時間が流れる島でとても日々癒されています
以前は離島という立地はハンデであったかもしれませんが、コロナ禍の影響もあり最近はオンラインで開催されるセミナーも増え、離島でも勉強ができる環境になりました。離島に住みながらも全国各地の病院総合診療医と繋がれたこともとてもうれしい限りです(実は自分自身はコロナ禍から病院総合診療チームに参加したため、チームメンバーとオンサイトでまだあったことがないです)
最後に
病院総合診療医と言えども様々なキャリアプランがあり、不安を感じる方もいるかもしれません。しかし裏返せば自分次第で様々な働き方、活躍ができる分野でもあります
自分自身もまだ離島でどのような役割を果たしていけるのか模索途中です。しかし日々仕事もプライベートも充実した毎日を送っています
少しでも興味を持たれた方、また離島で一度は働いてみたいと思っている方は気軽にご連絡いただければ幸いです
(文責 酒井 達也 沖縄県立八重山病院 総合診療科)
※当記事の内容は、所属する学会や組織としての意見ではなく投稿者個人の意見です。
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