死ぬほどブーイングしていた家本主審に、今は拍手を送っている話
子育ての書き物から離れて番外編です。サッカー、Jリーグのお話です。
このツイートを見て、私は昔懐かしい想いになりました。
ざっくり言うと、「Jリーグで物凄く嫌われていた審判のインタビュー」です。
率直に、最近見たどの記事よりも感動しました。そして、他人事ではありません。
何故なら、この記事は「家本さんの努力」と「サポーターからの批判・罵声」でできています。家本さんの努力の向こう側にいたのは、自分の批判だったのですから・・・。
懐かしい思い出や恥ずかしい思い出に浸りつつ、自分とJリーグと審判の皆様への想いをつらつらと書いていきます。
■ 「家本、お前が退場だ!」Jリーグと一緒に歩んだ半生(反省)
私はかれこれ15年以上Jリーグを見ています。ちょうどジェフ市原が戦術面で革新的なムーブメントを起こし、浦和のエメルソンが無双していた頃でしょうか。
家本さんが頭角を表し、J1で笛噴き始めた00年代中盤と、私がJリーグを見始めた時期が殆ど同時期です。
最初に申し上げると、私は家本さんを筆頭に、審判全員が大嫌いでした。
「いつも自分の応援しているチームに不利な笛ばかり吹く!」「自分の応援チームはリーグから嵌められているに違いない!」「審判は協会とグルだ!」
10代だった自分は、そんな事を半ば本気で思っていました。今の自分が当時の自分を見たら、恥ずかしくて直視できないかな、と思います。少なくとも息子に「あの人誰?」と聞かれたら「頭のおかしい人だよ」と答えて、ささっと逃げるでしょう。
とは言え匿名のネットユーザーの私には特に守るべき名声も何も無いので正直に書きます。
『実録!今となっては子育て投稿をしているJパパが発した、息子には絶対に聞かせられない罵声の数々』です。
「やい岡田!なーにがジャスティス(ニックネーム)だ!地獄へ落ちろ!」
「(警告を出した時)西村レベル低すぎ!」
「家本、お前が退場だ!」
「(審判紹介の時に)うわ~村上かよー!ついてねぇ!」
「やい!家本!協会からいくら貰ったんだ!」 ※J1の主審で約12万円
「引っ込めジャスティス!土下座して謝れ!」
※その他多数
活字にすると、もう本当に酷いですね。知性も気遣いも何もあったものではありません。恥ずかしくて、書いている途中で冷や汗と変な笑いが出てきました。
勿論ルールブックなんて読んだことありませんでしたし、何ならサッカーの経験もありませんでした。
一番安いチケットを買っただけのただのファンが、どういうわけかここまで増長してしまうのです。
しかし、こんな未熟な学生サポーター(アホーター)だった私の様な人間のために、日本の審判の方々は研究と練習を重ね、どんどんとレベルアップをしていってくれました。
それは単なる技量だけでなく、メディア展開などのコミュニケーション方法についてもです。
私も歳を重ねるごとに苛立ちが減り、ゴール裏からの光景でしか見れなかったJリーグというものが、広くて深くて面白いものだと再認識するようになってきました。
「ああ、スタジアムって、こんなに面白かったんだな」
そんな言葉が脳裏に浮かんだのは、初めてサッカーを見てから10年以上経ってからでしょうか。
家本さんに失礼を承知で言うと、まるで自分と一緒に歩んでくれた様な感覚すらあるのです。
そんな私の、心情の変化を書いていきたいと思います。
審判のミスに対してのブーイング・罵声・暴言・妨害の指笛ばかりだった自分が審判の方々を尊敬し、審判紹介で拍手を送るようになるまで。
そして、家本さんや、他の審判の方について、思うことをつらつらと書いていきます。
■ なぜ、Jリーグはブーイングが多いのか
まず前提として、日常生活で一生お目にかかる事のないブーイングという行為が、何故Jリーグでは普通なのかを考えていきます。
Jリーグは相撲やプロレス、日本のプロ野球のファンと比べて、ブーイングで誰かを批判する機会が多いです。
ファウルをした相手の選手、期待に応えられない味方の選手、因縁のある監督、結果を出さない経営陣、相手のサポーターへの歌声、もたつくボランティアのボールボーイ・・・
ありとあらゆる人がブーイングの対象になります。
この中でも、審判の方は特にブーイングを受ける機会が多いです。
主にミスジャッジに対してですが、明らかに見て分かる様な誤審はそうそう多くないので、正確に言うと「ファン・サポーターがミスだと思ったジャッジ」に対してのブーイングです。
後から見返したら審判が正しかった、なんてことは日常茶飯事な訳です。(逆に、正しいと思っていたけど、よく見たら審判が間違っていた、という事もありますが)
実際に審判へのブーイングの動画をピックアップしてみます。
さて、サッカーのスタジアムへ行ったことのない方は、何故ここまで殺伐としているのか、なぜブーイングに抵抗がないのか、理解が出来ないと思います。
理由は色々ありますが、大きな理由は3つあるのかな、と思います。
1. 試合の少なさと充満するエネルギー
サッカーの試合は1週間に1回程度です。
しかも、通年でやっているわけではないので、地元で試合をやる機会は1年に20試合程度となります。
そうなると、1試合にかけるサポーターの熱量も、非常に濃度の高いものとなるのです。
消化試合が少ないことからポジティブな熱気を生みやすい反面、チームが不調だとネガティブな雰囲気に包み込まれ、ブーイングや罵声まみれのスタジアムが出来上がります。
2. 昇格・降格制度の存在
突然ですが、目の前に1万円札のブロックが何十キロ分もあったらどうしますか?
幸せな気持ちになるはずです。
しかし、それを手にしてから取り上げられたら?
不幸のドン底でしょう。
JリーグにはJ1リーグからJ3リーグまでの3つのカテゴリーがあります。
そして、毎年のリーグの中で、成績の良いチームが上位カテゴリーに、成績の悪いチームが下位カテゴリーに落ちていきます。
チームの関係者は上に上がろうと、もしくは下に下がるまいと、それぞれ必死です。
降格するとチームとしてのプライドもへし折られますし、何より経済的なダメージも大きい。
2019年にJ1からJ2降格したチームの例で見てみると、松本山雅FCや柏レイソルはだいたい5億円以上の減収となっております。
5億円と言えば、1万円札50㎏分です。
試合にそこそこ多く負けただけで、50㎏の1万円札が消えてなくなるわけです。
当然ながら、減収の煽りで首になる選手やスタッフがでるわけです。
逆を言えば、目の前に試合を制すれば、50㎏の1万円札が降ってくる事だってあります。
もしかしたら100㎏かもしれません。
そりゃ皆必死になりますよね。
文字通り生活がかかっているわけです。
審判のミス1つで、複数人のクビが飛ぶ、なんて事もありえなくはないのです。
3. 海外のサポーターからの影響
個人的には、これが一番大きかったです。
百聞は一見にしかずということで、動画を見てみましょう。ギリシャの試合の様子です。
もう、何なんですかねこれは(笑)
何度見ても意味が分かりません。彼らが試合を観る気があるのかも不明です。てか物理的に見れないじゃないか(笑)
でも、昔の自分が見たら興奮して夜も眠れない動画である事は間違いありません。
海外のサポーター、特にドイツやイタリア、イングランドもさることながら、セルビア、ギリシア、トルコなどの東ヨーロッパ~トルコ付近や北アフリカのモロッコなどの地中海沿い、アルゼンチンなどの南米のスタジアムでは、サポーターが熱いのです。
彼らはスタジアムを異空間に変貌させ、選手を声援で動かし、自分達の愛するクラブの為に人生を捧げます。
ただ、彼らのマナーが良い訳もなく、渋谷のハロウィーン騒動なんてお遊戯大会に思えるほど、スタジアムの内外で暴れまくります。文字通りの「破壊活動」です。
割れたガラス瓶を片付けもせず、泥酔したまま酒屋に雪崩れ込んで喧嘩を始めるような人達が数多くいるみたいです。
下の動画のような事は、特段珍しくもなんともないのです。(PSGとチェルシーのサポーターの喧嘩の様子)
このほかにも「〇〇(チーム名) hooligan 」で検索すれば、もっと過激なのが沢山出てきます。トルコやロシア、ギリシャあたりがおススメです。
警察や地元住民に迷惑をかけることを悪いとも何とも思ってない人達が、勿論審判に対するリスペクトが十分なわけもなく、難しい判定の度に罵倒雑言の雨嵐な訳です。
日本の応援スタイルはドイツ、イタリア、アルゼンチンあたりの影響を大きく受けていますが、その文化を取り込むにあたって、彼らの凶暴性を少し吸収してしまっているのだと思います。
なので、スタジアムの中で過剰なブーイングをする事は、特段おかしいことでも何でもない、という共通理解が出来上がっているのです。
■ 快楽物質に振り回されていた自分が、楽しさを手に入れるまで
さて、Jリーグのスタジアムにブーイングが多い理由を話したところで、私の話に戻しましょう。
Jリーグを見始めた頃の私にとって、サッカーはスポーツではなく、叫ぶための道具でした。
サッカーは外から興奮を与えてくれる刺激物だったのです。
ブーイングや批判というのは、普通の人は滅多にしないと思いますが、若くエネルギーがありあまり、かといって勉強にも運動にも注力できなかった自分にとっては、格好の調整弁でした。
まだYouTubeが今ほど身近でない時代に、海外のマニアなサイトでドイツやトルコの応援を見て憧れを募らせました。勿論、彼らの激しいブーイングにもです。男たちの雄たけびが、本当に力強く、かっこよく見えました。
試合をゴール裏から見ている最中、「何かブーイングができる理由はないのか?」と探し回っていました。
倒れて起き上がれない相手選手、キーパーへのバックパス、選手同士の掴み合い、元所属選手の応援歌、情けなく項垂れる味方選手・・・ハッキリ言って、有り余るエネルギーを放出できれば何でも良かったのです。
だから、審判のミス(だと思う)ジャッジなどは、もう美味しくて仕方のないブーイングの対象でした。
前述した通り、「審判は俺達を嵌めようとしている」という被害妄想を体内で循環させていた為、審判へのブーイングをする瞬間はアドレナリンやらドーパミンやらが大放出状態な訳です。
実際にカードの数が今よりもだいぶ多かったので、そう錯覚してしまったのでしょうが・・・
「俺が貴様ら悪党を裁いてやってるぞ!」
一言で言うと、そんな感じでした。
いえ、私だけではありません。インターネットの掲示板には今と変わらず過激な審判批判が並び、私は「皆もそう思っているんだ!」と妙な自信をつけていったものです。親父が見たら「赤点ばかり取りやがって!早く勉強しろ!」と、ぶん殴られそうです(白目)
そんなこんなで、盗んだバイクで走り出す度胸のなかった自分は、スタジアムで気を大きくしていたのです。
ただ、二十歳になったあたりで、この応援スタイルは自分の中で下火になっていきました。
2010年の前半頃からでしょうか、本当に少しずつですが、審判の方々からの発信が出始めたのは。今でこそ「Jリーグジャッジリプレイ」ですとか、那須さんのYouTube動画などで審判は近い存在になってますが、あの頃は本当に何にもなかったのです。
そういった情報が目には入るようになり、気付けば自分で探すようになっていったのです。
自分の生活が徐々に充実したのも影響しているかもしれませんが、間違いなく審判側からの発信は大きな要因でした。
ロンドンオリンピックでの3位決定戦、日本対韓国の試合は当然激しいファウルの応酬で、若き日の山口蛍選手や鈴木大輔選手、東慶悟選手や清武弘嗣選手、そして大津祐樹選手などが体を張って戦ってました。
確かク・ジャチョル選手だったかと思いますが、日本の選手を挑発して一触即発の場面。
試合を裁いていたイルマトフ主審が間に割って入り、十分な時間と丁寧な説明、そして言語の壁を越えた明確なジェスチャーで選手を落ち着かせ、試合の進行をスムーズにしていました。
「へぇー、上手い審判だなぁ」
たぶんその時、初めて審判に対しては「上手い」という感情を抱いたと思います。
こんな感想を抱くまで、サッカーを見始めてから、だいぶ時間が経っていました。
私は、スタジアムでは応援の大きさはそのままに、審判に対するブーイングは格段に減りました。というか、皆無になったと言って良いかもしれません。
そして、あんなに憎らしかった審判の人達に対して、負の感情を抱かなくなっていきました。
徐々に、良い意味で名前を覚えていけるようになりました。
良いレフリングだった試合を覚えるのは難しいことではありません。ルールが分からなくても簡単です。
試合前に審判の名前を確認し、試合後にささっと、審判の名前をもう一度確認すればいいだけです。
私もそうでしたが、多くの場合で、審判がミスジャッジをすると、試合後に「あの審判は誰だ!」と名前を調べ始めます。
つまり、試合中に脳内に存在しなかった審判が、ミスした時だけ突然現れるのです。
そういう後出しじゃんけんはやめて、どんな試合でもほんの少し、審判の名前を確認するのです。
荒れなかった試合、的確なカードを出した試合、そういった試合の審判の名前を覚えていくうちに、自分なりの審判リストができていきます。
また、荒れた試合の次に見た試合でナイスジャッジをしてくれると、「前回と違って、どんなところが良かったのかな?」と、脳みそが勝手に審判の良いところを探し始めるんですね。
佐藤隆治さんは2013年の鹿島対清水の開幕戦でミスがあり、仕方がないとは言え大きな批判がありました。
その後自分が生で見た試合で担当になり、見事に試合を裁き切ったので、その次にテレビで見た試合では「どこが良いところなのかな?」と興味が佐藤さんに移りました。
するとゴール前でのポジション取りが良いんですよね。動きの鈍い審判と比べて、明らかに俊敏です。
また、攻守の切り替えが早いロングカウンター攻撃にも、しっかり付いていってるのです。選手に離されないのは日々のトレーニングが良いものなのだろうと思ってます。
2014年の大宮対FC東京の試合を荒れ模様にした上田益也主審も、修羅場を何回も潜り抜けたからか、最近担当した試合を見たら貫禄というか、落ち着きが出てて驚きました。自分の中ではおどおどしている印象だったのが、しっかりとアップデートされました。
高山啓義主審は差別発言云々でニュースになっていたので、最初の印象は悪かったのですが、とても律儀そうな人で、良い意味で驚きました。コミュニケーションをしっかり取りながらの試合のコントロールは上手かったと思います。
そんなこんなで、外側からの刺激と快楽を求めていた自分はいつしか、脳の中から湧き出る興味と観察の虜になっていきました。
日々の変化を観察し、静かに、それでいて楽しく見れる様になっていきました。
また、審判の他にも戦術面や会社経営なども徐々に見れるようになってきて、Jリーグの広さと深さをどこまでも楽しめる様になっていったのです。
■ 審判の仕事の難しさを理解する為の「5つの本質」
現在の私のリスペクトの基盤になっている事です。
審判に対してリスペクトを持つには細かいルールを暗記するよりも、審判の仕事の本質を理解する必要があると思います。
あらゆるスポーツの審判の中で、サッカーは最も高い技量が求められるのではないかと思います。
サッカーは90分間もの間、目まぐるしく攻守が切り替わるスポーツで、何かある度に判断が求められます。
しかも、おおよそ縦100m×横60mの広いピッチの中で、いつでもどこでもフィジカルコンタクトが発生します。
何故なら合わせて22人の選手が動きに動いているからです。
誰がどんな意図を持って、何をするのか常に感じ取らなければいけません。22人が駆け引きをしているので、リズムを一定に保つのは至難の技です。
日本の国技である相撲は一回の取り組みに十分な時間をかけ、取り組みの時間は数秒から1分程度と短く、土俵もおおよそ4メートル程度です。
野球も攻守の切り替えがありますが、滅多にフィジカルコンタクトを伴わない事で試合中に怪我をする回数は多くありません。
また、試合のリズムがバッテリーの投球タイミングに依存する事から、審判としては準備する時間を十分に取ることができます。投球フォームさえ見逃さなければ、タイミング的にはOKです。
格闘技は激しいフィジカルコンタクトがあり、レフリーストップなど命にかかわる判断をする事がありますが、1対1という性質上、目の前に事象に集中できます。
他の競技を参考に、サッカーの審判の難しさを考慮すると、以下の5点が浮かび上がります。
・試合時間の長さ
・判断回数の多さ
・フィールドの広さ
・人数の多さ
・タイミングの取りにくさ
この5点の難しい要素が複雑に絡み合い、サッカーの審判の仕事を難しくしています。
私自身、正直言ってサッカーの競技規則の細かいところまで記憶したり、ベースとなってる理念を理解できているわけではありません。
しかし、この5点は常に意識してますので、ミスジャッジがあっても審判の方と、審判という職種に対するリスペクトの芯はぶれません。
ここが理解できていれば、批判する前に一呼吸置けるのではないでしょうか。また、批判も建設的になるのではないでしょうか。
イメージできなかったら、散歩中に15~30mくらい先で歩いている人の足元を見るといいかもしれません。意識してみると、意外と小さく見えますよ。
■ 初めてスタジアム観戦に来た友人に「彼は最高の審判」と言った日
2015年、マリノス対鹿島の試合にサッカーのルールもよく分かってない友人を、「君の家は日産スタジアムに近いから」という理由だけでスタジアムに誘いました。
だだっぴろい日産スタジアムも、3万人近く入ると日常から切り離された様な雰囲気になります。
バックスタンド2階から見た光景は、トリコロールとディープレッドを両脇にした壮大なものでした。
友人は鹿島サポーターの応援に興味身心で、「旗と声が凄い!大昔の兵士みたいだな」なんて事を言っていました。
さてそろそろ試合が始まるぞ、というところで、審判と選手の紹介です。
『主審、家本 政明』
名前がコールされた時に、ほんの僅ですがブーイングが聞こえてきました。
拍手をする私に向かって「悪い審判なの?」と友人が聞いてきます。
勿論、ネットで検索をかければ家本主審の誤審の動画や悪評が山ほど出てきます。
鹿島サポーターからすれば2008年のゼロックスカップや、清水とのナビスコカップ決勝でカードを連発されたので、不安に感じたかもしれません。
ですが、私にはこつこつと脳内に貯めた審判リストがあります。
自分で見て、感じて、未経験だからサッカーの事なんて何も分からないけれど、自分なりに解釈した審判評を信じました。
「家本さんは、Jリーグで最高の審判だよ。よくコミュニケーションを取ってくれるし、フィジカルコンタクトの多い試合でもストレスを感じないよ」
そして、その試合は私の言う通りになりました。
早い時間で先制した鹿島は、マリノスを自陣に引き込み、肉弾戦を制してからのロングカウンターでマリノスを圧倒します。
中央に陣取った小笠原満男選手、植田直通選手、青木剛選手は鹿島の選手らしく、激しいディフェンスでマリノスの攻撃を尽く跳ね返します。
そこから金崎夢生選手、カイオ選手、土居聖真選手の緩急織り混ぜたカウンターが何度も炸裂します。
審判から見れば、鹿島の激しい守備の中でファウル基準を適切に設定し、独特のリズムとスピードを持つ前線の選手についていきながら、試合をコントロールしなければいけません。
家本さんはその役割を見事にやりきりました。
鹿島の守備に対して伊藤翔選手は身動きが取れず、齋藤学選手やアデミウソン選手は不自由を強いられていました。
にも関わらず、鹿島のイエローは0枚。
試合後に「10年前の家本さんなら、悪い意味で凄いことになってたかも」なんて冗談を言ってました。
私はバックスタンドで見る試合については、双眼鏡で選手の表情まで見るのですが、家本さんの穏和で毅然とした顔もしっかり見てました。
これは私の勝手な想像ですが、同じ年に行われた2015ナビスコカップ決勝で、鹿島がガンバに対して激しく守備で圧倒できたのは、この試合の基準を覚えていたからなんじゃないかと思います。
つまりは、「家本主審ならこの強度でも正確にジャッジしてくれる」、と。そして、鹿島の激しい当たりにも関わらず、鹿島に出されたイエローカードは興奮のあまり肉体美を見せつけたカイオ選手の1枚だけでした(笑)
ガンバは明らかに面食らってましたが、私が生観戦したマリノスと被る部分は多かったんじゃないかと思います。
■ 妻には自分と同じルートを通らせない
さて、一応育児や家庭の事を発信するのがメインなので、妻の事も書いておきます。
妻は昨年のコロナ禍でリモートワークになり、お陰でDAZN中継で沢山の試合を見ることが出来ました。
妻は付き添いでスタジアムに来てくれた事は何度もありますが、本格的に見始めたのは2020シーズンが初めてです。
この中で、私は審判について以下の事を伝えました。
1. どんな優秀な審判でも、十数回に1回はミスを起こす。これは世界のどこでも同じである
2. 審判のミスジャッジで損があっても、長いシーズンのどこかで帳尻が合う
3. Jリーグのカード枚数は世界でもっとも少なく、審判と選手が協力して試合を作ることができている
4. 基本的に強いチームの方が、審判のミスジャッジで特をすることが多い。何故なら、ボールを相手の陣内まで運ぶ回数や時間が長いので、同じ回数ミスジャッジがあった場合、強いチームはチャンスの位置で、弱いチームはゴールから離れた場所になりやすい。
5. 不要なイエロー、ミスジャッジはここ20年弱でどんどん減っている。クリーンで激しいリーグに進化している事は、明確な数字で証明されている
例:2005年家本主審:平均イエロー枚数4.6枚/2020年家本主審:平均イエロー枚数1.1枚
参考:J現役全審判 去年 主審の一試合平均イエローカード枚数ランキング(http://j-player.main.jp/RefereeYellowRateRanking_Main_LastYear.htm)
6. 選手の仕事は勝つ事。不服な判定があった場合に、審判に対してどう振舞うかで「どうしてもチームを勝たせたい」のか「自分がイラついているだけ」なのか分かる
好例:2019年ルヴァンカップ決勝。退場宣告を受けた谷口選手が、審判に抗議をしつつ、審判への抗議に寄ってきた別の選手に監督とコミュニケーションを取る様に指示。
谷口選手のファウルから逆転されたとは言え、その後数的不利で再度追いつけたのは、谷口選手の冷静な判断も一つの要因。
箇条書きですが、大体こんな感じです。
ビジネス作家の早川勝さんの本に書いてあったのですが、『下手な自己流が凝り固まってしまう前に、セオリーを身につけておきたい』という一文がありました。
これには完全に同意です。
前述した通り、私が審判という職業に対してリスペクトの心を持つまで、長い年月を要しました。
サッカー観戦素人の妻には、いや観戦素人だからこそ、最初に審判に対する姿勢・リスペクトのセオリーを一発目で伝えたのです。
善意や努力による遠回りは人生において必要ですが、悪意や無知・無学による遠回りは不要だと考えています。
お陰で、妻はジャッジに対しては物凄く冷静に見ていますし、審判の方を批判する様な事はありません。(ルールをよく理解していないと言うのもありますが(^^;
他にもJリーグに入るのがどれだけ難しいかという事やら、選手の市場価値と移籍金の事やら、キーパーを含めたビルドアップの事やら、多角的に最初に様々なセオリーを伝えました。
98%は聞き流されていると思いますが、どこかで観戦の役に立ってくれればと思っています。
■ 最後に一言
今回は審判の方々について書きました。
正直、昔を思い出すと黒歴史というものがわんさか出てくるので頭痛がしそうですが(笑)
本当に申し訳ございませんでした。
さて、今ではJリーグに携わる様々な部分に面白さを見出しています。
スタグルやイベント、スタジアムのトイレなんかも意外と個性があって好きになれます。
日産スタジアムのトイレは本当に良いですよ。そう言えば味スタのトイレで、すれ違ったただならぬ貫禄の男を見たら"あの"全力さんだった、なんてこともあったっけ(笑)
たまにエル・クラシコやCLの準決勝・決勝あたりの試合を観て、あまりのスピードの差に唖然とすることもあります。
ただ、私は売れっ子アイドルよりも隣の席の女の子が気になる性分ですので、これからもJリーグの魅力を探し続けるんだろうな、と思っております。
おわり
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?