いつか答えを見つけるために 【新米 要約筆記者】 #こんな仕事です
ここ数ヶ月、悩んでいました。要約筆記者としてやっていいことと、いけないことの境界線について。そんな時に見つけたこちらの企画。それも大好きなカミーノさんの初企画だなんて。参加したい!させてください!!
まずはカミーノさん、創作大賞ビジネス部門、中間選考通過おめでとうございます。自分の仕事が好きだと言えるのは素敵なことですよね。きっと長い時間をかけて懸命に向き合って、気づいたら好きになっていたのではないでしょうか。ご苦労も多いと思いますが、ますますのご活躍をお祈りしています。
さて私ですが、コロナ禍に仕事が減ったのをきっかけに、要約筆記者の資格を取ったのが去年のこと。現場に出るようになって1年と少しが経ちました。掛け持ちでの業務ですが、依頼は断らない!を信条にやってきた結果、やっと仕事の内容で悩めるように。
みなさんは要約筆記をご存知でしょうか。おそらくピンとくる方は少ないと思います。聴覚に障害を持つ方への通訳なのですが、私も養成講座を受けるまで知りませんでした。聴覚障害=手話を利用、と思っていたくらい。でも、そうですよね、幼い時から手話を使っていたのではなく、人生の途中で聴力を失った方の多くは手話を知らないはず。発話ができることで聞こえると勘違いされ、聞こえるふりをして笑顔をつくってみせる。微笑みの障害という別名はそこからついたと聞きました。努力の結果がコミュニケーションを困難にしてしまうなんて本当に悲しいことだと思います。そういう方たちに音声を文字で同時通訳すること、健聴者と同じ情報保障をするのが私たちの仕事です。
要約筆記は厚労省が定めている地域生活支援事業の中の意思疎通支援事業にあたります。要約技術のほか、聴覚障害や社会福祉などの基礎知識を学んだあと、要約筆記者認定協会主催の全国統一認定試験に臨みます。資格取得後は在住の県や市に登録。派遣として稼働します。
方法は手書きとパソコンの2種類。手書きよりパソコンの方が文字を多く打てるため、大勢の人が集まる講演会や会議などに適していると言われます。大量の文字を速く読むことが苦にならない若い方などは、微妙なニュアンスまで読み取れて便利かもしれません。
一方で手書きは、個人で役所や病院に出向く場合や、読む速度のあまり速くない方に重宝されているようです。今年の7月、テレビ東京で『ひだまりが聴こえる』というドラマが放送されましたが、その中で主人公が利用したのは手書き要約筆記のひとつである、大学のノートテイクサービスでした。
ここまで読んでくれた方の中には、AIの進歩で要約筆記者が不要になるのでは、と感じた方もいらっしゃるかもしれません。音声を瞬時に文字に変換するUDトークというアプリを知ったとき、私も同じように思いました。今は話し言葉そのままを文字にするだけで誤変換もありますが、精度はどんどん上がるでしょうし、文章要約ができるのも時間の問題かもしれません。でも、現場に出てみて思ったんです。やはり要約筆記者は必要なのだと。
まさにこれが私の心のモヤモヤにつながる部分なのですが。
私は手書きの担当です。タイピングスキルのない私にはパソコンの資格は高い壁でした。パソコン要約筆記者を目指す方は、タッチタイピングをマスターしておくと安心かと思います。手書きの場合は、表記のほか対人支援について学んでおくと現場で活かせると思います。パソコンに比べ、利用者との距離が近い場合が多いからです。
聞こえの程度は人それぞれ。失聴した時期も生活スタイルも違うため関わり方はデリケートです。介助者ではないのでお節介は禁物。よかれと思ってやることが利用者のためになるとは限りません。まして要約筆記者によって対応が変わってしまえば全体の信頼を損なう危険も。そのことは常に心に留めおく必要があります。
それでも。
ご本人の主体性を尊重し、見守る、という流れの中、その方が目的を果たせないのを目の当たりにすることがあります。具体的には書けませんが、もし周りの配慮があれば、環境が整っていれば、違う結果になるかもしれない、という場面です。
要約筆記者には原理原則に則った臨機応変な対応が許されています。通訳だけすればいいのではなく、よい形で情報保障ができるように周りと協働する必要性も学びました。
どこまでが許されてどこからが越権行為になってしまうのか。見たこと、感じたことをどう報告すれば次に繋げられるのか。心が揺れやすい私にとって一番難しいのはこの部分。今は先輩方の対応を見ながら自分なりの答えを探している途中です。
明確な答えはないのかもしれません。それでも必要としてくれる人がいる限り、私は考え続けると思います。
AIのようにすぐに答えは出せないけれど。
それこそが、人が携わる要約筆記の利点だと信じたいから。
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締切ギリギリ。間に合ってよかった。
カミーノさんらしい素敵な企画。
参加させていただき、ありがとうございました。
届けていただく声に支えられ、書き続けています。 スキを、サポートを、本当にありがとうございます。