見出し画像

出会いなおせるなら茶色っぽいふわふわで

黒っぽいより、茶色っぽいほうががいい。
まっすぐより、ふわっとしてる方がいい。

髪の毛の話だ。

私の髪は細くて茶色いクセっ毛。
10代のころ美容師さんに、あなたの髪は枕が擦れても枝毛になると言われたことがある。雨が降るとポソポソになるし、内側にクルンと巻いたはずの前髪は横を向いてベシャっとつぶれ、変なウェーブまでついてしまう。手ぐしOK の固めるスプレーなんてもちろんない時代だから、雨の日はかなりテンションが下がった。

数十年後、自分が雨オンナだと確信し、雨降りが好きになることなどまだ知らない高校時代。松田聖子がヘアスタイルを変えても「聖子ちゃんカット」が流行り続ける中、コテは必需品で、セットした髪の毛が崩れるのが残念でたまらなかった。

「いいなぁ、染めてないのにその色。
    パーマかけてないのにふわふわだもんね。」
黒くてまっすぐでロングヘアの友達はよく私の髪を褒めてくれた。

うちの高校はパーマもカラーも禁止だったから、自分では再現できない私の髪質を気に入ってくれたのだと思う。でも私には、天候に左右されない彼女の髪の方がずっと素敵に見えた。だって同じように自転車で登校しているのに彼女の髪はいつもサラサラだったから。艶のあるストレートは前、横、うしろ、どこから見ても美しく、私の憧れだった。


卒業してすぐ、念願のストレートパーマをかけた。
初めてのパーマだったこともあるけれど、なにより施術が辛かったのではっきり記憶に残っている。地元の小さな美容院のお兄さんは、少しずつ束にした髪を上から順に何枚もの板にパーマ剤と一緒に貼り付けていった。重みで下に引っ張られるからすごく痛い。でも何も言わずに我慢した。きっとそうだ、オシャレな女性になるには痛みも耐えなくちゃいけないんだ。そんなことを疑わなかった私が恥ずかしくて懐かしい。

結局、髪の毛はあの子みたいにまっすぐにはならなかった。少しだけふわっとしたストレート。それはそれで新鮮ではあったけれど、どうせならサラサラになってみたかった。そんな思いで次は縮毛矯正をかけてみた。でも、細い髪の私がやるとボリュームがなくなりすぎて微妙な感じになってしまう。伸ばしたり短くしたり、いくつかの髪型にも挑戦したけれど、わかったのはどうやら私はストレートヘアと相性が悪いということだった。


ーーー


ずっと思っていた。
自分の好きなものをそばに置き、やりたいことをすれば幸せなんだと。
だから憧れたものには後先考えずに近付き、手を伸ばした。
モノもコトもヒトにも。

実際、私のストレートヘアはそれなりに褒めてもらえたし、自分でも物珍しくて数日間は楽しかった。でも、何かがしっくりこない。私じゃないみたいで。

新しいものだって長く付き合っていけばそのうち馴染むだろう。もしかしたら新入りの方が本当になってしまうかもしれない。新しい自分、それはそれで素晴らしいと思う。でももしうまくいかなかったとしたら、理由はわたしが望んでいないからだ。先に形があってそれに寄せていくやり方は、若いころにもう終えていた。今はできない、いや、もう選ばないのだと思う。



それなのに。そこまでわかっていたのに。

髪を黒っぽく染めてみようなんてうっかり思ってしまったのには理由があった。一つは美容師の友達に、暗めにした方が逆に若く見えるよ、と言われたこと。せっかく素敵なアッシュブラウンに染めてもらっても、すぐに色が抜けて黄色っぽくなってしまう私の髪は、時間がたつにつれ、上品さから離れていってしまう。それを知っているプロのオススメに乗ってみるのも悪くないと思った。でも、暗めの髪は似合わないような気もするんだよな。

迷っていた時に昔聞いた彼の言葉を思い出してしまった。

「髪の毛は黒い方が好き。」

あの時彼は、私は会った時から茶色だったからそのままでいいんだよと笑ってくれた。好きになった子がタイプだと言う人だったから、確かに彼の好きな子でいられた時間もあったのだと思う。

胸がキュッとなったのを隠したくて、とっさに黒っぽい髪色をオーダーしたのだけど。

やっぱり。
仕上がりを確認する鏡に映っていたのは私ではなかった。


3ケ月我慢して、髪を茶色に戻した。


ーーー


黒っぽい色より、茶色っぽいほうががいい。
まっすぐよりも、ふわっとしてる方がいい。

私の髪の毛の話だ。

30年ぶりに会ったあの子は、今も黒くて艶のあるストレートロングだった。
素敵だった。でももう羨ましいとは思わなかった。
その素敵は彼女のもので、私のものじゃないことがわかったから。




彼はどうしているだろう。

誕生日にメッセージをくれた優しさを愛だと錯覚できたら幸せなのにと思う。でも今の私は、彼を心から消したいのか残したいのかさえよくわからない。

もう少し休もう。もう少しだけ。


そして、もしも
また笑顔で向き合える日が来るのなら。

私の一番好きな私で出会いなおしたい。
茶色っぽいふわふわで会いに行きたい。




いいなと思ったら応援しよう!

suzuco
届けていただく声に支えられ、書き続けています。 スキを、サポートを、本当にありがとうございます。