習いたてのピアノのように #3行短文リライト
4歳の時、うちにピアノがやってきた。
艶々に輝くアップライトピアノ。
オルガンしか持っていなかった私のために祖母が買ってくれた宝物は、半世紀近くたった今も実家に置かれている。調律もずいぶん前にやってもらったきり。響く音は実際より下がって聞こえるけれど、自宅にある電子ピアノとは違ってその音色は優しく懐かしい。
足をブラブラさせながら初めて椅子に腰掛けたあの日、前パネルに映った私の目はどれほどキラキラしていただろう。開けそこねてうっかり指を挟まないように、重たい鍵盤蓋を慎重に持ち上げる。真っ赤なフェルトのキーカバー。カタンと音のする譜面台。思い切り手を広げても端から端まで届かない長い鍵盤。全部、ぜーんぶひとりじめ。ピアノ教室ではほんの少ししか触れなかったピアノをこれからは好きなだけ弾ける。
そっと押してみた「ド」の白鍵。あれ?オルガンみたいに音が出ない。がんばって強く押す。続けて何音か押す。あれ?なんで?なんか違う。
覚えたばかりの練習曲を弾いてみる。指を広げても和音が押さえられない。タマゴを包んで潰さないように指を丸めて弾くんだよって先生に教えてもらったばっかりなのに。オルガンではちゃんと弾けるのに。なんでなんでなんで…
上手になりたい。いろんな曲を弾きたい。指が痛くなるくらい夢中で弾いた。一曲、また一曲、練習した分だけ弾けるメロディが増えていく。それは小さかった私にとって心地よい高さにあるゴールだった。
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数日前、偶然読んだnoteの記事に「3行短文リライト」というタグを見つけた。
3行の短文? 短歌とは違うよね。
そして巡り巡ってこちらの企画にたどり着いた。
やってみたい!
うまくは弾けない。ペダルに足も届かない。
それでも音を出してみたい。
習いたてのピアノを夢中で弾いたあの日の私が
心にそっと灯りをつけた。
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3行短文リライトに、この記事で参加します。
【それはあかではないけれど】〜白鍵で弾くバイエルのように〜
あかには なれない きいろの わたしと
とおくの あおぞら もとめた あなたを
じかんの くすりが いままた つなげる
【それは赤ではないけれど】〜補助ペダルにやっと足を乗せて〜
飛び立つ 君の背 涙の 青空
心に しまいし たまごの 思い出
時経て 色づく 赤にも 似た色
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あきやまやすこさん、はじめまして。
素敵な企画に、初めてピアノの蓋を開けた日のワクワクを思い出しました。
3行短文はzep0814i理昭さんが提唱されている定型詩なのですね。すべてを4文字でというのが私にはとても新鮮で、楽しく悩ませていただきました。特に、自分の中でこれでいいとOKを出すタイミングが難しかったです。
今回、しめじさん、水野うたさんの力添えもあったと書かれていましたが、そのエピソードにnoteの街の優しさを感じました。
参加させていただき、ありがとうございました。