とある兄妹と幼馴染みの話
ヨミ「コノ太“兄さん”、妹さん(と夏祭りに行く許可)を僕に下さい!!」
仁王立ちのコノ太に対して、ヨミはガバッと勢いよく頭を下げる。
隣にいたイアナは、ヨミの語弊がある言い方にギョッとする。
プロポーズの光景にも見えたが、イアナとヨミは付き合っていない。
強いて云うならば、悪役同士の幼馴染みだ。
イアナ「ちょっ、ヨミ!?
大事な部分抜けてるけど?!」
少し頬を赤くして焦るイアナに、ヨミはニコニコと笑うが訂正はしない。
つまり、ヨミは確信犯である。
コノ太は、凍てついた笑みを浮かべて口を開いた。
コノ太「誰が兄だって?
俺は可愛い妹(イアナ)を譲る気なんて毛頭ないけど」
表情に反して、口調とトーンが穏やかなのが恐怖を引き立てる。
いつもは優しくて強くて格好良くて頭の良い完璧な兄だけれど、怒ると人一倍怖い。
ヒシヒシと感じるコノ太の圧が恐ろしくて、イアナは一人震えていた。
ヨミ「相変わらず頭硬いのは変わってないね、“兄さん”」
コノ太をものともしないヨミの発言で、空気がピシリと固まる。
コノ太のこめかみに、うっすらと青筋が浮かんだ。
やがて部屋の温度は零点下になり、
辺りは乱闘が起きる5秒前の空気と化した。
本能で危険だと判断したイアナは、笑顔で毒を吐くヨミの頭をスパーンと思い切り叩いて、話を戻す。
イアナ「ゴッホン。コノ太兄様、ヨミとは夏祭りに行くだけですから、一日だけ外出の許可を下さい」
イアナは、一ヶ月ほど前から、幼馴染みのヨミに夏祭りに誘われていた。
しかし、通常ならば、毎年コノ太と二人きりで行っていたため、コノ太に了承を得なければならなかった。
一方、度が過ぎたシスコンであるコノ太にとって、その願いは到底頷けるものではなく。それ故、どんな手を使ってでも全力で阻止するつもりだった。
コノ太「家族以外の男と二人で出かけるなんて嫁入り前に良くないから今年も兄様と行こう?」
いくら幼馴染みといえど、ヨミはイアナを愛しており、異常なくらいに崇拝している。
いつもは猫かぶっているようだが、実質男は男だ。
いつどこで手を出されるか分からない。
だから、そんなヨミに大事な妹を預けられるはずがないのだ。
コノ太「ね?」
コノ太はイアナの手を取り、天使のように微笑む。
イアナ「うっ」
イアナは、推しであるコノ太の“お願い”に弱い。
しかし、イアナはここで押されてヨミの先約を断る訳にはいかないと思い直す。
そしてイアナはコノ太のあまりのキラキラっぷりに怯み目を右往左往させながらも反論した。
イアナ「で、ですが、ヨミと先に約束してましたし、横入りは良くないのでは?」
ヨミ「そうだそうだー」
コノ太「…それなら、俺と勝負をしよう。
…イアナ」
イアナ「………え?そこはヨミじゃないんですか、兄様!?」
コノ太はイアナの非難めいた反論を完全に無視して話を進めていく。
コノ太「鬼ごっこでもしようか。
制限時間は三十分。
俺が鬼でイアナは逃げる人ね、
5分数えてから始めるよ」
イアナ「ええぇ、拒否権なし!?」
コノ太「公平を期して周りの手助けは無しでやろう。
それじゃあ、スタート!」
(チート(コノ太)と一対一は公平じゃないでしょおお!?)
イアナの全身全霊の叫びは誰にも届かなかった。
文句をつける暇もなく強制的に始まった鬼ごっこに、イアナは仕方なく逃げ出した。
イアナ「コノ太兄様の鬼畜ー!!」
イアナは逃げ足がめちゃくちゃ早い。
コノ太「意外と足速…」
ビューンと風のように去っていったイアナにコノ太は苦笑い。
コノ太「(まぁ、捕まえるけどね)」
この勝負、負ける訳にはいかない。
イアナがいなくなり、関心を失くしたヨミはスタスタとどこかへ歩いていってしまった。
5分後。
コノ太「イアナー、今出てきたらイアナの好きな小説の最新巻あげるよー」
軽く走りながら、あちこちで呼びかける。
コノ太は堂々と物で釣る作戦に出た。
イアナ至上主義の為、妹が他の男と出かけるのを阻止できるのならば、彼は手段を選ばない。
しかし、イアナは上手く隠れたのか逃げたのか見つからなかった。
コノ太「イアナの行きそうな場所かぁ…、図書館とかかな?」
顎に手を添えて、思考する。
コノ太は以前イアナがニヤニヤしながら小説を読んでいるのを見たことがあった。
何の本を読んでいるのか聞いたら何故か濁されたのだけれど。
マグノリア邸には大きな図書館がある。
あそこならば充分に隠れるスペースがあるに違いない。
早速目的地へ足を運んだ。
コノ太「イアナー?」
図書館は広く、四方八方に本棚が並べられている。
もともとここへは人があまり来ないため、基本司書以外はいない。
イアナはいるのかな、と図書館内を歩き回り、目を配る。
コノ太「…いない、か」
図書館にもイアナはいなかった。
三十分経過。一時間経過。2時間経過。
コノ太「イアナ、どこにいるんだ…!!」
鬼ごっこはタイムオーバーにより終了した。
しかし、待てど暮らせど、イアナは出て来ず、最早鬼ごっこどころの話ではなくなった。
コノ太は屋敷中を探索し、本気でイアナを探し始めた。
使用人達に聞き込みまで行ったが、誰一人イアナを見たものはいないという。
「まさか、誘拐されたんじゃ…!」
巷では、イアナを悪女だと根も葉もない噂を語り、恨みを持つ輩がいるとの噂を聞いていたコノ太は心配で気が気じゃなくなった。
コノ太「イアナ!!」
コノ太が空を振りかぶり、叫んだとき。
イアナ「…コノ太、兄様…?」
ガサリと音がして、茂みからイアナが眠気眼で現れた。
イアナの髪には葉っぱがついており、明らかに寝起きだった。
「イアナ…っ!」
「…わ!」
ガバッとイアナに抱きついたコノ太。
頭が覚醒していないイアナは、背が高いコノ太の胸板に無抵抗にボフリと埋まる。
コノ太「鬼ごっこの制限時間は三十分って言ったじゃないか!」
イアナ「…むー!むー!」
コノ太「弁解は認めません」
胸をなでおろしたコノ太は、息ができずに藻掻くイアナをとにかく抱き締めたのだった。
兄との約束を忘れて木陰で眠りこけていたイアナにコノ太は呆れながらも憎めなかった。
コノ太「約束を忘れた罰として、兄様も夏祭りについていかせてもらうよ」
イアナ「はぁい」
ヨミ「…チッ」
追記:転生悪女の黒歴史(少女漫画)の二次創作、バージョン2を書きました。
ヨミ(ヤンデレ幼馴染み)&イアナとコノ太(ヒロインの男Ver.)兄妹のお話です。
転生悪女の黒歴史は様々なタイプのイケメンが出てくるので、カップルを作るのが非常に楽しいです(≧∇≦)
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