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『A Number—数』『What If If Only—もしも もしせめて』観劇備忘録
東京の世田谷パブリックシアターで二回、大阪の森ノ宮ピロティホールで三回観劇。個人的な観劇メモです。
『What If If Only—もしも もしせめて』
こんなに短い演劇は初めて見ました。個人的にはテーマや演出を含めてこちらの方が好みです。無数に存在する未来の亡霊たちが光の粒子となって表れる幻想的な美しさは何度見てもため息が出ます。
大東さんはドラマ「仮想儀礼」の演技が素晴らしく忘れられなかったので今回生で見ることができて良かった。自分を置いて逝ってしまった大切な人を求めて会いたいと叫ぶ声は、悲痛なのに透き通っていて耳を塞いでも直接心に届くようでした。同じ言葉なのにその都度、微妙に感情の色が違うようにも聞こえました。他の舞台も見てみたいです。
浅野さんの出てきた瞬間に劇場の空気をいっぺんに攫っていってしまうような存在感!今年のはじめに「海をゆく者」という舞台を拝見したんですが、その時はどちらかといえば従来のイメージに近い役柄でした。けれど今回は登場から度肝を抜かれてそこからはもう釘付けでした。どちらのお姿も強い印象しか残らない。さすがの一言です。
子供が訪れるべき未来を象徴していて黒衣の紳士は現在、そして大東さん演じる某氏は変えることのできない過去に囚われている。けれど進むべき場所も時間が動き出すことも本能ではわかっている。でも身動きができない、したくない。だからただ立ちすくんでいる。ラストの三人のシーンは個人的にはこう解釈しました(パンフレット読み込めてないので間違えていたらすみません)不穏な空気だったけれど弱々しい光も見えるような最後だったと思います。
『A Number—数』
堤さんの舞台は初めて拝見しましたがどうしようもない滑稽さや哀しさ、その奥にある捨てきれない人間くささが素晴らしかったです。父であるソルターの行いは許されるはずもなく、なんらかの罰が与えられないのが不思議なぐらい。でも堤さんが演じると会いたかったと肩を落とす姿に、この人なりの歪んでいるけれど確実に存在する愛情を思わず肯定してあげたくなる。ほんのわずかにだけど。憎いはずなのに微妙に憎みきれない部分を残して演じてらっしゃるのが本当にすごかった。周囲からも堤さんのファンの方の会話が多く聞こえてきて、映像で見る機会が多いけれど演劇の人なんだと実感しました。
瀬戸さんは同じ顔だけれど三人の異なる息子たちを演じられていました。いちばん見たかった人の演技なんですが、これすっごく大変だろうなあというのが第一印象でした。場面転換するたびに違う息子となって登場するけれどその切り替えが素早く鮮やか。同じ顔なのに表情や佇まい、姿勢や喋り方で違う人だと名乗りでなくてもはっきりと認識させられる。これ一人一人の息子たちの性格やたどってきた人生を理解してないとできない演技だと思います。瀬戸さんの想像力とそれを身に宿して演じられる才能に拍手です。個人的にはオリジナルのバーナードが父であるソルターに向かって感情をむき出しにする場面。鬼気迫る表情に彼が背負ってきた苦悩が色濃く表れていて胸が詰まりました。どうにかして救われる人生がなかったのかとつい考えてしまいます。あとマイケルの一見人が善さそうなのに話が平行線のまま噛み合わない薄気味悪さがなんとも言えず良かったです(褒めてます)瀬戸さんのファンになったのはドラマ「くる恋」を見てからWOWOWで放送された「笑の大学」を拝見し、その板の上での姿に魅了されたのがきっかけでした。今回、生で観劇できたことで舞台上の役者・瀬戸康史をこの目に焼き付けることができてしあわせでした。これからもたくさん見ていきたいなと思います。
父親の許しがたい行為も二人のバーナードの苦悩、マイケルを含む他二十人の人生についてなど考えることの多い作品でした。解釈は観た人の数だけ存在していてそのどれもが正解のような気がします。そしていつかまたふっと思い出した時には違う感情が芽生えるような、いつまでも忘れられない作品だとと思います。
二作品連続上演という舞台は初めてでしたがどちらも愛する人をうしなった時、人はどう考えどう行動するかというのが共通しているテーマだったように思います。どちらも難しかったけれど普段は使わない感性を刺激された観劇体験でした。見る日や劇場によって笑い声が起きる箇所がぜんぜん違ったのも印象に残っています。とにかく見ることができて良かったです!かけがえのない思い出ができました。
そしてここまでの文章にもお付き合いありがとうございました!