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小説/沈みゆく「大和」、その機関部


昭和20年4月、桜の頃、戦艦大和は沖縄に向かっていた。「海上特攻攻撃」である。参加した艦は他に軽巡洋艦1隻、駆逐艦8隻である。決死の作戦であった。そして今、米軍攻撃機の集中攻撃を受けていた。その時、機関部のエンジンは全力運転で作動していた。しかし時々、艦内が猛烈な振動を起こす。機関部の技術大尉、森川は心配していた。



「すごい轟音がする。本当に沖縄に行けるのか?。爆弾や魚雷がかなり命中しているな?。上の方の戦闘員たちはどうしてるんだ?。俺たちは何もできない。とにかくエンジンを動かすだけだ。艦長がそう命じている。命令は絶対だ。俺たちは任務を果たすんだ!」。


その頃、艦橋では。
「爆弾多数命中!、魚雷も命中しています!。対空射撃応戦中。しかし、もう持ちません。注水区画に、水がかなり侵入しています。かなり船体が傾いています。この艦はもう持ちません!」


しかし有賀艦長は、「何としても沖縄にたどり着く。司令部と約束している。意地でも沖縄にたどり着くんだ!。持ちこたえろ!」。その時、甲板の上は、戦闘員たちの死体で地獄のようになっていた。そこへ敵戦闘機の機銃掃射が盛んに打ち込まれる。爆弾も命中する。


再び、機関部。
「上の方はどうなってるんだ?。連絡が来ないぞ!」「上官殿!どうも戦況が良くないようです。もうすぐこの艦は沈むようです。避難したらどうでしょうか?」
「それはできない。上から命令が来ている。絶対に持ち場を離れるな!と。我々はここを死守する。死んでもエンジンは動かす。死なばもろともだ。最後まで大和の動力は確保するんだ!」。


集中攻撃を受けて、ついに大和は船体が傾き始めた。もう航行はできない。速力も落ちた。エンジンルームも動力の確保が難しくなってきた。スクリューが回らないのだ。一部止めてしまっている。それでも、機関部の要員たちは責務を果たそうとして、全力で取り組んでいた。しかし気づいていた。もう自分たちは助からないと。


有賀艦長は命令する。「総員、上甲板へ上がれ!」。しかしかなりの隔壁が閉鎖されていた。脱出できない者たちが大勢出た。その中で機関部は、一番最下層にある。もちろん脱出できないのだ。皆、分かっていたのだ。この艦と運命を共にすることを。彼らの戦いはエンジンと戦うことであった。そしてエンジンとともに死んでいく。戦闘ではなかったのだ。


その後、大和は大爆発した。水中に没して爆発したという。天高くものすごい火炎が上がったという。その時も、動力は動いていた。ということは直前まで、その直前まで、機関部の乗組員たちは全力で任務に全うしていたのだ!。歴史の上では、戦闘員ばかり着目されるが、彼らはある意味「主役」である。最後まで大和を動かしていたのは彼らなのだ!。彼らは今も沖縄の海の底で眠っている。静かに眠っている....…。大和とともに.........



#戦艦大和
#架空戦記

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