「私は結婚したい」統合失調症患者の手記
それは今から20年前だった。精神分析の主治医の先生の診察室に置いてあった。全国的な統合失調症患者さんの互助会の冊子である。私は暇なので読んだんですよ。私は当時、境界例でした。別名ボーダーライン。世を拗ねているあれですよ笑。それはいいのですけど、適当に読んでるうちに、ある記事に出会ったのです。
20代の女の子の投稿でしたね。その子は妄想のある 統合失調症。幻覚も見えてたのでしょうか？「恋愛妄想」があるそうです。私はびっくりしました。「どういうことなんだ？」興味を持って読み進めたのです。その内容はこうでした。
「私は妄想で、とても素敵な男性から求婚されます。それはとてもドキドキしたりするんです。でもですね、それが妄想だということが、わかっているんです。それはショックなんです。私は20代半ばです。本当はお嫁さんになりたいんです。でもこんな妄想があったら、結婚できませんよね。分かっているので毎日泣いています。多分妄想は取れません。絶対嫁さんになれませんよね。泣き明かしています」
私はそれを読んで、突然悲しくなり、診察室の周りが、人でいっぱいなのに泣き出しました。とても悲しくなったのです。この子は統合失調症です。でも感情の発露はちゃんとしている。分別識もある。それがなぜこんなに悩むのか？ただ一つです。症状で「妄想」があるからです。分かりますよ。あの病気は重症ですから、妄想が取れないで終わってしまう人も多いんです。
私はショックでした。統合失調症の人たちはもっと 頭が変だと思っていたんです。それが年頃の女の子 独特の普通の感情がある。私は自分が恥ずかしくなりました。と同時に、何とかしてあげたいという気持ちに駆られました。でも連絡先も分からない。その記事を読んで、ただただ、その子の将来の行く末を案じるばかりでした。そんなこと、初めてだったんです。
それから1年もしないうちに、私は病気が変化したんです。薬の無断服薬中止により、私も統合失調症になりました。同じ土俵になったんですね。私も同じ状態に。ボーダーラインの時は、結婚はできると思ってたんです。私もできなくなりました。幻覚妄想は取れていたのですが、極度の疲労感があり、普通に生活できない。抑うつ状態もあり地獄の日々....…。
その頭の悪いような、動かない状態の統合失調症の状態で、時々彼女のことを考えていたのです。「あの子どうしてるかな？俺もなっちゃったよ。本当にあの子の気持ちわかるな。俺も一生結婚できないしな」と。それから19年間、私は闘病したのです。しかし奇跡的に回復しました。回復力があったのでしょうか？
私は今は良くなりました。症状がないので、健康人のような感じです。結婚も視野に入れています。もう歳取っちゃったけどね。でも忘れてはいませんよ、あの彼女のことは。あれから20年経ったので、あの女の子は私と同じ年ぐらいでしょうね。同世代だったんですね。どうしているかなあの子は？時々気持ちを込めて祈ったりしています....…。