はじめてのダレン・シャン


はじめに

 最初に断っておくが、私はこのシリーズに対し、steamでいうところの「賛否両論」、amazonにおける星3.5の評価を下している。
 理由は色々あるが、一言で言うなら、「ダレン・シャン」は私が求める物語ではなかった。期待した展開とは違う方に突き進んだ挙げ句、とんでもないバッドエンドを迎えてしまった。
 冒険色がより強く、そして何よりバンパイアについての掘り下げがなされた4~6巻が文句なしに面白かっただけに、7巻以降の展開がどうしても好きになれなかった。
 だからこの評価だ。同じ児童小説で、なおかつファンタジーなら、精霊の守り人のほうが何倍も面白かったし、何より納得できるオチだった。


血の石

 6巻まで読んだ当時の私は、このままもっと盛り上がって、ワクワクする展開が待っているのだろうと期待していた。
 バンパニーズ大王とは誰で、どんな力を持っているのか。血の石を巡る争乱はあるのか。大王を前にしたパワーアップイベントはどうなるんだろう。ハーキャットの正体は誰なのか。
 まだ明かされていないことの方が多く、それゆえに色々なことを妄想した。特に、血の石はもし奪われるようなことがあれば、バンパイアはひとり残らず居所を知られて滅ぼされるとまで説明されたのだから、もう一波乱あると思うほうが自然なはずだ。
 だが、実際にはバンパイアたちが懸念していたようなことは一度も起こらなかった。7~9巻で、物語はすっかりバンパニーズ大王へとシフトしてしまっており、血の石のことなど誰もが忘れ去っていた。
 まあ、これに関しては血の石とバンパニーズ大王とで担う役割が同じという問題があるためだろう。どちらもバンパイアを滅ぼす因子であるなら、より重要な方だけでいい。ゆえに血の石がフェードアウトするのも仕方のないことだが……でも、だからといって完全放置はないだろう。普通そういうアイテムって、最強装備を手に入れるための触媒になったり、あるいはそれそのものがキーアイテムに変化したり、隠された機能があったりするものじゃないのか?
 その正体もひどい。血の石がバンパイアと何の縁もないドラゴンの脳だと判明した時、私は驚くのと同時に失望した。
 神秘を剥奪された気分だった。結局、バンパイアにもバンパニーズにも世界を滅ぼす力などなく、実際に世界を平らに均すのは飛竜たちだった。
 タイニーが人間たちによって作らせた人造ドラゴン、それが未来の支配者である。二千年以上も続いてきた人間の文明は、彼らによってわずか二百年で滅び去ったのだとエバンナは言った。
 血の石というのは、そんな暴君を使役するためのリモコンであり、傷のある戦は竜を手に入れるための戦に過ぎなかった。勝った陣営が竜を操り、空の王者となる。
 なんだか、違う世界の話を聞いているかのようだった。
 私は吸血鬼の物語を読みたくてダレン・シャンを手に取ったはずなのに、いつのまにやらファンタジーからSFにすり替わっていた。
 今からでもドラゴンマスターに改題してくれないか?


ハーキャット

 他にも不満点がいっぱいあるが、とくにひどいなと思ったのがハーキャットの正体だ。いや、正確に言うなら正体というより、その情報の「扱い方」だろうか。
 別に、彼が誰だろうがこの話には関係ないので、彼の正体についての話は一旦置いておく。問題となるのは彼の正体が明らかになった後、何が置きたかということだ。
 記憶を取り戻して、復活して、これからもハーキャットとして生きていくことを決めて……それで、どうした?
 まさか、なにもないのか?
 アレだけ引っ張っておいて、その後のイベントなにもなし?
 嘘だろう?
 そう、その通り、なにも起きなかった。過去の自分と決別して、復活して、それでおしまいだ。姿が変わるとか、復活直後にありがちなスーパーパワーを手に入れるとか、実は重大な秘密を握っていたとか、そんなことは一切ない。
 あれだけ重要だと念押ししておきながら、ハーキャットというキャラクターは最終決戦に何の影響ももたらさなかった。
 これも本シリーズのがっかりポイントである。美味しそうな題材は持ってくるくせに、それを上手く調理しない。出すだけ出して終わりだ。
 はっきり言って設定の無駄。
 もったいないとか、そういう次元を超えてしまっている。


不満点

 絶対に許せない、そう思っているポイントは上記の二つ。残りは詳細に書くほどのものではないので、箇条書きにして並べておく。

  • 吸血鬼の身体能力が人間よりちょっと丈夫程度なせいで、全体を通してあまり「生物としての強さ」を感じられなかった。銃火器で殺せるせいで、人間の上位種と言うよりも、できそこないの人間モドキと読んだほうが正しい有り様だった。

  • ダレンは作中のほとんどを半バンパイアで過ごすために戦闘力がずっと低いままだし、最終決戦時では純化第二段階のせいで弱体化してしまっている。ここまで頼りにならない主人公も珍しい

  • ダレンが元帥になったはいいものの、バンパイア・マウンテンに一度も戻らないまま終幕するため、その立場がほとんどお飾り同然だった。

  • この世の悪はすべてタイニーの仕業といわんばかりの責任の押し付け。第一巻でダレンにチケットを掴めとそそのかしたのも、クレプスリーにダレンを吸血鬼にするよう仕向けたのもタイニーの介入あってのもの。この設定のせいで物語が安易に片付いてしまったのが気に食わない。

  • 警察組織がバンパニーズに踊らされすぎる。

  • RVとかいう終始頭のおかしい狂人。スティーブと同じで、確たる芯がない悪役は本当にクソだと思う。

  • 最終盤で突如始まる「私はおまえの父だ」「Noooooo!!」。いきなりエバンナの弟ということにされ、しかもスティーブは名実ともに兄弟同然の存在だったという事実も判明する。あまりに唐突すぎてソードマスターヤマトみたいだった。

  • それまで謎の怪人ということでイメージを保てていたタイニーが、内心を暴露したことで単なる子供じみたおっさんに成り果ててしまったこと。こんなのに世界中が踊らされていたかと思うと、本当にげんなりする。未来の世界では別に全能ではないらしく、それも相まって小物感がすごい。

  • 何の面白みもないくせにやることなすこと邪悪すぎるスティーブ。こいつの存在があるせいで本当に終盤は読むのがしんどかった。輪をかけてひどいのが、シャンカスを手に掛けただけでなく、さらし者にしたのをダレンが目撃しておきながら、互いの正体を悟った後で「こいつも善の道を行ける」だの内心でのたまいはじめたことだった。前から思っていたことだが、ダレンも大概クソみたいな性格してる。二人揃ってマダム・オクタの毒でとっとと死んでおくべきだった。

おわりに

 有名だからといって、必ずしも自分の肌に合うとは限らない。ある程度名の知れた作品は、得てして広い受け皿を持っているものだが、たまに私のような読者がこぼれてしまうことがある。
 人には好みというものがある以上、これは仕方のないことだ。
 ダレン・シャンを読み終えて、私が得た教訓は「話をきれいに完結させることがいかに困難か」ということだった。世の中には風呂敷を広げに広げた挙げ句、畳まないまま打ち切りになってしまう作品がごまんとある。それに比べれば、粗はあってもちゃんとフタをした本作は偉大と言わざるを得ない。
 先に述べたように、6巻までは文句なしに面白かったし、ドキドキさせてもらった。
 だが残念なことに、私は本作のファンにはなれなかった。

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