【アサヒGHD】増益でも黄色信号は本当か?
第3四半期決算は増益
アサヒグループホールディングスが発表した24年1月~9月期決算は前年同期比5%増の1393億円でした。
アサヒが注力するプレミアム戦略は堅調に進んでいて、日本や欧州で売上収益が伸びました。
一方でオセアニア地域の売上収益は△4.4%となっています。実はこれはアサヒにとってはあまりいいことではないのです。
以下の図は2023年度のアサヒグループホールディングスの地域セグメント別売上収益・事業利益を表した図です。
これを見ると、オセアニア地域の売上収益は23.6%で日本、欧州に次ぐものだと判断できますね。
「売上収益では3番目だし多少減少してもいいのでは?」と考えている方もいるかもしれません。
しかし上記の図の内側の円、つまり事業利益を見てみてください。
事業利益は36.8%と欧州よりも多く、日本とほぼ変わらない数字となっているのです。
ここからわかることはアサヒグループホールディングスにとってオセアニア地域は海外展開の成長ドライバーであり、ここが躓くとまずいということです。
アサヒGHDとオセアニア地域
オセアニア地域の現状
実はアサヒGHDはオーストラリアでトップシェアを握っています。
以下の図はオーストラリアのビール市場のシェアです。
CUBはアサヒのグループ企業なのでオーストラリアはアサヒにとって非常に重要な地域です。
ちなみにシェア2位のLionはキリングループの傘下企業のため、オーストラリアのビール市場は実は日本企業が大きな地位を築いています。
オーストラリアのビール市場については以下の記事で詳しく書いていますので読んでいただけると嬉しいです。
ではなぜ今回オセアニア地域(オーストラリア)が苦戦したのでしょうか?
それはオーストラリアのインフレ基調が続き、消費者の財布のひもが固くなっているからです。
オーストラリアの消費者物価指数は7月~9月期で2.8%でした。前回、前々回と比較して低い数字にはなってきていますが、依然として高い水準のためビールの消費にお金を向けづらい可能性があります。
アサヒのオセアニア戦略
オセアニア地域の現状はあまり芳しくないですがアサヒはどう対処していくのでしょうか?
オセアニア地域の事業戦略説明会では以下のように説明しています。
つまり、オセアニア地域のビール市場は成熟しているものの、RTDは成長しているためビールとRTDの両輪で稼いでいくということです。
また、今は不調なのは間違いないが、長期的な視点で事業を継続していくとしています。
ちなみにRTDとは「Ready to drink (レディ・トゥ・ドリンク)」の略称で、「すぐに飲めるもの」を意味します。
例えば缶チューハイや瓶カクテルといった栓を開けてすぐに飲めるものです。
水や炭酸水などで割る必要のないお酒が今は人気なんですね。
世界では今缶チューハイのようなRTDが非常に成長しており、特に若者の間で人気があるようです。
上の図を見てもわかるようにRTDの成長は右肩上がりのため、ここに注力するのは良い戦略だと個人的に考えています。
アサヒは日本からRTD戦略を拡大していくようです。
2023年には「Asahi RTD INNOVATION 2025」を立ち上げており、全社で注力していくとしています。
日本で成功すれば、それを海外にも展開することでさらなる成長につなげられるかもしれませんね。
アサヒGHDの今後
アサヒGHDの競合であるキリンはビール事業ではなくヘルスケア領域にも注力する多角化戦略を進めています。
一方でアサヒは海外のビール会社をM&Aして成長しており、酒類事業を極める戦略を進めています。
国内のビール市場は縮小傾向であり、海外に目を向けなければ生き残るのは厳しいでしょう。
そのため、オセアニア地域、欧州地域で事業を展開するアサヒは正しい経営をしていると個人的に考えています。
今期はオセアニア地域が苦戦していますが消費者物価指数は減少傾向であり、いずれはお酒にお金を払う人が増えてくるはずです。
その際にRTDを含めて多様なラインナップを展開しているアサヒは恩恵を受けると考えます。
また、オセアニア地域は苦戦しましたが、欧州地域はインフレ傾向が鈍化しています。
オセアニア地域の苦戦を欧州がカバーできればオセアニアの回復をじっくりと待つことができるでしょう。
アサヒの欧州でのシェアはまだ2割程度ですが、プレミアム戦略を進めることやM&Aを行うことで伸ばしていける余地があります。
認知度を上げるためにラグビーなどのスポーツイベントのスポンサーになっているのも海外戦略の一つです。
個人的にも非常に好きな企業ですし、今期も減益ではなく増益です。
オセアニア地域の苦戦や株主優待の廃止などの理由で今は株価が下がっていますが、経営は間違っていないと思いますし私は応援していきたいと思います。
今年の年末にプレミアムなビールを飲みながら、来年の暑い夏の夕方にキンキンに冷えたビールを飲みながらアサヒのさらなる成長を楽しみたいと思います。