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風の日おめでとう!

 吹雪の日は風が強すぎて眠れなかった。

 高島に引っ越してきて、無事入学式と初登校日を終えた次の日、次男はまだ1年生で心細かろうと登校に付いて行った。あの日はとても風の強い日だった。雨が横殴りに降っていて、子供たちはみんな傘を差しているのに、次々と傘がひっくり返っていった。風が強すぎて傘が殆ど役に立たない。子供たちはあきらめて傘をたたみ、あまりの風にキャーキャー言いながら登校していた。誰かが「こんな日が1年に何回かあるよ!」と教えてくれた。途方に暮れている次男を見ながら、私は先を思い遣った。

 どうやらここは風の強い土地ならしい。引っ越す前は思いもしなかったことだった。
 私は、今日は『風の日』なんだと思った。『風の日』とはクマのプーさんに出てくるエピソードのひとつだ。
 子供たちが小さい頃、プーさんが大好きで、私も一緒に見ていた。プーさんは大人が見てもなかなか面白い。
 数あるエピソードの中で、『風の日』も好きなエピソードのひとつだ。ある東風が西風に入れ替わる日、風がビュンビュン吹いていた。とても強い風の日で、お友達のピグレットなんかは小さくて凧みたいに吹っ飛ばされてしまう。けれど、呑気なプーさんはピグレットを追いかけながらも、みんなに「風の日おめでとう!」と言って回るのである。
 プーさんの登場人物(登場ぬいぐるみ?)たちはみんなどこか(かなり?)おかしい。木のてっぺんに住んでいるフクロウのオウルはおしゃべり好きでどんな時も喋り続けている。文字通り、「どんな時も」であって、『風の日』で自分の家が90度近く傾いても、とうとう倒れて家を失っても!彼は喋り続けるのである。
 ここら辺、かなり面白おかしく描かれていて、笑ってしまう。子供たちとプーさんの話をする時は大盛り上がりだ。
 ハチミツの食べ過ぎで穴から出れなくなったプー。それを『引っ張るなんで絶対嫌だ!』と助けもせず、途方に暮れるラビット。煮え切ったラビットがプーのお尻に装飾するところ。ティガーの初登場シーン。プーさんが雨雲のフリをしてハチミツを盗ろうとするところ。話し出すと、次々と面白いエピソードが浮かんでくる。
 なんともシュールな世界のお話、クマのプーさんだが、物語はこんな風に締めくくられる。クリストファー•ロビンが学校に通う年になって、プーにお別れを告げるのである。

 「ねぇプー、世界で一番好きなことは何?」
 「僕が好きなのは君ん家に遊びに行って、君が『ハチミツはどうだい?』って言うことさ。」
 「それもいいね。でも一番好きなのは何にもしないことだよ。」
 「何にもしないってどうやるの?」
 「そうだなぁ。大人に『何するの?』って聞かれたら、『何にも』って答えてね、そのまま外に行けばいいんだ。」
 「楽しそう。一緒にやろうよ。」
 「だけど僕、もう何にもしないってことできないんだ。」
 「ずぅっとできないの?」
 「うん。多分ね。ねぇプー、僕がいなくなってもここに来て、何にもしないってことをしてくれる?」
 「僕だけ?ひとりで?」
 「そうだよ。それからね、僕のことを忘れないって約束して。」
 「もちろん忘れないよ。約束する。」
 「僕が100歳になっても?」
 「その時僕はいくつ?」
 「99歳だよ。プーのおばかさん。」

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