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手裏剣の色は?

棒手裏剣は種類も様々だがその色もそれぞれである。
銀色の光沢があるもの、鈍色、そして黒。
手裏剣は剣の一種というが、刀の色はほぼ統一されているのに対して手裏剣は何故これだけいろいろなものがあるのだろうか。

まず刀から考えてみると光沢のある銀色をイメージする方が多い。
これは刀の場合、徹底的な研磨がなされているからだ。
元来、鉄というのは日本のような高温多湿の環境下では錆びやすい。日本刀に使われるような炭素鋼ならなおさらだ。
日本刀も錆びることはあるが、表面にメッキ加工もされていない炭素鋼であることを考えると錆びにくいと言える。炭素鋼を使ったナイフを持っている人ならわかるだろうが、あっという間に錆びる。なんなら使わずにおいておくだけでも錆びる代物だ。日本刀の場合は表面を磨き上げることで錆が付きにくい状態になっている。
話しを手裏剣に戻そう。
手裏剣の場合、銀色の強いものと黒に分かれる。
鉄の場合、鍛造した段階で黒っぽい色になる。これは熱せられた鉄が急激に冷やされた段階で表面を酸化被膜が覆うからだ。この被膜は非常に強く、皮膜があることでコーティングとなり一般的に錆びと呼ばれている「赤錆」を寄せ付けにくくする。
ここから加工をすると再び鉄本来の鈍色が出てくる。このまま放置すると空気中の水分などの影響で赤錆が発生する。結果、赤茶色となる。
この赤錆は浸食性がありそのまま放置すると鉄の内部までボロボロになってしまう。
そこでこの錆対策をする。
それが手裏剣の色を決定する。
一つは黒錆を付着させる方法である。黒錆という名前だが正体は先ほども話した酸化被膜だ。これを意図してつける。ただし、また過熱して冷却をするわけにはいかない。何度も過熱と冷却を繰り返すと鉄が脆くなるからだ。そこで薬品を使い酸化被膜を付着させる。ガンブルーとも呼ばれるが、ガンは銃のこと、ブルーは青みがかった黒のことで、拳銃などの色がまさにこれである。薬品を使いたくない場合、お茶(タンニン)と柑橘類(クエン酸)を使ったものに浸したり、油を塗って焼き付ける方法などがある。いずれも黒錆つまり酸化被膜を付着させられる。つまり黒い手裏剣となる。
もう一つは徹底した研磨を行うことで錆を防ぐ方法である。
これは考え方としたら日本刀に近い。
徹底した研磨をする。具体的にはサンドペーパーなどで磨く。目の粗いものからはじめてだんだん番手を上げて目の細かいサンドペーパーで何度も磨く。こうすると表面は滑らかになり光沢が出てくる。これが銀色の手裏剣だ。
高温多湿の日本、さらに刀と違い手裏剣は素手で扱う。
だからこそ製品化する上で錆対策は必須である。
その対策の選択肢によって多種多様な色の手裏剣が出来上がると言える。

面白いことに、手裏剣術を行う流派によっても考え方が違う。
例えば武士を出自とする流派の場合、使う道具の錆は恥として磨き上げたものを使うところが多い。現代で言えば自衛官が磨いて光るものは光るまで徹底的に磨き上げる感覚だろうか。それが武士としての矜持だったのだろう。
対して、忍者を背景に持つ流派の場合、黒錆をつけたものも使うが場合によっては赤錆も使う。
赤錆が付着した手裏剣で傷がつくと治りにくい。場合によっては破傷風などの感染症を引き起こす場合がある。忍者はこれも利用する。
まあ、実際の話をすると錆や雑菌などで破傷風などの感染症を狙って引き起こす可能性はそれほど高くないので現実的かどうかはわからない。しかし、実際に赤錆が付いた手裏剣でつけた傷は治りにくい。磨き上げた手裏剣の場合、表面が滑らかだという話は上記の通りである。対して、赤錆が浮き出るような手裏剣の場合はその表面を拡大すると凹凸がありギザギザとした状態なのである。なめらかなものよりも傷つけることが出来る。道具を長持ちさせる以外のところに目的を持たせた結果なのではないかと推測する。
また、黒い手裏剣は見えにくい。
手裏剣を武器として捉えたときに、相手に見えにくいものということで黒色は有利だったのかもしれない。武器として手裏剣がどの程度使えるか私は懐疑的だが、実際に現存する流派で銀色の手裏剣が採用された理由の一つが「演武の時に観客に見えやすいよう配慮した結果」という話を聞いた。
逆説的な話だが「磨き上げられた日本刀は周囲の景色を反射することで長さを隠せる」という説を聞いたことがある人も多いのではないだろうか。その理論で言えば磨き上げた銀色の手裏剣もまた周囲の景色を反射して姿を隠せることにならないだろうか。
これに対して私は一つの実験をしたことがある。
同じ大きさの手裏剣を用意し、一つは銀色、もう一つは黒にして撮影を行い見えやすさに違いがあるのかを検証した。
結果としてその時は黒い手裏剣のほうがより見えにくかった。
しかしそれは室内に限定した話であることも付け加えておく。
屋外などの自然界においてはまた違う結果になることも十分ありえる。

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