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棒手裏剣の研究 その1

私が棒手裏剣の稽古を始めた時、さいわいにして何種類かの手裏剣が手元にあった。
多くの人は手裏剣術に興味を持った時に通える道場があればそこへ行くか、はたまた自分で練習スペースがある人は独学で練習を始める。道場であれば先生や先輩がいくつかの手裏剣を持っているからそこで様々な手裏剣を試すことが出来るかもしれない。もしくは流派で制定されている規格の手裏剣があればそれを使って練習をスタートする。
独学の人は釘やコンクリート針、鉄の棒を削ったものを代用品として使うか、もしくは今であればネットで検索をすると稽古用の手裏剣が手に入る。

しかし一口に「棒手裏剣」と言ってもその大きさや形状は多種多様である。いくつかを入手して自分に合うものを探そうとしても手裏剣は打法や力を入れる場所一つ変えてもなかなか安定しないものなのでどうにも始末に悪いところがある。この手裏剣でこの打ち方をしたら安定すると思っても次の瞬間にはもうそれが崩れてしまう。しかし手裏剣を変えた瞬間にまた安定する。自分にとって理想の手裏剣はこれだったかと思うとまた刺さらなくなる。その繰り返しで、ふと気が付くと手裏剣術の沼と言えるものにどっぷりとハマることになる。
一つの手裏剣で練習した方が上達が早いのか、それとも感覚に合わせていくつか手裏剣を変えながら練習した方が上達が早いのかは誰にもわからない。証明のしようがないからだ。ある人がそれをして、どちらの方が上達が早いのかをどうにかして証明したとしてもそれは「その人だからそうなった」だけの話であり「あなたはあなた」なのである。
結局のところ、手裏剣術はその人の体型や身体の使い方、そして感覚に大きく左右される。だからこそ時として「一人一流派」と言われるくらいに、手裏剣の技術はその人だけのものだと言われる。
私個人の考えでは、道具と技術は同時に進歩すべきだと考えている。
手裏剣という道具を扱う以上、道具に合わせた技術が必要であり、同時にその技術で扱った時に最も効率のいい道具もまた必要で、それらは互いに高め合って進歩するべきである。

まだ手裏剣の稽古を始めて間もないころ、私は自分で手裏剣を作ってみようと考えた。
最初から何種類かの手裏剣を打つことが出来たので、まだ打法も固まっていないなりにも手裏剣の形状や長さが変わることに飛び方が大きく変わることは実感していた。一見するとよく似ている手裏剣も、ほんの少し形状が変わるだけでまるで別物のようになる。だからこそ、何度か作れば理想的な手裏剣が作れるのではないかと思ったからだ。
鉄の棒を調達して、いくつかの種類の長さにカットして先端を尖らせて即席の手裏剣を作った。
まずはざっくりと削り出してみたものを試打。
何とか刺さるものもあればまるでダメなものもあった。
なにしろ、データなどまるでない。
手元の手裏剣を打って、どれくらいの長さのものはどんな飛び方をするかということはわかっていたがそれ以上のことはなにもわからない。
長さを変えたらどう影響するのか、太さを変えたら、削る面積を変えたらどうなる…わからないことだらけである。
だからこそ、ヤスリで少し削っては試打をする作業をくりかえした。
最初は先端から削り始めた。
ほんの少しだけ削ったもの、大きく削ったもの、試打をしてはまた削る、その繰り返しだ。そのうち、ほんの少し削るだけでやはり飛び方が変わることを実感するようになった。切っ先を2ミリほど削るだけでも違いが分かるのだが、それでも理想の飛び方には程遠かった。そこで今度は持ち手側を削ってみた。ほんの少しだけ、それでも飛び方は劇的に変わった。
これを繰り返すうちに、どこをどれだけ削れば飛び方がどう変わるのかがなんとなく掴めるようになってきたのでこれは後々にも誇れる貴重な経験だったのかもしれない。

棒手裏剣は鉄の棒を削っただけのもので、その「簡単につくれる」点にメリットがあると聞いていたが、それを言った人は実際に作ったことがないか、もしくはよほどの天才だろう。本気でそう思った。
削るだけでも最適なバランスを見つけるのが大変なのだ。さらに焼き入れや黒錆のコーティング、やることは山のようにある。何よりも一点ものではなく、最低でも数本は横並びで同じものを作り続けなければいけないこと…気が遠くなる作業だと感じた。
しかし実際に自分で作ってみたことの経験は非常に大きく、この時の経験と感覚が後々大変役立つことになった。

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