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物語「列車」

ガタゴト ガタゴト
体の振動と音で目をあけた。
「いつのまに 眠ってしまったのかしら?」
辺りを見回すと、私は木でできた椅子の列車に
乗っていた。
教会の椅子のように、全部が進行方向を向いている。
もう、随分古いものらしい。
周りは 人がいるようで、いないような感覚。
「ここはどこ?」
私は、なぜ自分がこの列車に乗っているのか
わからなかった。ただ、穏やかな気持ちだった。

ガタゴト ガタゴト
列車の音と揺れに身を任せ
窓の外を見た。淡く白い世界。
霧が出ているようで、何も見えない。
列車の速度と共に
ぼんやりとした時間が過ぎ去ってゆく。
暫くすると、ガタンと音がして
列車が止まった。

私の前、椅子一つ隔てた右側の扉が開いて、
黒い帽子をかぶり、
黒いマントを着た男性が1人、ゆっくり乗ってきた。
帽子を目深にかぶっているので、顔はわからなかった。
入った時、やっと立っているかの如く、肩で息をしていて、
とてもつらそうに見える。
男性は、細く白いチューブのようなものを
体中にいくつかつけていて、
でもそのチューブの先は、途中から見えなくなっていた。
私は、そのすべてのチューブの先と
何かが繋がっているような感じをうけた。
その男性は、私の一つ前の席に座った。

ガタン ゴトン と 列車は動き出した。

男性は、顔を下に向け、私に顔半分の横顔を見せていた。
目はずっと伏せたままで。
あまりにつらそうに見えたので
「大丈夫ですか?」
と、声をかけた。
男性は、黙って頷くと、
「心配ないよ」というように、左手で手を振った。
それから、1本1本、白いチューブを手に取り
引っ張って抜いて行った。
そのたびに、うめきに似た声が漏れるのを聞いた。

その男性は、「何も言うな!」というようなオーラを
体全身でだしていた。
私は、ただ見守るしかなかった。
その姿が、あまりにも辛くて
私は、男性から目をそらし、
霧に煙る窓の外を見た。

霧を見ていると、窓を通り越して、
その霧が、どんどん私に迫ってきた。
霧の細かい粒子が私を包み込み
呑まれてしまいそうになった瞬間
私は、自分の部屋の布団の中で目を覚ました。
いつも見慣れた、私の部屋だった。

私の頬がしっとりと濡れているのがわかった。
私は、手のひらで頬を拭うと、
布団を目深にかぶった。
「ご無事でありますように。」
夢の中の男性の姿を、記憶の箱にしまいこみ
私は、再び目を閉じた。
耳の奥深いところで、
ガタゴト ガタゴト
かすかに 列車の音が響いていた。

☆彡

ハタモトさんのフォトをお借りしました。

有難うございます。