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12月5日の栞

小3の5月。
1人の男の子が転校してきた。
目がクリクリとしていてよく笑う人懐っこい子。
幼いながらも不思議と華やかな雰囲気があった。

そのころから、陰の雰囲気を身にまとっていた私は
自分とは無縁の転校生だと思っていた。

しかし、転校してきて2ヶ月が経った頃だろうか。
道徳の授業で先生がこう呼びかけた。
「皆さんはクラスの中で誰が優しいと思いますか?」
女子のグループの下っ端たちがリーダー格の女の名前を
何度も挙げ、うんざりしていたころ
転校生が手を挙げ、なぜか私の名前を挙げたのである。
そんなに関わっていないのに、名前を挙げてくれたことに
驚いたと同時に好きになったのである。

我ながらすごく単純である。
この出来事をきっかけに仲良くなり、話すようになった。
また、ちょうどいいタイミングで席替えがあり隣の席になった。
休み時間、給食。授業以外の時間がパラダイスに感じていた。
休み時間、誰とも話さず本を読んでいた私によく話しかけてくれていた。
少し大人になった今、考えると人との関わりが少ない私への最大の優しさ
だったのだろうと思う。
だが、当時の私にとってはそれが学校に行く意味の一つで
唯一の楽しみだった。

そんな楽しい日々は過ぎ、無情にも訪れる席替え。
12月5日のことだった。
席替えの前、1枚の栞をくれた。
本をたくさん読んだ児童へ図書室が配っていたもので
この栞をもらうために多くの児童が必死になっていた。
私もその一人だった。
そんな小学生にとっては大切なものをくれたのである。
嬉しくないはずがないだろう。
その直後の席替えを恨めしく思ったのは先生には
絶対に言えない話である。

席替え後も話すことはあり、仲良くすることもあったが
やはり関わることは少し減った。
3年から4年へ進級するタイミングで同じクラスではなくなったことで、
さらに話すことがなくなり、
卒業するまで同じクラスになることはなかった。
中学で同じクラスになることを期待したが、
彼は私立の中学に進学し、田舎では珍しい芸能活動を始めた。
そのため、学生生活を共に過ごしたのはたったの1年だったのである。

中学3年の夏。
お祭りで偶然会うことがあり、ツーショット写真を撮ってもらった。
携帯の機種を変えても、常にその写真は入っている。

今でも芸能活動を続けており、遠くなってしまった存在。
寂しさも感じるが、同時に自慢でもある。

小学生という純粋な時期に素敵な思い出を作ってくれた彼には
感謝の気持ちで一杯だ。
あの道徳の授業で何故私の名前を挙げてくれたのか、
私の何を見て「優しい」と思ったのか今でもわからない。
だけれども、知らないうちに自分の行動を見てくれていること、
認めてくれている人がいると感じられてすごく嬉しかった。
今でもその経験は私の力となっている。

栞をくれた12月5日。
あのときからもうすぐ14年が経とうとしている。
しかし、私の心には栞は挟まれたままである。





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