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【新連載スタート!】「異世界の街角から」第一話公開──傭兵たちが集う酒場


宵闇書房が贈る新たな短編連載「異世界の街角から」が本日スタート!
第一話の舞台は、戦場帰りの傭兵たちが集う酒場。
剣を休め、酒を酌み交わすひとときに、彼らが抱える思いや過去がちらりと覗く──そんな異世界の日常をお届けします。

宵闇書房ならではの「静かに深く響く物語」をぜひご堪能ください。


SS:傭兵たちの酒場


酒場はいつも通りだった。木の床は靴跡と泥で汚れ、天井に吊るされた古びたランプがかすかに揺れている。
暖炉の煙がうまく抜けないせいで、店内の空気は重く、どこか燻したような匂いが漂っていた。
高い天井の隅々、椅子の一脚まで、すっかりと年季が入った傭兵たちが帰ってくる場所だ。

「おい、いつものをジョッキ一杯だ!」

黒髪を肩に垂らした若い傭兵が声を張り上げる。店主の老人は顔も上げずにカウンター奥からジョッキを引っ張り出し、片手で雑に注いで滑らせた。
ジョッキが勢いよくテーブルにぶつかると、酒が半分ほど飛び出す。若い男は文句を言うでもなく、それを掴んで一気に飲み干した。

「おいおい、そんなに急いでどうする?」

隣に座る年配の傭兵が笑う。髭に酒の雫を引っ掛けたその顔には、戦場帰りの疲れが色濃く見えた。

「戦場じゃ飲めねぇだろ。それに、どうせ明日また命を張るんだ。味わってる暇なんてあるか?」

若い男がそう吐き捨てると、髭の男は手に持ったジョッキを振りながら軽く首を横に振った。

「若ぇな。ここで味わうってのは、酒そのものの話じゃねぇよ」
「じゃあ、なんだってんだ」

髭の男は答えず、ゆっくりとジョッキを口に運ぶ。その仕草が妙に堂々としていて、若い男は何も言えなくなった。


隅の席では、別の傭兵たちが低い声で何かを話し込んでいる。テーブルの上には、地図の切れ端や使い込まれたナイフ代わりの短剣が無造作に置かれていた。

「お前、聞いたか?   西の街道でまた魔物が出たって話」
「聞いたとも。だが、そいつを退治したやつがいるんだろ?」
「らしいな。報酬はたったの銀貨5枚だとよ。そんな金で受ける奴がいたら、こっちは商売上がったりだ」
「やってられねぇな、どこのどいつだ」

その短いやり取りに緊張感はなく、どこか日常の延長のような雰囲気が漂う。それでも、彼らの目はどこか鋭く、いつでも剣を抜けるようにすることまでは忘れていなかった。


夜が更け、ひとり、またひとりと席を立つ。
それぞれが剣や斧を腰に携え、やがて消えゆく焚き火のように、足音を残して外へ出て行った。
酒場の扉が静かに閉まり、再び静けさが訪れる。

「……明日も同じように来るのかね」

店主が誰にともなく呟くと、返事の代わりに、壁にかけられた古びた剣が暖炉の炎に照らされて、ゆらゆらと揺れているように見えた。


異世界の日常

戦場に生きる者たちにとって、酒場はほんの一瞬の安らぎの場です。
だが、彼らの日常には常に死と隣り合わせの影が付きまとい、その会話や仕草の一つひとつに、生と死の曖昧な境界線が浮かび上がります。
それでも、彼らは酒を酌み交わし、笑い、いつもと変わらぬ一日を過ごす。
この物語には、そんな「静かに過ぎる異世界の夜」が紡がれています。
「味わうのは酒そのものの話じゃねぇ」という髭の男の言葉、あなたにはどう響きましたか?
異世界の酒場で、あなたならどんな会話を交わしますか?

ぜひ、コメント欄であなたの感じたことを教えてください!


次回予告:「オークの集落」

次回は、人間社会から離れた亜人たちの小さな集落を訪れます。
オークたちの穏やかな生活と、その裏にある「疎外された者たちの思い」を描きます。どうぞお楽しみに。


「異世界の街角から」は毎日更新予定!
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宵闇書房
「宵闇の世界で、心に灯る一冊を」

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