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異世界の街角から:癒しの木が支える村人の暮らしと祭り



霧がかった山間に広がる小さな村。その中央にそびえる一本の巨木が、村の暮らしを支えているという。
民族植物学者のリーヴ・エンデルは、この村の「命をつなぐ木」と呼ばれる植物を研究するために、長い旅路を経てやってきた。

彼の仕事は、植物とその土地に根付く文化を記録し、継承することだ。この世界では、植物は単なる資源ではなく、人々の祈りや生活の要であることが多い。
リーヴはその真実を知るため、今日もまたメモ帳を片手に歩き回っていた。


命をつなぐ木の謎


村に入ったリーヴを最初に出迎えたのは、葉を茂らせる巨木だった。その幹は人の腕では到底抱えきれないほど太く、枝は村全体を覆うように広がっている。村人たちはこの木を「生命の舌」と呼び、その実を薬や食料に使っているという。

「この木の実は特別なんです。生まれたばかりの子供にも、病床の老人にも、命をつなぐ力を与えてくれるのです」

村の長老はそう言いながら、木の根元に手を当てた。その仕草には深い敬意が宿っていた。リーヴは足元の土をすくい手のひらで確かめ、それから、そっと優しく幹に触れる。
木全体が、どこか静かに息づいているような感覚がした。


実験か、伝承か


リーヴは巨木の周囲を歩きながら、村人たちに話を聞いた。この木の実は、熟したものをすりつぶして薬草と混ぜることで「癒しの薬」として使われる。その薬を服用した者は、たちどころに病から回復すると言われていた。

「科学的な成分があるのか、それともただの伝承か?」

リーヴは何度もこの疑問を自問する。彼の観察では、木の実には独特の香りと粘性があり、抗菌作用が期待できる成分が含まれている可能性が高い。
しかし、村人たちにとってこの木は単なる薬の供給源ではない。

「この木は、神がくれた贈り物なんだよ」

村人の一人がそう話す。リーヴは、科学者としての冷静さを保ちつつも、伝承の重みを無視することはできなかった。
信仰と科学の狭間で揺れる彼の姿は、この地での調査の難しさを物語っていた。


命の祭り


ちょうどリーヴが村を訪れた夜、命をつなぐ木の祭りが行われた。村の中央で火が焚かれ、村人たちは木の実を捧げ物として枝に吊るし、歌と踊りで夜を明かす。

「木に感謝し、来年も実をつけてもらうための儀式です」

村の若い娘が説明する。
その目は、どこか誇らしげだった。
リーヴは儀式の様子を一部始終記録しながらも、火の光に揺れる木の影を見つめた。
その瞬間、自分がこの地で得ようとしているのは単なるデータではなく、人々と植物が共に生きる物語そのものだと気づいた。


別れの朝


祭りの翌朝、リーヴは荷物をまとめて村を出る準備をしていた。村人たちは彼の旅の安全を祈り、命をつなぐ木の実を手渡した。

「この木のことを忘れないでください。きっとあなたにも加護がありますよ」

リーヴは頷きながら、村の風景を目に焼き付けた。この木と村人たちの暮らしを科学の名の下に記録するだけでは、その本質に触れることはできないだろう。植物と人々を結ぶ絆、それが彼の探求の真髄だ。


異世界の街角から、あなたへ


この物語は、異世界に根付く文化と植物の関係を描いた一編です。命をつなぐ木のように、自然と共に生きる人々の姿を通じて、異世界の多様な文化が垣間見えます。

リーヴの次の旅先では、どんな植物と物語が待っているのでしょうか――。

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