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異世界の街角:傭兵の母が語る“遠い大地”の物語とは?

前書き

異世界の街角から紡がれる、日常の中に潜む物語――。
本連載では、異世界の文化や人々の生き方を垣間見る短編をお届けしています。

今回の物語は、幼き日のヴァルターと、戦場を渡り歩く母親とのひととき。
彼女が語る「空を裂く鳥」と「雷の鳥」の物語に、どんな意味が込められていたのか――きっとそれは、彼女が生き抜いてきた世界を垣間見る鍵でもあります。



異世界の街角から――母と暖炉の記憶


暖炉の炎が赤々と揺れていた。
薪が爆ぜる音が部屋に響く中、ヴァルターは古びた毛布にくるまり、膝を抱えながら母親を見上げている。
母親は椅子に腰を下ろし、剣を膝に乗せて布で磨き、ちらりとヴァルターを見やると、その無言の視線に気づいて小さく声をかけた。

「ヴァルター、まだ起きてたのか?」
「……目が冴えて」

ヴァルターの小さな声に、母親は少し笑みを浮かべた。ほんの一瞬だったが、普段はあまり変わることのない表情が、暖炉の光に照らされてくっきりと浮かび上がった。

「昔話でもしてやろう」

彼女がそう言うと、ヴァルターは目を輝かせた。母親の語る話はいつも不思議な世界のものだった。
どこまで本当なのか、それとも全てが嘘なのか、彼には分からなかったが、眠りに落ちる瞬間まで、落ち着いた母親の声を聞くのが好きだった。

「今日は、戦場じゃない話にして」

ヴァルターの願いに母親は少し首をかしげたが、すぐに頷いた。
そして、剣を壁際に置き直し、暖炉の前に腰を下ろすと、静かに話し始めた。

「昔、とある広い大地に、二羽の鳥がいたんだ」「鳥?」
「そうだ。片方は高く飛ぶ力を持つ『空を裂く鳥』もう片方は地を駆ける速さを持つ『雷の鳥』だ」

母親の言葉はどこか不思議な響きを持っていた。ヴァルターは一言も聞き逃さないように、じっと彼女の口元を見つめた。

「空を裂く鳥は誰よりも遠くを見渡せる。地平線の向こうにあるものを見通す力があった。だが、その翼は重く、長く飛び続けるには強い風が必要だった」

ヴァルターは頷きながら想像を巡らせ、その鳥がどんな姿をしているのかを思い描こうとしたが、重い翼と言うものがどうしても想像出来なかった。
以前、母が言っていたように翼は自由の象徴で、軽やかでなければいけないのだ。

「一方で、雷の鳥は地面を駆け抜ける力を持っていた。どんな障害物も恐れず突き進むが、あまりに速すぎて周りが見えなくなることも多かった」

母親は少し火を見つめ、言葉を切ると、ヴァルターは続きを急かすように少し身を乗り出した。
母親はゆっくりと笑いながら、軽く片手をあげて諌めるよウニしながら話を続けた。

「二羽の鳥はいつも喧嘩をしていた。『お前は空ばかり見て、地に足がついていない』と雷の鳥が言えば、空を裂く鳥は『お前は地べたを這うばかりで、何も見えていない』と返す」

ヴァルターは小さな声で「それで?」と促した。母親は暖炉の火をかき混ぜるように、そばにあった棒を手に取りながら話を続けた。

「ある日、大きな嵐が来た。その嵐はすべてを飲み込むような力を持っていて、鳥たちは逃げ場を失った。弱い者から安全な巣を押し出されて……」
「どうなったの?」
「言葉にできないほど悲しいことがおきた。見かねた空を裂く鳥は、雷の鳥に頼んだ。『お前の速さで嵐を超えてみせてくれ』と。そして雷の鳥は、空を裂く鳥に頼んだ。『お前の目で進むべき道を教えてくれ』と」

母親の目はどこか遠くを見つめるようだった。ヴァルターはその哀愁のようなものに引き込まれ、じっと次の言葉を待った。

「二羽は協力して嵐を抜け出した。その時、ようやく気づいたんだ。お互いが力を合わせなければ、どちらも生き残れなかったってことにな」「……それで、その後は仲良くなったの?」

ヴァルターの問いに、母親は少し口元を緩めた。

「どうだろうな。ただ、一つだけ確かなのは、強さってのは一人でどうこうできるもんじゃないってことだ」

母親はそっとヴァルターの頭に手を置いた。その手は硬く、戦場の経験が刻まれたものだったが、触れ方には深い愛情と優しさがあった。

「ヴァルター、お前もいつか分かるさ。どうしてこの話をするのかってことがな」

ヴァルターは母親の言葉の意味を完全には理解できなかったが、次の日になろうとも、さらにその次の日になろうとも、彼の胸には何かが深く残り、暖炉の火のようなものがゆらゆらと揺れていた。



母親が語った「空を裂く鳥」と「雷の鳥」の物語――この比喩に込められた意味を、皆さんはどう解釈しましたか?
ヴァルターがこの話を受けてどのように成長していくのかを想像しながら、ぜひ感想をコメントでお寄せください。

「強さ」とは何か、皆さんの考えもぜひ聞かせてください。SNSでも感想をシェアしていただけると嬉しいです!


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シリーズ書籍化情報


2025年8月10日、「戦場に生きる傭兵と祈りを捧げる男」シリーズ第1巻発売予定!

作品情報

本連載「異世界の街角から」は、宵闇書房が贈る墓太郎の最新プロジェクトの一環です。
“異世界の日常”をテーマに、リアルで味わい深い物語をお届けしています。

この連載の中には、2025年8月発売予定のシリーズ「戦場に生きる傭兵と祈りを捧げる男」にも繋がるエッセンスが散りばめられています。書籍化を楽しみにお待ちください!


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