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寝ジャズのお話 フロム盛岡[6]
Pacific DRIVE-INとハービー・ハンコック「処女航海」
鎌倉の七里ケ浜にPacific DRIVE-INというレストランカフェがある。やたらと国内旅行に出かける盛岡民だが、息子が東京に家を持ったせいもあり、年に何回も東京方面に出かける。そして時間を見つけては行くのが鎌倉。
そもそも憧れがあった。中学生の頃からサザンオールスターズの大ファンでライブに行った回数は数知れず、先日もロッキンジャパンのライブビューイングを観に市内の映画館に行って来たばかり。サザンと言えば茅ヶ崎、湘南、鎌倉。名盤「kamakura」は一番お気に入りのアルバム。
話は戻り、Pacific DRIVE-IN。海沿いの大きな駐車場の中にあり、白を基調とした外観も内装もアメリカ?ハワイ?風で実にお洒落。値段はそれなりだけど料理が大きくて美味しい。パンケーキとポテトだけでも食べきれないほど。それにカールスバーグがあればもう十分。店内もいいがテラス席が最高。打ちつける波の音を聞きながら、無数のサーファーが漂う青い海と江ノ島、運が良ければ富士山を眺めながらカールスバーグ。これを求めて時間的なチャンスさえあれば、江ノ電を七里ケ浜駅で下りるのだ。
初めて鎌倉に行ったのはいつだったか。前の前の仕事時代に横浜に一人出張があり、思い切って足を伸ばしたのが最初だったろう。あれは確か秋だった。あの時は七里ケ浜ではなかった。今はスラムダンクの影響で人がごった返す鎌倉高校前駅に下り立った。ウォークマンでサザンを聴きながら海に向かうベンチで一人海を眺めていた記憶がある。あのころの鎌倉高校前駅は実に静かだった。江ノ島を眺めながら何を考えていたのだろう。それとも何も考えていなかったのか。どちらかと言えば無心の方が羨ましい。海の景色と潮の香りとサザン。視覚と嗅覚、聴覚。それだけ。頭は空っぽ。最高に贅沢な時間。あの頃の自分にはお洒落なレストランもカールスバーグも必要なかった。
あの頃は「天気予想」をする必要がなかった。明日の自分の気分が晴れなのか雨なのかを心配する必要もなかった。
さて、本題の寝ジャズ。
ハービー・ハンコック「処女航海」。マイルスグループで腕を磨いたメンバーによるモードジャズ の最高峰。基本的にジャズとは都会の音楽で、山や海は似合わないものだと思っているが、これはアルバムを通して海をイメージさせることに成功している。
ただ、これが湘南の海に似合うとは言わない。もっと静かな海のイメージだ。それではなぜ「処女航海」か。
鎌倉の小町通りから小道を入ったところにミルクホールという老舗喫茶店がある。木造の古い建物で中にはアンティークな物がセンス良く飾られている。濃厚なブレンドコーヒーが美味い。ここで静かに流れていたのがこれだった。実にこの店の雰囲気に合っていたし馴染んでいた。
Pacific DRIVE-INとミルクホール。カールスバーグとブレンドコーヒー。サザンとハービー・ハンコック。明るさと薄暗さが共存した街、鎌倉なのである。どこか今の僕と共通している。
ところで今の僕の気分は、Pacific DRIVE-INとカールスバーグ、サザンを猛烈に欲している。つまり健康的ということ。多分。
Pacific DRIVE-IN。来年の年明けにはまた行けるだろうか。