「フェアで嘘のない姿勢が、お客様と社員の信頼を築く」ジャパンムーブ株式会社田頭千恵氏インタビュー
異文化交流、そして運送業という新たな世界に魅了されたアルバイト時代
―ジャパンムーブ株式会社について教えてください。
「海外引越しでお客様に感動していただけるサービスを提供しよう」という精神の下、引越し事業を行っています。梱包資材の準備や荷造り、荷解きといった引越し業務だけではなく、お客様が海外へ持っていかない不要な物を当社倉庫で保管したり、帰国した際の不動産業者への連携なども行う、ワンストップのトータルサービスをご提供できるのが弊社の特徴であり、強みになります。
―もともと、海外引越し業務に携わっていた経験があったそうですね。
知人から横須賀米軍基地の運送業のアルバイトを紹介されたことが、この業界に関わるようになった最初のきっかけです。もともと音楽の仕事に就きたかったので、大学ではピアノを専攻し、イタリアでオペラ関連の修行をしていました。帰国直後は時間もありましたし、やったことのないことだったので面白そうという軽い気持ちで仕事を始めたのですが、今までピアノの練習に明け暮れていた自分にとっては、運送業は新たな世界でとても刺激的だったんですね。それまでトラックに乗ったことはもちろん、引越し現場も見たことがありませんでしたから。
それから、米軍基地内という特殊な環境で仕事をしていることものめり込む要因になりました。海外引越となると、日本にいながら海外の方達とコミュニケーションをとるなどのプチ異文化交流ができますし、国それぞれで特色のある生活の身の回り品にふれることができます。こういった日本と違う文化を感じられる所に、すごく面白みを感じていたのだと思います。
お客様とコミュニケーションをし続けられる仕事を求め、経営者に
―そこから経営者になるまで、どのような経緯があったのでしょうか?
しばらく働いた後、職場で出会った夫と結婚をしました。出産し、子どもと一緒に過ごす時間を優先していたこともあり、仕事はせずに家庭優先の生活をしていました。ですが、家庭にずっといるのが性に合わなかったんでしょうね。また働きたいと思い、夫に相談し、彼が設立した会社(若吉ロジスティクス株式会社)の役員として働き始めることになりました。仕事と育児の両立については、苦労はあまり感じませんでしたね。
―会社で役員をした後、ジャパンムーブ株式会社代表取締役となりました。次のステップへと移行した背景にはどんなことがあったのでしょうか?
大きく見れば二人とも同じ方向を向いているのですが、細部を見た時に、夫には夫のやり方があり、私は私のやり方ややりたいことがあるというのがわかってきたんです。それを考慮して、お互いに検討した結果、それぞれ自分のやりたいことをやるためには、別々の会社に立つ方がよいのではないかということになりました。
―田頭さんとしては、ご自身の会社でどんなことをやりたいと思っていたのですか?
引越しの一部だけではなく、1から10までお世話をしたい、引越し先のケアという所までを担いたいという気持ちがあったので、作業の部分だけを下請けとして行っていくことに自分としてすごくジレンマを感じていました。下請けのみだと、日本から送り出すという枠内でのサービスしか行うことができませんし、お客様とのコミュニケーションもそこで終わってしまいます。お客様とコミュニケーションをし続けられる仕事にしていきたいという想いから、ジャパンムーブの運営に行き着きました。夫の会社の方は国内引越専門で実際の引越し作業に携わる業務を、そしてジャパンムーブは海外引越専門の営業とオペレーションを担っています。この2社がうまく連携をとりながら、引越し業務を一括して展開しています。
現場経験と人、そして立場によって育くまれていった経営者としての覚悟
―経営者になるにあたって、経営についてどうやって学んでいきましたか?
仕事に携わってはいたものの、いざ経営者となってみると何をすればいいかがわからない、わからないことだらけでしたね。物事を設定する時も、「これでいいのかな?どうやって決めたらいいのだろう」という感じで、すべてゼロからスタートしました。経営者という立場に育てられたということもあると思いますし、まわりの目やこちらに求めてくることが変わりましたし、現場や人に鍛えられていったと思います。あまり人に相談するということはないのですが、自分でよく考えるようになりました。自分で出した答えに自分で責任を持つということから始めて、「自分が責任をとるんだ」という覚悟ができてからは、あまり悩むことはなくなりましたね。
―経営者になってから、困難や壁を感じた出来事はありますか?
昨年からのコロナ禍もありますが、経営者になった時に会社の業績が良くなく、立て直すのにとても苦労しました。会社が黒字体質ではなかったので、それを変えていくことから始めました。料金設定も安く、粗利を管理していないなど、管理体制がしっかりしていなかったのが一番の課題だったので、根本的な所から経営を見直していきました。
―これまでのやり方を変える、新しい流れを作るにあたって、まわりの社員の協力が重要になってくると思いますが、どのように意思統一を図っていったのでしょうか?
そこで同調してもらえない人は辞めていき、同調して頑張ろうと思ってくれた人は残ってくれました。今は同じ方向を向いて一緒に働いてくれる社員ばかりで、本当に社員に恵まれていると感じています。普段、各社員には一人ひとり面談の時間をとって話をするようにして、コミュニケーションはとるようにしています。そんなに大きな会社ではないので、みんなが自分の意見を言い合えるアットホームな環境ではありますね。
―どんなところに、仕事のやりがいを一番感じていますか?
引越しが無事に終わり、お客様から「ありがとう」という言葉を言っていいただけることが、やっぱりうれしいですね。一番最初に手配をさせていただいたお客様からのお礼のお手紙は、今でも大切にとってあります。手紙に書かれた「田頭さんのおかげで無事に新生活をスタートできました」という言葉は、今でも時折見返し、初心にかえっています。
引越し業というのは、荷物が海を渡って各地へ届くというのもロマンを感じますし、それがお客様の手に渡って新しい生活がスタートしていることを考えると、本当にこの仕事は楽しいなと感じます。
信念とフェアな考え方をもって会社を成功に導くことがリーダーの役目
―経営者に必要なリーダーシップとは?
嘘がないこと、そしてフェアな考え方を持つことだと思います。そこがぶれなければ、いつか人に伝わるのではないかと思いながら、私自身、物事に取り組んでいます。カリスマ性もあるかもしれませんが、結果を出すことに尽きると思います。社員が幸せになれるように、自分も幸せになれるように、会社を黒字化して結果に導く。いろんな意味での成功に導く能力を持つこと、その力がリーダーシップだと思います。
―成功に導く能力を引き出すために、努力していることはありますか?
人、世の中をよく観察し、会社の状況を見落とさないように努めています。それから、もともと芸術家なので感性を大事にしたいと思っていますが、これについてはなくさないように努力するとなくなってしまうような気がするので、敢えて努力をせずにナチュラルな自分でいようと心掛けています。
―会社の今後のビジョン、課題について教えてください。
会社が大きくなることは素晴らしいことなのですが、今の私としては、まだあまり規模を大きくすることは望んでいません。大きくして濃度が薄くなってしまうよりも、ジャパンムーブに仕事を頼みたいというファンの方を増やしたいですね。そのためにも、会社をプロ集団にしたいんです。小さいけれどもプロの集団、一人ひとりが個性を生かし、団結力をもった強いチームを持ちたいと考えています。
―田頭さんの目指す、人生のゴールとは?
本当にシンプルに、「幸せな人生だったな」と思って最期を迎えられたらいいなと思いますね。子どもたちに人一倍愛情を注いできたつもりですが、小さい子どもにとっては私が不在の時間が長かったことは挽回できない事実です。このことは、今も胸が痛みます。犠牲にした時間を集めたら、その時間分、子ども達と何か別の話ができていたかもしれません。そう考えると、家族との時間を犠牲にせずに過ごすことができたら、「犠牲にしないでよかった」と思える自分がいるのではないかと思います。
それもあり、これからの人生、仕事の時間を削ることはなかなか難しい状況ではありますが、家族との時間を犠牲にすることなく、良い時間を過ごしていくことを最も重要なことと考えています。家族と一緒にたくさんの時間を過ごして、家族を犠牲にすることなくいい時間を過ごして、幸せに最期を迎えられたらなと。それが、私の人生のゴールです。
―田頭さんが思われる、これから活躍する女性経営者像を教えてください。
今、よく聞かれる女性が活躍するという言葉や女性経営者など、女性に特化した言葉が正直好きではありません。経営者は男性も女性もあって当然ですし、男女の区別はあってももちろん差別があってはいけないと思います。もし女性でこれから経営者になろうという方は、他人からの目を気にせず、自分が強い想いを持ったものを自分の好きなようにやってほしいです。女性経営者といわれるような殻を破ってもらいたいと思いますね。女性が活躍して当然ですし、すでに多くの女性が活躍しています。
私は今、引越業という男性がメインの傾向にある業界にいますが、一番嫌だと感じたことは職場で「奥さん」と呼ばれることでした。夫が初代の社長だったので、次期社長になった時に仕事の場においても、「〇〇さんの奥さん」という見方を変えない男性陣がたくさんいましたから。今ではそういった人はいなくなりましたが、当時は悔しい想いをしましたね。
女性が弱者のように扱われる世界は、一日でも早くなくしたいですよね。女性経営者という括りではなく、これから会社を経営する人は自分の信念を持って、自分のやりたいことを思いきりやったらいいのではないかと思います。
【おまけ】
田頭さんが影響を受けた人物やモノ、仕事に役立つ情報をご紹介!
■田頭さんが影響を受けた人
高校からずっとお世話になったピアノの師匠です。もう亡くなられてしまったのですが、悔しいこともたくさん言われましたし、打たれても打たれても這い上がっていくような精神はその時に培われたと感じています。今の自分のマインドがあるのは、恩師のおかげだと思っています。
■大事にしている言葉
・「バカな奴は単純なことを複雑に考える。普通の奴は複雑なことを複雑に考える。賢い奴は複雑なことを単純に考える」
・「人生や仕事の結果=考え方×熱意×能力」
実業家の稲盛和夫さんの言葉で、私が経営者になる前からずっと心に突き刺さっている言葉です。いろんなことを教えられている気がします。10年前位に知った言葉ですが、今でも事あるごとにそうだなと思う言葉です。
■息抜き&好きなこと
ピアノだと神経が鋭くなってしまうのですが、何となく聴き流せるような専門外の音楽を聴くと気持ちがリラックスするので、いつも流しています。あとは、ぶらぶらと散歩をしながら歩いたりするのが好きですね。リラックスして自分に帰ることができます。
それから、コスメが好きです。新商品をチェックして試したり、それはやめられないですね(笑)。小さい子がシールを集めて喜んでいるような、そんなレベルです。おすすめのブランドは、トム・フォードです!
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