株は心理戦(6月3日号)
長期金利高折り込み、次第高期待
5月の日経平均株価は、一時3万9千5百円に迫る場面もあったが、総じては3万8千円台で踊り場を形成し、値動きの乏しい1カ月だった。個別では、決算発表後に来期の減益予想を嫌気した売り物で一旦は株価を下げる銘柄が続出し、底値を徘徊する銘柄も少くなかった。二匹目、三匹目のドジョウを期待していた目先筋にとっては、あてがはずれた決算発表月になったことだろう。改めて、相場に絶対はないと思い知らされた1カ月だった。
日米共に長期金利が上昇している。特に日本の10年債利回りが13年ぶりに1.1%を付けた。米国も利下げ観測が遠退き再度長期金利が上昇していた。そのなか、長期金利上昇の一服感を狙い月末31日の相場には6月相場を先取りするような動きが見られた。米国株式の3指数が大幅安するなか、日経平均株価の433円高はあっぱれ。
当欄5月13日号で、5726大阪チタニウム(3,030円)を2,527円で推奨。「航空機向け金属チタンが絶好調で増産を検討」と記したが決算発表後に急落し、5月24日の2,251円を安値に反発。31日には昨年11月以来半年ぶりに3千円台を回復している。好業績銘柄が一旦は下げに転じる場面があっても、見直し買いが入る典型的な事例だ。中国に「袋中の錐」という諺があるようだが、内在する能力はどんなに覆い隠そうとも麻袋の荒い網目から錐の部分が出てくるという意味。
名村造船所と三井E&S
2銘柄が明暗を分けた理由は?
7014名村造船所(2,198円)は3月5日に2,361円の年初来高値を付けた。7003三井E&S(1,470円)は3月8日に2,898円の年初来高値(史上最高値)を更新し、両銘柄共に5月14日の決算発表を迎えた。そして、15日から2銘柄共に来期の最終利益の減益予想を嫌気され急落した。16日にはそれぞれ底値を打って反発したが、この2銘柄のその後は全く違う動きを見せる。名村造船所が1,572円で、三井E&Sが1,361円を安値に反発した株価は、約200円の差があったが、5月31日にはその差は700円まで広がっている。その差は何によるものなのか。
ここからは筆者の独断によってシナリオを推測してみたい。名村造船所と三井E&Sの株価は、5月16日まではコピーされたように同様の動きを見せ、どちらかと言えば三井E&Sが牽引する相場といっても過言ではない。それが16日以降、名村造船所は反発力を強め上昇するなか、三井E&Sは低迷し追加の増配予想にも殆ど無反応だった。そして、再度底値を確認するように1,361円を割り込み1,350円の安値付けてやっと反発に転じた。名村造船所が163円で年初来高値を更新しようとする中で、三井E&Sは徹底して底値鍛練の日々を送り年初来高値は遥か雲の上だ。
25年3月期の業績予想では一長一短はあるが、筆者が注目したいのは三井E&Sが、5月23日に発表した三井海洋開発の株式売却2,527.28円が決定したことにより、売却益約200億円を特別利益として計上したことだ。これに伴い、14日には未定としていた25年3月期の連結最終利益を350億円(前期比39.7%増)とし、年間配当を12円(前期実績5円)に増配した。この結果、同銘柄の一株益は360.22円となったことだ。
名村造船所が25年3月の最終利益が24.8%の減益予想から、連結一株益が216円に減額され、PER15倍まで買われても3,245円。三井E&Sは25年3月の追加予想を踏まえ360.22円に対し、名村造船所同様にPER15倍なら株価は5,403円となる。この点から、両社の株価の差が拡大することは考えられない。考えられるとしたら、名村造船所を先行させて三井E&Sの提灯筋をふるいにかけることが狙いではないか。しかし、本命はあくまで三井E&Sで名村造船所が走れば走るほど三井E&Sの出遅れ感と妙味は増すと考える。
くれぐれも、三井E&Sを売って動きの良い名村造船所に乗り換えて後悔なきようご注意を。「袋中の錐」の例えの如く、銘柄が持つ力量はいずれ株価に反映されるはずだ。
※投資行動は自己責任でお願いします