避難所の「質」を上げるには~地域防災計画を具体化せよ
能登半島地震の発生から半年が経ちました。災害関連死を含めると亡くなった方はおよそ300人に上ります。今回の地震では改めて避難所の問題が浮き彫りになりましたが、わたしが気になったのはその運営主体です。テレビ報道でも、インタビュー取材を受ける方の肩書は「避難所運営責任者」となっていますが、こうした方々は役所の職員ではなく、一般市民です。そもそも避難所の運営は誰がどのように行なっているのでしょうか。
災害で住民らが寝泊まりするのが指定避難所です。小中学校などが主に使われていて、藤沢市では合わせて81か所あります。この避難所を設置するのは応援職員ですが、運営マニュアルに沿って運営するのが、「避難所運営委員会」です。委員会は、防災担当など職員のほか、施設の管理者、そして避難する住民の代表でつくられています。神戸や東日本大震災でも明らかになったように職員も被災するので、実質的に柱になるのは住民の組織である自治会・町内会の代表です。
能登半島地震の後に起きた台湾での地震では、避難所運営までの速さと支援の充実度が伝えられました。施設の中にはテントが張られ、プライバシーが守られるようになっていたほか、食料など援助物資も十分すぎるほど整えられていました。凍てつくような寒さの中、体育館で雑魚寝を余儀なくされた能登半島地震の避難所との違いが強調されました。石川県との人口を比べると一概に比較はできないと思いますが、被災地外にあるボランティア団体との日ごろからの連携など学ぶべきことは多いと感じます。
しかしわたしは阪神大震災から始まる現地での取材や視察を通じて、もっと根本的に改善できる点が多いのではないかと考えています。それは避難所の「質」はほとんど準備で決まるということです。熊本地震の視察では、プライバシー保護がいかに重要か痛感させられました。これを受けて藤沢市議会では、テントの有効性を訴えたほか、女性やお年寄りなど要配慮者のため、学校の教室など別スペースをあらかじめ確保するよう求めました。しかし市側は、たいへん重要なことだと認識しているとしたものの、施設管理者を含めた避難所運営委員会で話し合っていくと答えるにとどまりました。
このとき最も重要だったのは、トイレの問題です。避難所のトイレが汚くて、女性やお年寄りが水分を取らずにトイレに行くのを我慢していたのです。そこでわたしは、藤沢市は仮設トイレを例えば7割は女性用にするとともにお年寄りや障がい者用に別の仮設トイレをあらかじめ用意していくように求めました。しかし市側は、明言を避け、地域防災計画に「女性のニーズに配慮した避難所運営に努める」としていて、今後は設置個数の配慮を検討すると答えました。これに対してわたしは努力や抽象的な規定ではなく、市から明確なルールを提示するよう要望しました。
質問から8年が経ちましたが、地域防災計画を見ても「要配慮者向けのスペースの設置に努める」「男女双方の視点に配慮し、女性用トイレなど女性の生活環境を良好に保つ」となっていて、具体的な対策は盛り込まれていません。
なぜ地域防災計画への記述が大切なのかというと各避難所がつくる避難所運営マニュアルのもとになるからです。地域防災計画は、やや概念的ですが、ここでしっかり決めごとを盛り込まないとマニュアルまで浸透しません。
ではなぜ市当局は計画に具体的な対策を入れたがらないのでしょうか。これはわたしが見てきた印象ですが、まず避難所運営の実質的な主体である自治会・町内会の自主性を尊重したいという面があります。しかし一方で、実質的な運営主体となる自治会・町内会への遠慮があるとも感じています。運営は職員では回らないため、行政としてはお願いする立場だからです。例えば良く知られているのが、広報紙の住民への配布です。市は自治会・町内会に配布を依頼していますが、高齢の役員からは負担になっているので取りやめてほしいという意見も出ています。
藤沢市の状況はおそらく全国でも似たり寄ったりだと思います。加えて委員会のメンバーは現役を退いた高齢者が多く、女性の役員も少ないのが実情です。各避難所でマニュアルを含めて対応がばらばらでは「質」の向上は望めません。
藤沢市もマニュアル作りの手本として、あらかじめスペースの割り当てを決めることや女性のトイレを男性の3倍にするよう呼び掛け始めています。しかし、地域防災計画に盛り込むなど一段と踏み込まない限り、実効性に欠けると思います。さらにやはり防災担当職員の層を厚くすることで、もっと運営に関われるようにすることも大事だと思います。藤沢市の防災費だけの予算は、5億円余りで議会費より少ない有様です。
能登半島地震でも浮かび上がった避難所の「質」の問題は、まず地域防災計画への具体策の盛り込み、および避難所運営への行政の積極的な関与でかなり改善できると思います。
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