I
すっかり寒い。もうすぐ12月になる。
聖なる夜???うるせぇ!!!
最近は朝起きると布団から出ずに、エアコンのスイッチを入れ、部屋全体があったかくなるまで布団で丸くなっている。ありがとう文明の利器…
二度寝に注意しながら、布団でぬくぬくと昔の事を考える。そういえば、実家の頃は暖房と言えばエアコンではなく、灯油のファンヒーターだった。
🐈
冬に僕が小学校から帰ると、アパートの1階に灯油の入った赤いタンクが置かれている時がある。
これがうちの灯油。我が家は5階で、エレベーターも無いため手で持っていかなければならなかった。
この作業が死ぬほど重くてきつい。
たぶん20リットルあった。小学生の僕はタンクを両手で持ち、一段一段引きずる様にしながら、えっちらおっちら、時間をかけて上まで運んでいったものだ。
灯油をどのようにして買っていたのかは覚えてない。もしかして「灯油のサブスク」をやっていたんじゃないか?共働きで家に誰もいなかったし。今度実家帰ったら聞いてみよう。
とはいえ、父親は今でもサブスクを理解していないからおそらく違うだろう。ちなみに僕は説明を諦めた。
今はどうか分からないが、当時のファンヒーターは起動してから暖かい風が出てくるまで数分かかった。中で十分に燃焼するためだ。
この数分間が死ぬほど寒くてきつい。
朝起きたら、凍える思いをしながら布団から出て、ファンヒーターのスイッチを押す。押してから一旦布団に戻る手もあるが、ファンヒーターは"場所取り"も重要なのだ。
もし布団に戻っている間に兄が起きてきて、ファンヒーターの前を陣取ってしまったが最後、僕は温風を受けられない。兄のディフェンスには定評があった。
そんな訳で、数分間ブルブル震えて場所取りをした結果、ファンが回りだし、やっとの思いで幸せな風を受ける事が出来るのだ。
親は兄弟のポジション取り争いをどう見ていたのだろうか。猫みたいなもんだと思っていたかもしれない。今度実家帰ったら聞いてみよう。
温風は、燃焼のあとの様な微かな匂いが感じられた。
僕はこの匂いを嗅ぐと条件反射的に「あぁ…冬キタ……」と季節を感じてエモくなる。むしろ犬だったかもしれねェ…
結局布団から出られても、ファンヒーターの前で丸くなっている僕はここから動くことが出来ない。(やっぱ猫かも)
朝はみんなバタバタしている中で、僕がヒーターの前を動かないものだから、見かねた親が「早うしろ!」って感じで僕を転がしてくる。コロコロ。あぁ寒い。
こういう時、父親は「ムーブムーブ!」と繰り返し言うのが口癖だった。ムーブムーブ言われると絶妙にうっとおしくて、渋々動いてしまうので効果的だった。
海外出張のある仕事(ただしほぼ日本語で済む)をしていた父親は、英語は読めないものの、経験とノリで英会話する事に長けていた。
move=急げ! という意味で使っていた父親に対し、座学で英語をかじっていたガキの僕は「moveは動けって意味だから間違ってるよ、急げはhurryupだよ」と言っていたけど、今考えると何でも良く、というかコレを言っても父親はガン無視で「ムーブムーブ!」と繰り返してきた。うっとおしい!!
🐈⬛
現在。
夜ご飯として買ったお惣菜のコロッケを温め直そうと、グリルにコロッケを乗せて閉め、火を付ける。すると一瞬だけ、「あの時のヒーターの匂い」がふわっと鼻を通り、「あぁ…実家キタ……」と昔を思い出してエモくなる。
エモいパワーで僕の体は小学生に戻り、気がつくとヒーターの前で丸くなっていた。近くで誰かが「ムーブムーブ!」と言っているが、転がされる事はない。まずい。。
ここで僕の子供が駆けつけて、僕が仕事で履いた靴下の匂いを無理やり僕に嗅がせてくる。僕はだんだん元の大人の姿に戻り、我に返って、ついでにグリルのコロッケもひっくり返す。
ありがとうマイサン。そう、これは僕が毎回泣く、「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」の名シーンだ。
もしかして、と僕は思った。
もしかして、独身だったかもしれねェ…
以上、思い出と妄想の話でした。
僕に子供が出来たら、ドラえもんとかクレヨンしんちゃんとかの映画を親子で見て、「親に向けて刺してくるシーン」でしっかりと刺さって泣く、というのがちょっと夢だ。「ねぇパパ、なんで泣いてるの?泣くところあった?」「うん、お前もいつかわかるよ。」
冬の朝。きっと僕は、猫みたいに動かない子供に対して、言うだろう。僕の父親から受け継いだ言葉……ではなく、アルファベットひとつ加えて。
聖なる箱(映画館)へ連れて行って!!
おわり